“手袋入れ”が語源だった「グローブボックス」

グローブボックス(glove box)とは、その名の通り「手袋を入れる箱」を意味している。この呼び名が生まれたのは20世紀初頭、まだ自動車に屋根がなかった時代にさかのぼる。
当時の車はオープンボディが主流だった。
走行中は風や砂ぼこりが直接ドライバーに当たってしまうため、運転中は防寒・防塵のためにドライビンググローブ(革手袋)を着用するのが一般的だったのだ。
そして、その手袋を使わないときに収納しておくための箱こそが、グローブボックスの起源である。
その後、車が進化しクローズドボディ(屋根付き車)が主流になると、もはや走行中に手袋を使う必要はなくなった。しかし、一度定着した収納スペースは便利だったため、手袋入れから小物入れへと役割を変えながら現在まで残ったのだ。
やがて車検証や書類、ペン、懐中電灯などを収納するスペースとして活用されるようになり、現代では車内収納の定番ポジションとして定着した。
高級車の象徴だったグローブボックスは、進化した収納空間へ

1920年代から1930年代にかけての高級車では、グローブボックスは単なる収納ではなく、インテリアの一部として重視されていた。内装に本革や木目調パネルを用いるなど、デザイン面でのこだわりが随所に見られたのである。
一部のモデルでは時計や鏡、照明が付属しており、上質さを演出する装備としての役割も果たしていた。グローブボックスは、単なる実用品を超えて「車内の格式」を象徴する存在だったといえる。
グローブボックスの歴史をたどると、単なる収納スペースではなく、車という存在そのものの変化を映し出していることがわかる。
誕生当初は「外の風と戦うための道具」をしまう場所だったが、時代が進むにつれて快適さを追求する空間へと役割を変えていった。
1950年代以降、車が一般家庭に普及し始めると、グローブボックスにはマップや懐中電灯、飴など、家族の日常を支える小物が入るようになった。
現代の車では、USB電源や冷却機能、照明などが組み込まれ、デジタル時代のライフスタイルにも対応する。もはやグローブボックスに手袋を入れる人はほとんどいない。
それでも“グローブボックス”という名前が使われ続けているのは、車がまだ「外の風を感じながら走る乗り物」だった時代の名残である。
100年以上前に生まれた“手袋入れ”という発想が、いまも車のインテリアとして受け継がれているのは、実にロマンのある話だ。
