電車の車内広告が上に集まる理由は、視線がつくる配置にあった

ドア周辺にもさまざまな情報が掲載されている。

電車の車内をよく観察すると、天井から吊られる中づり、窓上の帯広告、ドア上の情報モニターなど、広告が占める位置は驚くほど似通っている。

実はこれは偶然ではなく、混雑する環境で「見える場所」を確保し続けた結果だという。とくに、満員電車では人の肩や頭が大きな壁となり、腰の高さに近い掲示物はすぐに隠れてる。

ラッシュ時には特に顕著で、つり革より下の位置は人の身体で覆われ、わずか数歩離れただけで視界から消えることも珍しくない。こうした状況で安定して視線を得られるのは、人の頭より上の高さだけになる。

そんななかで中づり広告が中心的な存在であり続けるのは、この「視界の抜ける高さ」に収まっているためである。立ち客は、自然とつり革周辺の高さで視線を動かすため、中づり広告は常に視界の通り道に位置する。

満員電車の写真
特に朝夕は身動きが取れなくなるほど満員で、顔を動かすのも苦労することだろう。

一方、座席に座った乗客にとっては、前方を少し見上げた位置にある窓上の細長い広告が最も目に入りやすい。立っても座っても視界に触れるという意味で、上部の広告面は非常に効率が高いというわけだ。

また、これには車内デザインの変化も影響している。近年の車両は室内灯や空調ユニットが天井付近に集約され、側面の壁には大型窓や荷棚が占める割合が増えた。

その結果として、乗客の身体に隠れない「安定した掲示面」が自然と上部に集まっていった。車両の構造そのものが、広告の配置を後押ししているとも言えるだろう。

路線図の他にも、さまざまな企業の広告が貼り出されている。

さらに、ドア上の案内モニターが視線の流れをつくる点も見逃せない。乗り換えや停車駅の情報を確認しようとすると、多くの人がドア付近に視線を向ける。

そして、そのモニター横に広告が表示されれば、案内を見るついでに繰り返し接触することになる。日々の移動の中で、自然と何度も目に入っている仕組みが成立しているのだ。

また、デジタル広告が増えたことで、上部の存在感はさらに強まった。紙の中づりと違い、動画や動く文字が流れるモニターは乗客の視線を引きつけやすく、車内の「視線の中心」としての役割を固定したのである。

電車内でスマホを見ている人の手の写真
ふとした瞬間に顔を上げると視界のどこかしらに広告が飛び込んでくるだろう。

一方で、スマートフォンが普及した現代では「みんな下を向いているのに、広告は上で大丈夫なのか」と思う人も少なくないかもしれない。

しかし、乗客はスマートフォンだけを見続けているわけではない。通知を確認したり、周囲の混雑を確かめたり、乗り過ごし防止のために駅名を確認したりと、顔を上げる瞬間は意外と多い。その一瞬の視界の中に広告があるという配置が、上部の優位性を保っているのだ。

このように、人の身体がつくる死角、座席と立ち位置の目線差、車両デザインの変化、デジタル表示の普及、そしてスマートフォン時代の視線の習慣まで踏まえた結果、広告の配置は自然と上へ集約されていった。

何気なく見上げているあの光景は、多くの制約の中で「もっとも見られる位置」を追い続けた車内広告の答えなのである。

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車内広告が上部に集まる背景には、混雑する都市交通で視線を確保するための積み重ねがある。毎日の通勤で見上げるその配置は、環境と視線の動きを読み切った合理的なデザインといえるだろう。¥