重なる税と止まった仕組み

いつからか、ガソリンスタンドで160円台の表示を見ても驚かなくなった。かつては「高値」と感じられた水準が、いまや“普通の価格”として定着している。
では、原油相場が落ち着いても価格がなかなか下がらないのはなぜか。そもそも、ガソリンの店頭価格には、原油や為替といった国際的要因だけでなく、複数の税が重なっている。
財務省によると、ガソリン税は国税である揮発油税と、地方税である地方揮発油税から成り立つ。本則税率は28.7円で、これに「当分の間税率」として25.1円が上乗せされ、合計53.8円が課されている。
さらに、この税額にも消費税がかかるため、結果的に「税に税をかける」二重構造になっている。この重層構造こそが、ガソリン価格の下がりにくさを生み出す最大の要因である。
当分の間税率は、もともと道路整備財源の確保を目的とした暫定的措置として導入された。しかし、延長を繰り返すうちに実質的な恒久税化が進み、いまでは制度の一部として定着している。
暫定税率の詳細については別稿に譲るが、重要なのはこの税の仕組みが「価格の底」を固定している点にある。
たとえば、25.1円分が仮に廃止された場合、消費税を含め約27円の下落が見込まれる。それでも制度が維持されるのは、年間1兆円超の税収が国と地方財政を支えるからである。このように、税の構造そのものが価格の下支えとなっている。
一方で、価格を一定の範囲で抑えるための仕組みも存在している。それが「トリガー条項」である。
これは、ガソリン価格が1リットルあたり160円を3か月連続で超えた場合に、当分の間税率の課税を一時的に停止する仕組みである。逆に130円を3か月連続で下回った際には再課税を再開する。
制度としては、価格高騰時に自動的に負担を軽減する“安全弁”の役割を担っていた。ところが、2011年の東日本大震災後、この条項は凍結されたままである。
国税庁の資料によると、発動時に在庫調整の混乱や地方財源の減少が懸念されたため、適用停止の特例法が制定された。参議院の「立法と調査」でも、発動時の事務負担や租税法律主義上の制約が指摘されている。
その結果、ガソリン価格がどれほど上昇しても自動的に減税が発動することはなく、制度上の安全弁は外された状態が続いている。
現在の価格形成では、原油価格が落ち着いても税構造が硬直しているため、値下がりの余地は限られている。補助金政策による一時的な緩和策があっても、制度自体を見直さない限り根本的な改善には至らない。つまり、ガソリン価格の問題は市場ではなく、仕組みの問題である。
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トリガー条項が再び動けば、負担軽減の第一歩となる。物流や流通のコストにも波及し、最終的には物価全体の安定にもつながる可能性がある。
「高止まり」が続く現状を変えるには、止まった仕組みをどう動かすかが鍵になる。



