用途に応じて選ばれる、日本のパトカー事情

日本で使用されるパトカーは特別に開発された車種ではなく、市販車をベースとしているのが一般的だ。代表的なのはトヨタ「クラウン」で、長年にわたり全国の交番や警ら用パトカーとして採用されてきた。ほかにも「マークX」やスバル「レガシィ」、地域によってはトヨタ「プリウス」など燃費に優れた車種も導入されている。
高速道路交通警察隊のように高い動力性能が求められる現場では、日産「フェアレディZ」や「GT-R」、スカイライン、ホンダ「NSX」、レクサス「LC500」といった高性能車が一部で採用・運用されている。
つまり、パトカーといっても一括りではなく、街中を巡回する一般パトカーと、高速道路や特殊任務に使われる車両ではベース車種から大きく異なるのだ。
パトカーはどうやって調達される?
パトカーがどのように警察に配備されるかについても、仕組みは一つではない。国の予算による一括調達(国費)と、都道府県の予算による個別調達(県費)があり、さらに民間からの寄贈で配備される例もある。
国費による調達は、国の予算をもとに行われるもので、高速道路交通警察隊や広域機動警察隊、さらには警視庁や各道府県警本部直轄の部隊で使われる車両が該当する。無線警ら車や交通取締用車両(覆面パトカーを含む)、さらには白バイなど、全国的な治安維持や交通取り締まりに不可欠な車両が国費でまかなわれているのだ。
県費による調達は、各都道府県の税金によって行われる。地域に密着した活動を担う交番や駐在所に配備されるミニパトカーや、事件捜査に使われる捜査車両などがこれにあたる。地域ごとの実情に応じて導入されるため、より生活に身近なパトカーは県費でまかなわれる場合が多い。
そして三つ目が寄贈である。これは個人や企業、団体などが車両や購入費用を寄付するケースで、特にスポーツカーや高級車をベースにしたパトカーは寄贈によるものがほとんどだ。たとえば栃木県警に配備されたレクサス「LC500」や日産「GT-R」、三重県警のホンダ「NSX」はその代表例だ。寄贈パトカーは実戦投入されることもあるが、交通安全イベントや広報活動に使われることが多く、地域社会への貢献の一環としても注目されている。
パトカーの調達は、国税・地方税・民間寄付という三つの財源から成り立っており、その背景には警察活動の性質や地域事情が反映されている。
気になるパトカーの価格事情、装備次第では数百万円の差

パトカーの価格は、ベースとなる車両と追加される装備によって大きく変わる。装備は赤色灯やサイレン、無線機、専用スイッチ、白黒塗装など警察業務用装備を追加する必要があり、この架装により数十万〜数百万円の費用が上乗せされる。
もっとも一般的なのは、交番や警らに使われるクラウンのパトカーである。ベース車両はおおむね300〜400万円で、装備を加えると350〜450万円ほどで導入されることが多い。
一方、高速道路での追跡や取り締まりに用いられる車両は、事情が異なる。日産「スカイライン」や「フェアレディZ」といったスポーツモデルが中心で、耐久性を高めるための改造も施される。そのため価格は600〜800万円以上に達し、クラウンの警ら車と比べると倍近いコストが必要だ。
さらに特殊なケースとして、防弾仕様や覆面仕様のパトカーがある。外見は一般車と変わらないが、内部には無線機や通信機器が組み込まれ、要人警護に使われる車両には防弾加工も施される。このような特殊装備が加わると価格は1,000万円を超えることも珍しくない。
つまり、パトカーの価格帯は幅広く、用途によって大きな差が生まれる。街中で見かけるクラウンの警ら車と、高速道路を疾走するスポーツタイプ、さらには特別な防弾車両とでは、まったく別のコスト構造を持っているのである。
海外のパトカー事情と価格の違い

日本のパトカーの場合、一般的なパトカーであれば約350〜450万円ほどかかっているが、海外の事情はどうだろうか。
アメリカではフォード「ポリス・インターセプター・ユーティリティ」やダッジ「チャージャー・パシュート」といった専用モデルが主力で、価格は3万〜5万ドル。日本円にしておよそ400万〜700万円で、大量配備を前提に整備性や部品供給のしやすさが重視されている点が特徴だ。
ドイツではアウトバーンの高速交通に対応するため、BMWやメルセデス・ベンツ、アウディといった高性能車が警察車両として導入される。価格は600万円から1,000万円を超えるケースも多く、日本のクラウン型パトカーと比べると高額である。
イタリアではランボルギーニ「ウラカン」といったスーパーカーが警察仕様として採用されることがある。ただしこれは寄贈や広報活動を目的とする側面が強く、実際の業務で活用される機会は限られる。それでも数千万円クラスの車両が警察カラーをまとって公道を走る姿は、国のイメージ戦略や交通安全啓発の一環として強いインパクトを放つ。
このように、道路環境や治安事情、警察組織の役割によってパトカーの仕様や価格は大きく異なる。コストと信頼性を重視して実用性の高い車を選ぶ日本に対し、海外では性能やブランドイメージを前面に押し出す傾向にある。
用途も価格もさまざま、それぞれの街を守るパトカー
パトカーは市販車に警察活動用の装備を加えた特別仕様車であり、配備される地域や任務によって価格が大きく異なる。街中の巡回、高速道路での追尾、要人警護といった用途に応じて、それぞれに適した仕様が選ばれている。
海外に目を向ければ、日本の実用重視とは対照的に、各国の事情や価値観がそのまま車両の姿に表れている。価格の幅は単なる装備差ではなく、治安維持に求められる性能や社会的要請の違いを反映した結果だ。