原付30km/h規制が残り続ける理由とは

最高速度30キロ制限の標識
1960年代にできた制度が今もなお使われている。

街中を走っていると、原付がクルマの流れに乗れず後続車に追い抜かれる場面を見かけることは少なくない。実際に乗った経験がある人の中には「なぜ制限速度が30km/hのままなのか」と疑問を抱いたことがあるという声もある。

現在、第一種原動機付自転車は排気量50cc以下のモデルを指し、道路交通法で最高速度30km/hに制限されている。この数値は1960年代に定められ、以降半世紀以上にわたり維持されてきた。しかし、今日では交通量も増加し、自動車の性能も飛躍的に向上している。そのため、原付が車列から遅れ、速度差が事故リスクを高めるのではないかという指摘も根強い。

利用者の間でも「現実に合っていない」「かえって危ない」との声が繰り返し聞かれてきた。それでも、規制が据え置かれているのは、安全思想と制度設計の一体性に理由がある。

国土交通省や警察庁の資料によれば、原付は「低速小型車両」として位置づけられ、免許制度、保安基準、速度制限が一体で構築されてきた経緯がある。

30km/hという数値自体は、事故時の被害を抑えることや、交差点進入時に安全を確保することを目的として設けられた。つまり、単なる数字ではなく、「低速であることが前提の車両」という安全思想の象徴ともいえる。

法改正をするとこのような標識もすべて変更しなければいけない。

また、この規制は道路標識や交通規制の体系とも強く結びついている。取り締まりや免許制度もすべて30km/hを基準に設計されており、速度制限だけを切り離して変更すると制度全体の整合性が崩れるおそれがある。

そのため、仮に速度を40km/hや50km/hに引き上げるとすれば、免許制度の改正、車両規格の見直し、交通規制や標識の再設計といった大規模な改革が必要になる。結果的に「簡単には動かせない仕組み」として残り続けているのである。

2023年に道路交通法が改正され特定小型原動機付自転車が導入された。

一方で、制度が完全に停滞しているわけではない。2023年には道路交通法が改正され、新たに特定小型原付の区分が導入された。これは最高速度20km/hの電動キックボードなどを想定した枠組みで、16歳以上なら免許不要で利用できる。

この新制度の登場により、第一種原付の30km/h規制がより際立つ形となった。性能的に30km/hで走り続けること自体は可能だが、現実の交通環境とのギャップは縮まらない。

ただし、規制の見直しは単純に数値を変えるだけでは済まない。原付の存在意義や役割を再定義し、社会的合意を経て免許制度や区分そのものを再構築する必要がある。

現状では標識による速度指定や経路の選択といった部分的な運用改善で対応しており、抜本的な解決には至っていない。

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原付の30km/h制限は、利用者の利便性よりも安全を最優先する思想に基づき、制度全体と結びついた形で維持されてきた。交通環境との乖離は否めないものの、数値だけを切り離して変更することは難しい。

制度の大幅な見直しが進めば、将来的に規制が変わる可能性もあるが、当面は現行の30km/h制限が続くとみられる。つまり、この制限は古い数値ではなく「制度と安全思想の象徴」として残されているのである。