原付の二段階右折が必要な理由と制度化の背景

日本の道路交通法では、排気量50cc以下の第一種原動機付自転車、いわゆる原付は交差点での右折に特別なルールが設けられている。それが二段階右折である。
1986年に法令化されたこの仕組みは、当時増加していた二輪車の交差点事故を抑えるために導入された。速度制限30km/hの原付が、クルマと同じように交差点中央から右折することは危険が大きいと判断され、直進と同じ動線を使い二段階で右折する方法が義務付けられたのだ。

まず、交差点の約30m手前で右ウインカーを点灯し、左端を直進する。交差点を渡りきった場所で一旦停止し、車体の向きを変え、対向する信号が青になったら再び発進する。つまり、2回の青信号に従って右折を完了させる仕組みである。これに違反すると「交差点右左折方法違反」となり、違反点数1点にくわえて、反則金3000円が科せられる。
ただし、すべての交差点で二段階右折が必要なわけではない。道路交通法第34条によれば、原則として片側3車線以上の交差点、あるいは「原動機付自転車の右折方法(二段階)」の標識がある場合に限られる。
一方で、「小回り右折」を指示する標識があれば普通二輪と同じように中央から右折する。また、信号機がない交差点や警察官の手信号で整理されている交差点も例外である。
自転車や電動キックボードとの違い

最高速度30km/hの制限が長らく続く原付に対し、2023年7月の改正道路交通法では新たに「特定小型原付」という区分が設けられた。これは、最高速度20km/h以下、長さ190センチメートル以下、幅60センチメートル以下などの条件を満たす車両は運転免許不要で走行できるというものだ。
そして、この特定小型原付も交差点では二段階右折が原則とされており、しかも原付のように例外規定は設けられていない。したがって、原付と同様にすべての交差点で二段階右折をする必要がある。

さらに、自転車も二段階右折をおこなう必要があるモビリティだ。自転車も、右折レーンに進入することは危険かつ困難であるため、交差点を直進して停止し、向きを変えてから再出発する方法がとられている。ただし、道路交通法上は「軽車両」に分類されるため、二段階右折という用語自体は使われていない。とはいえ、実際は二段階右折と同様の動きを取ることになる。
なお、二段階右折に対して、原付ユーザーからは「面倒だ」「かえって危ない」という声も少なくない。しかし、交差点事故の多発を背景に導入された経緯を踏まえれば、命を守るための仕組みであることは明らかである。二段階右折を正しく理解し、場面ごとに適切な方法を取ることが、安全な交通環境を維持する第一歩となるのだ。
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二段階右折は原付特有のルールであるが、自転車や電動キックボードにも大きく関連している重要な交通マナーである。電動キックボードをはじめとする特定小型原付の普及が広がる今こそ、利用者には正しい知識を持つことや、安全に走行することが求められているのだ。