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自動車の燃費性能を見るときは、まずモード燃費を確認する。現在のモード燃費は「WLTCモード」である。WLTCとはWorldwide harmonized Light vehicle Test Cycleの略で、国連の自動車基準調和世界フォーラム参加国によって合意された統一パターンを使用する。JC08モードに較べ、冷間スタートからの走行や加速度の向上、アイドリング時間の短縮などによって、より実燃費に近い数値になっている。また、計測値が4パターン(総合/市街地/郊外/高速)に分けて記載されているから、使用形態別に実燃費を推定しやすくなっている。
カタログには、次のようにデータが載っている。
燃料消費率
燃費 WLTCモード km/L
市街地モード(WLTC-L) km/L
郊外モード(WLTC-M) km/L
高速道路モード(WLTC-H) km/L
単位は「km/L」。1リットルの燃料(ガソリンor軽油)で何km走れるか、というものだ。これはわかりやすい。
これがBEV(電気自動車)になると、ちょっとわかりにくくなる。いわゆる「電費」である。
カタログにはこう載っている。
電力消費率
交流電力量消費率 WLTCモード Wh/km
市街地モード(WLTC-L) Wh/km
郊外モード(WLTC-M) Wh/km
高速道路モード(WLTC-H) Wh/km
一充電走行距離(WLTCモード) km
交流電力量消費率の単位は「Wh/km」で、「ワットアワー・パー・キロメートル」と読む。これは「1km走行するために必要な電力量」のことだ。だから、数字が小さいほど電費性能が良い、ということになる。
一充電走行距離は、「1回の充電で走行可能な距離」のことだ。こちらの単位は「km」だ。これはわかりやすい。
たとえば、現在日本で買えるEVで、「一充電走行距離」が長いのは、
テスラModel Sロングレンジ:610km
日産リーフe+X:458km
ジャガーI-PACE:438km
アウディe-tron Sportback 55 quattro:405km
メルセデス・ベンツ EQ: 400 4MATIC:400km
という具合だ。
マツダMX-30 EV modelの場合は?
マツダのBEV、MX-30 EV model(以下MX-30EV)の電費性能は
電力消費率
交流電力量消費率 WLTCモード 145Wh/km
市街地モード(WLTC-L) 121Wh/km
郊外モード(WLTC-M) 129Wh/km
高速道路モード(WLTC-H) 152Wh/km
一充電走行距離(WLTCモード) 256km
さて、ここまでわかったところで、MX-30EVに試乗してみよう。
さまざまなシチュエーションを688km走った際の平均電費は
6.8km/kWh
と表示されていた。今度は「km/kWh」だ。「キロメートル・パー・キロワットアワー」である。これは、1kWhの電力量で何km走れるか、を表している。だから数字は大きい方が電費が良いということになる。
1kWhは1kW(つまり1000W)というパワーの電力を1時間連続して消費した場合の電力量。1000Wのヘアドライヤーを1時間つけっぱなしにしたときに消費する電力量だ。つまり、MX-30EVは、1000Wのヘアドライヤーを1時間つけっぱなしにしたときに消費する電力量で6.8km走れるということだ。
MX-30EVが搭載しているリチウムイオン電池の総電力量は35.5kWh。
ということは、満充電したら
6.8km/kWh×35.5=241.4km
となってフル充電で241.4km走れるはずだ。ところが自宅の200V充電で満充電したときの航続可能距離は「195km」と表示されていた。あれれ? 195kmを6.8km/kWhで割ると28.7kWhになる。カタログ上のバッテリー容量は前述のとおり35.5kWhだから、ここから考えられるのは
1:カタログ上のバッテリー容量は35.5kWhだが、使っているのは28.7kWh分、つまり81%しか使わないようにしている。
2:メーター上は195kmだが、じつは6.8×35.5=241.4km走れる。
→これはつまり、メーター上の航続距離が「0」と表示されてからも46.4km走れる。
のどちらかだ。どちらなのでしょう? ということで、マツダ技術陣に訊いてみた。
答えは
マツダの回答:考え方は、1です。
バッテリーの容量35.5kWすべてをフルには使えません。
バッテリーの保護、劣化の抑制のために満充電側、電欠側ともに余裕を持たせる必要があります。また航続距離は表示されるSOC=0%相当まで(完全電欠ではない)の距離を計算しているので、具体的な数値をお伝えできませんが、おっしゃる通り80数%分の容量で計算されています。リチウムイオンバッテリーはそもそもそのようなものなので、他社EVさらにはスマホ、PCにおけるバッテリーの制御も同様です。どこまで使い切るかは各メーカーの考え方次第です。
なるほど。
そもそもEVのWLTC電費でどうやって測るの?
