空気が薄くなると性能が低下する。標高と馬力の密接な関係

自然吸気エンジンは、標高の高い場所で走行すると本来のパワーを発揮できない。

車のエンジンにとって酸素は生命線だ。ガソリンエンジンは燃料と空気を混合して燃焼させることでパワーを生み出す仕組みになっている。ところが、標高が高い場所では空気中の酸素濃度が低下するため、エンジンが本来のパワーが発揮できないのだ。

例えば標高2,000メートルでは、海抜0メートルと比較して大気圧が約80%まで低下し、同じ体積の空気に含まれる酸素量も同様に減少する。

これが車のパワーダウンを引き起こす主な原因だ。自然吸気エンジンの出力は、標高1,000フィート(約305メートル)上昇するごとに、約3〜4%低下するとされている。標高1,000メートルの高地では、同じ車でも海抜0メートルと比較して10%程度のパワーロスが発生する計算だ。

さらに、標高の高い状況の環境では、エンジンが必要な出力を得るためにより多くの燃料を消費するため、燃費悪化も引き起こす。多くのドライバーが高地でアクセルペダルを踏み込む機会が増えるのはこのためだ。

過給機搭載エンジンが有利?自然吸気エンジンとの標高による影響差

スーパーチャージャーを搭載したエンジンは標高が高い場合でも、ある程度までは酸素不足を補うことができる。

全てのエンジンが同じように標高による影響を受けるわけではない。ターボチャージャーやスーパーチャージャーを搭載したエンジンと、NA(自然吸気)エンジンでは、高地で低下するパフォーマンスの度合いに大きな差がある。

タービンを回して圧縮した空気をエンジンに送り込む、過給機を搭載したエンジンは、標高が高くなり、空気密度が低下した場合であっても、回転数を上げることで空気の圧縮率を高め、ある程度までは酸素不足を補うことができる。

一方、NAエンジンは大気圧のみに依存しているため、高地でのパワーロスがより顕著に表れる。高地のような環境下で排気量が同様の場合、ターボエンジン搭載車の方が明らかに有利だ。

近年、多くの自動車メーカーが小排気量ターボエンジンの開発に注力しているが、燃費や排出ガス規制への対応だけでなく、低出力の軽自動車などの高地性能確保もその理由の一つとされている。

高地でも影響を受けにくいモーター。EV化が切り開く高地走行の可能性

EV車両は、理論上標高によるパワーロスがない。

標高変化の影響は、内燃機関を搭載した車に限った話ではない。電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)など、異なるパワートレインを持つ車種でも興味深い違いが見られる。

PHEVやHEVは、エンジン走行時には標高の影響を受けるが、モーター走行時には影響が少ないというハイブリッド的な特性を示す。

一方、完全にモーターで駆動するEVの場合は、そもそも空気を必要としないため、理論上は標高によるパワーロスがない。特性上、モーターは空気を必要としないため、理論的には標高の影響をほとんど受けない。これはガソリン車が標高3,000メートルでおよそ30%も出力が低下するのと比較すると、大きなアドバンテージだ。

ただし、バッテリーの冷却効率は高地の低温環境で低下する可能性があり、空気抵抗の変化も走行距離に微妙な影響を与えることがある。しかし、従来のガソリン車と比較すると、モーターを利用して走行する車両が圧倒的に有利な状況だ。

標高を感知して出力低下の抑制が可能に。進化する車の電子制御技術の今

自動車メーカーやエンジン開発者たちは、標高による性能低下問題に対して様々な技術的解決策を開発している。

現在の量産車のエンジン制御システム(ECU)は、マニフォールド圧力センサーやバロメトリックセンサーを標準装備し、大気圧の変化を検知して燃料噴射量や点火タイミングをリアルタイムで調整している。これにより、標高の変化に伴う空気密度の低下をある程度補正することが可能となった。

INFINITI VC-Turbo engine

技術的進歩の一例として、日産自動車が2016年に量産化した可変圧縮比エンジン「VC-Turbo」がある。この技術はエンジンの圧縮比を8:1から14:1の間で連続的に変化させることができ、高地走行時には圧縮比を最適化して燃焼効率を維持する。ターボエンジンと組み合わせることで、標高による出力低下をさらに抑制可能だ。

また、電子制御式ウェイストゲートを採用した最新のターボチャージャーも進化し、標高や走行状況に応じてブースト圧を精密に制御し、高地でもより安定した出力を実現している。メルセデス・ベンツやBMWなどの国外高級車メーカーは、こうした高度な電子制御ターボシステムを積極的に採用している。

さらに、ハイブリッドシステムを活用したアプローチも注目されている。エンジン出力が標高によって低下しても、電気モーターがアシストすることで総合的な駆動力を維持する方法だ。トヨタやホンダのハイブリッド車は、高地走行時にもこの特性を生かした走行が可能となっている。標高の影響を受けにくいモーター駆動の特性を生かしたアプローチと言えるだろう。

このような技術の登場により、現代の車は以前と比較して標高変化に対する適応能力が大幅に向上した。このような技術の発展はもちろん、EVやPHEVなどの先進車の普及が進む現代において、大気圧の変化による性能低下の課題は、過去のものになりつつあるのかもしれない。