バイクの「すり抜け」行為は厳密には違反ではない

バイクはコンパクトな車体と加速性能を活かし、都市部の移動や狭路での走行に強みを持つ。その機動性の高さゆえ、渋滞時や信号待ちの際にクルマの列の間をすり抜けて、先頭に出る場面を目にすることも少なくない。
そして、交差点や片側複数車線の道路では、停車中のクルマの間を縫うように走行するバイクが後方から現れ、停止線付近まで進んでいく姿がよく見られる。このような「すり抜け」行為は、特に都市部の渋滞や信号待ちの場面で、頻繁に目にする光景と言えるだろう。
クルマとクルマの隙間を縫うように前方へ進むその走行スタイルは、バイク特有の機動性を象徴する動きともいえる。
そして、「すり抜け」は、危険な行為として否定的に捉えられかねない。しかし、実は厳密に違反とされるわけではないという。
その理由は、道路交通法において「すり抜け」という行為そのものを直接禁止する条文が存在しないからである。もちろん、法令全体の中では「安全運転義務」(第70条)や「車間距離保持義務」(第26条)などが定められており、すり抜けの仕方や状況によっては、これらの条項に抵触すると判断される可能性がある。
たとえば、「すり抜け」中に歩行者と接触した場合や、無理な割り込みで他車の進路を妨害した場合は、明確に違反行為となる。もしも対向車線にはみ出せば「通行区分違反」、停止中の車両の間を蛇行するような走行であれば「危険運転」に問われるケースもあるだろう。
つまり、「すり抜け」という行為そのものに違反の定義はない。しかし、それが原因で周囲の安全を脅かした場合は、法的責任が問われるというわけだ。
あくまで“違反ではないが、リスクの高い行為”であるというのが正確な位置づけであり、すり抜けの可否は状況次第ということになる。交通の流れを読んだ慎重な判断と、周囲への十分な配慮が求められる行為であることに変わりはない。
「すり抜け」行為を重点的に取り締まった事例も
しかし、2025年4月には大阪・御堂筋で「すり抜け」の大規模な取り締まりがおこなわれた。御堂筋は、大阪市内でもとくに交通量が多く、片側複数車線が続く幹線道路として知られている。
このような道路では信号待ちによる渋滞が常態化しており、バイクが停車中のクルマの間を縫って前方へ進む「すり抜け」が日常的に見られる状況にある。しかし、「すり抜け」行為には明確な危険性があるとされ、警察は事故の未然防止を目的に取締りを強化したという。
この取り締まりの背景には、「すり抜け」行為が事故の温床となりうること、そして他の車両や歩行者に予測不能な挙動を強いる点が挙げられる。とくに、都市部のように視界が限られ、交通の密度が高い場所では、「すり抜け」は単なるマナーの問題にとどまらない。
違反ではないという法的グレーゾーンを盾にせず、状況を正しく見極めた慎重な判断が、ライダー自身と周囲の安全を守る鍵となる。御堂筋での大規模取り締まりは、その象徴的な一例だろう。
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このように、「すり抜け」は、厳密には道路交通法に違反していない。しかし、クルマとクルマの隙間を通る際には、突然のドア開閉や歩行者の横断、周囲の車両の動きなど、さまざまな危険が潜んでいる。わずかな判断ミスが重大な事故につながるおそれがあり、リスクの高い走行であることは明らかだ。
ライダーには、「違反ではないから大丈夫」ではなく、「危険を避けるためにどう行動すべきか」を常に考えた運転姿勢が求められる。