次の疑問はバッテリーについてだ。
質問
256km(一充電走行距離)×145Wh(WLTCモード1km走るのに必要な電力量)=37120Wh(256km走るのに必要な電力量=37.12kWh)となるわけですが、これとバッテリー容量の35.5kWhとはどういう関係になるのでしょうか? 37.12kWhと35.5kWhでは計算が合わないのですが……。
マツダの回答:WLTCの電費は、(走った距離)÷(充電した電力)で計算されます。(充電した電力)=(走行に使った電力)+(クルマに充電するのに必要な電力〈ECU等の消費電力〉)になります。
以下カタログの数値をそのまま使って説明しますが、256kmを35.5kWhで走行、その後充電すると35.5kWh+(クルマを充電させるために必要な電力)が充電量になりますので、それが37120Whになる、のようなカラクリです。
なるほど。走行に使った電力ではなく、走行に使った電力+クルマに充電するのに必要な電力で計算するわけだ。35.5kWhのバッテリーを充電させるために使うECUなどの消費電力と熱などで1.6kWhほどが使われるということだ。
調子に乗ってさらに疑問点を訊いてみた。
質問
WLTCモードの一充電航続距離は「バッテリー容量ぎりぎりまで使ったらこうなります」という意味なのか、いわゆる「ユーザブル・エナジーで走ったら、ここまで走れますよ」というものなのでしょうか?
(そもそも、WLTCモードのEVのテストは、どうやっているのでしょうか?)
マツダの回答:WLTCで試験されるのは、航続距離は満充電から走り切れるまで(=バッテリー容量ぎりぎり)までの距離になり、メーター等で表示される残SOCとは異なります。
WLTCモードのEVテストは、ざっとした説明ですが
① 満充電からWLTCモードを1回走る
② その後100km/hで走行してバッテリー消費させる
③ 残SOC付近になったら再度WLTCモードを1回走る
④ その後走行が不可能になるまで走り続ける
その上で、
Ⅰ①&③で仮の平均電費を計算。
Ⅱ①~④で使ったトータル電力を計測しておき、①&③の仮の平均電費から航続距離を計算(公表値)。
Ⅲ満充電まで充電し、その際の計測した充電電力とⅡの航続距離から電費を計算(公表値)。
になります。
なるほどなるほど。最後はバッテリーについてだ。
質問
MX-30EVのカタログには
駆動用バッテリー:リチウムイオン電池
総電圧:418V
総電力量:35.5kWh
個数:192個
容量:100Ah
と書いてあります。
電圧×容量=総電力量となると思うのですが
418V×100Ah=41.8kWh
のはずなのに、どうして35.5kWhとなるのでしょうか?
個数(セル数ですよね?)が192個でリチウムイオン電池の電圧は通常3.6V程度ですが、3.6V×192個=691.2Vとなるはずです。
418Vと691.2Vは、どういう関係になるのでしょうか?
マツダの回答:弊社カタログに記載しております「総電力」は、正常作動時の最大電圧になります。総電力量は、定格電力(※下記参照ください)を基にしております。
<定格電力算出は以下になります>
MX-30EVのバッテリーはパナソニック製になり、1セルあたり約3.7Vになります。バッテリーの構成は、セルを12個直列につないでモジュールパックを作り、モジュールを8個直列につなぎ、これを2つ並列につないでいます。よって、バッテリー電圧は、3.7V×12個×8=355.2Vとなります。
バッテリー容量は、355.2V×100Ah≒35.5kWh
となります。
なるほどなるほどなるほど。EVについては、もっと勉強する必要あり、である。