商用車の電動促進化事業
地球温暖化対策としてEV化が進められる昨今、日本でも環境省が「商用車の電動化促進事業」を展開。事業者が電動化(BEV、PHEV、FCV※)された商用車(トラック・タクシー・バス)及び充電設備の導入する際に補助金が適用される。

しかし、国産では軽自動車の三菱ミニキャブEV(日産クリッパーEV)、ホンダNバンe:とトラックの三菱ふそうeキャンターがある程度で、トヨタ・タウンエースや日産NV200、トヨタ・ハイエースや日産キャラバンといった普通車クラスのモデルは無く、一部の業者が輸入モデルを展開している程度だ。

BEVで日本市場に活路を求める韓国自動車メーカー
一度は日本市場から撤退したヒョンデはBEVのアイオニック5を擁して日本市場に再参入。国産メーカーのBEVラインナップの弱さの間隙を突く形で根強くアピールを続け存在感を高めている。

そのヒョンデとはグループ企業となるキアも、現在は欧米を中心にBEVラインナップを拡大している。しかし、キアブランドとしては初の日本正規進出にあたり、BEV市場の規模、キアブランドの知名度の低さ、ヒョンデとのバッティングを避ける、といった点から商用バンのみを展開する。

また、キア自身が日本法人を立ち上げるのではなく日本の総合商社・双日をパートナーとしてKia PBVジャパン株式会社を設立して販売にあたる体制を採っている。この「PBV」とは「Platform Beyond Vehicle」のことで、同社初の専用EVバン用プラットフォームだ。このPBVで商用EVのラインナップを揃えていくことになる。
主力モデルとなる「PV5」
このキアのPBV第1弾となるのが「PV5」だ。商用車のEV化が積極的に推し進められるヨーロッパではすでに各国で市販モデルが発表されており、今回、改めて各国からのメディアを集めたイベント「Kia Discovery Drive」が韓国で実施され、実車がお披露目された。

PV5は全長4695mm×全幅1895mm×全高1899mm(アンテナ込み1923mm)×ホイールベース2995mmと、ハイエースのワイドボディ×標準ルーフに近いサイズ感。ただし、EVらしくホイールベースは全長に対して長い。

PV5はボディをモジュラー構造としており、共通プラットフォームにさまざまなボディを架装することでユーザーの用途に合わせたモデルを提供することができるのが特徴となっている。大枠としては貨物車の「カーゴ」と、乗用車の「パッセンジャー」に分けられる。

カーゴではパネルバンやクルーバンはもちろん、冷蔵・冷凍車、オープンベッド(トラック)など、パッセンジャーではキャピングカーや車椅子対応の福祉車両、ラグジュアリーモデルも想定され、現状では16パターンのボディ構成が設定されている。これらは世界120社の配送業社など、多くの想定ユーザーの意見や要望をヒアリングして開発しているという。実際に納車されて実用を重ねるまではわからないが、キアのPV5に掛ける意気込みが感じられる。

2025年の段階ではパッセンジャーとカーゴ(ロング)のラインナップだが、2026年にはカーゴ(スタンダード)、2027年にはカーゴ(ハイルーフ)の追加も予定されているようだ。

長期的なブランディングと積極的な展開を目指す
Kia PBVジャパンは2026年春予定のPV5の販売開始を前に、2025年10月29日から始まる『ジャパンモビリティショー2025』に出展。PV5の実車を4台展示するという。その際に価格も発表される見込みだ。
ヨーロッパ(例:ドイツ)ではカーゴが3万3000ユーロ(約585万円)、パッセンジャーが3万8000ユーロ(約638万円)だが、Kia PBVジャパンでも日本での価格設定には悩んでいるようだ。このクラスのEV商用バン市場がほぼ皆無な現状では、PV5の価格設定が今後の目安になるかもしれない。

Kia PBVジャパンによると、2026年の目標販売台数が1000台。配送業社やタクシーなどのBtoBを中心にカーゴで60%程度を想定する一方、ペットオーナーやキャンピングカーなどでBtoC=個人需要も見込んでいる。

商用バンと乗用車では市場が異なるとはいえ、同じグループであるヒョンデの販売台数は2023年489台、2024年が607台にとどまる。2025年春に低価格モデルの「インタスター」を投入して、目標販売台数の1000台を目指している現状だ。

そのような状況下での目標販売台数1000台というのはなかなかにチャレンジングな印象も受ける。しかし、総合商社である双日との協業ともなれば、すでに大手配送業社などと内々で導入の話が進んでいても不思議ではない。

とはいえ、導入にあたっては車両価格や助成金などの導入経費に加え充電施設なども含めたイニシャルコスト、さらにはメンテナンスやパーツ供給などのサービス体制も重要になってくる。まだ正式に発表されていないが、どれほどの規模でどのような体制を整えられるのかがKia PBVジャパンとPV5の成功の鍵を握ることになるだろう。

キアは今後はPV5に続いてより大型のPV7を2028年に、さらに時期は未定ながらさらに大きなPV9、逆に小型のPV1もラインナップに加える予定のようだ。これらが日本に導入されるかは全くの未定だが、Kia PBVジャパンとPV5の成果次第ということになるだろう。

なお、キアとしては2025年にPV5を13万5000台、2027年以降はさらにPV7とPV9で11万5000台、2030年までに合計で25万台を販売して、EV商用バンのナンバーワンを目指しているという。PBVはEV専用プラットフォームであることに自信を見せてはいるものの、競合他社も急速に商用EVのラインナップを強化しつつある状況下で、キアはどこまで躍進できるだろうか?

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