出口のブラックアイスバーンと一酸化炭素中毒の恐怖

雪の日のトンネル
この先は雪がほぼない状態の道路になるが、安心しきってはいけない。

本格的な冬を迎え、寒波の影響により各地で厳しい冷え込みが続いている。冬の高速道路において、ドライバーにとってトンネルは一種の「安息の地」と感じられがちだ。

吹雪が遮断され、路面に雪がないトンネル内では緊張感が緩み、つい速度を上げてしまうこともなくはない。しかし、この心理的な油断こそが、重大な事故を引き起こす最大の要因となる。

トンネル出口の写真
一見濡れているだけに見えるが、実は凍っていることも。

NEXCOや警察庁が特に警戒を呼びかけているのが、トンネル出口付近での「ブラックアイスバーン」によるスリップ事故である。

トンネル内部は地熱や車両の排熱で気温が下がりにくく、路面は乾燥していることが多い。一方で、出口付近は山間部特有の強風や放射冷却にさらされ、路面温度が極端に低くなっている。

トンネル内でタイヤに付着した水分や融雪水が、出口の冷気で瞬時に凍結し、アスファルト表面に薄い氷の膜を形成する。

これがブラックアイスバーンであり、一見すると濡れているだけの黒い路面に見えるため、目視での危険察知は極めて困難である。

乾いた路面の感覚で出口へ飛び出し、操作した瞬間にコントロールを失い、側壁に衝突するのが典型的な事故のパターンだ。

そして、冬のトンネル事故において物理的な衝突以上に恐ろしいのが、事故後の「空間の密室化」である。

先頭車両がスリップし、後続車が次々と追突する多重事故が発生した場合、トンネル内は逃げ場のない閉鎖空間となる。ここで致命的な危険因子となるのが、滞留する排気ガスによる一酸化炭素中毒である。

トンネル内に設置してある排煙機構の写真
事故で排煙装置が止まってしまった場合最悪の事態になりうる。

通常、トンネルには換気ファンなどの設備が整い、空気の循環が行われている。しかし、事故で多数の車両が立ち往生し渋滞が発生すると、換気が追いつかず、局所的に排ガス濃度が急激に上昇する。

特に冬季は暖房のために全車がエンジンをかけ続けるため、排ガスの総量は増加する傾向にある。

一酸化炭素は無色無臭でありながら極めて強い毒性を持ち、血液が酸素を運ぶ能力を奪うため、低濃度でも長時間吸い続けると意識障害を引き起こし、最悪の場合は死に至る。

換気機能が追いつかないほどの排ガスが充満すれば、車内に留まっているだけでも命の危険があるのだ。

こうした「地獄の密室」リスクがあるトンネル内で事故に遭遇した場合、ドライバーが取るべき行動は明確に定められている。

前方の事故や渋滞を確認したら、ハザードランプで後続車に合図を送り、可能な限り左側に寄せて停車する。そして、もっとも重要な行動が「エンジンを直ちに停止すること」である。

これは燃料節約のためではなく、トンネル内の酸素消費を抑え、有毒な一酸化炭素の発生源を断つための必須措置である。もし火災が発生したり、身の危険を感じて避難が必要になった場合は、クルマを置いて脱出する判断が求められる。

この際、絶対に守らなければならないルールが、「キーを車内に残したままにする」ことだ。スマートキーの場合はダッシュボードの上など、外から見えるわかりやすい場所に置く必要がある。

非常出口の写真
避難の場合には非常出口を目指そう。

避難する際は、壁面の「非常口」までの距離表示を確認し、火災の煙が流れてくる方向とは逆に向かって移動する。

長いトンネルには数百メートルおきに非常電話や非常口が設置されており、反対側のトンネルや避難坑へ逃げられる構造になっている。

冬のドライブにおいて、トンネルは単なる通過点ではなく、状況が一変する境界線である。入口と出口で路面状況が劇的に変化する「罠」が存在し、ひとたび事故が起きれば有毒ガスが充満する危険地帯となることを強く認識したい。

出口手前では「凍っているかもしれない」と疑って減速し、万が一の停止時にはためらわずにエンジンを切るという判断が、自分と周囲の命を守ることにつながる。

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冬のトンネル事故は、出口の凍結と閉鎖空間でのガス中毒という二重の脅威をはらんでいる。 「出口手前での十分な減速」と「停車時の確実なエンジン停止」は、自分だけでなく周囲の命を守るための絶対条件である。