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気球による発電の見積もり
57回では天候に左右されずに太陽光発電を行なう方法として、雲の影響がほとんどない高度7kmのところに、太陽光パネルで作った気球を係留する気球発電の可能性について述べた。さらにこれを複数並べて、気球団を形成することが実用上必要であることを述べた。その理由は、係留気球で発電した電力を海面まで運ぶにあたって損失を減らすために、気球間をつないで直列とすることで高圧を得るとともに、風による影響に耐えるために複数の気球を並べることが必要であるためである。
今回はこれが現実の技術で実現可能であるかの見積りを行なう。
まず、検討の仮定を以下のとおりとする。
- 係留気球1個の大きさは直径30m、長さ1kmとする。
- 係留気球を形成する太陽光パネルの重量は、何回か後に述べるフレキシブル太陽光パネルを前提に1kg/平方メートルとする。
- 係留するためのケーブルは東京製綱インターナショナル製のカーボンコンポジットを芯にしたアルミ送電線を利用するものとする。この製品の中からから410/50の型番を選択する。この送電線の長さ当りの重量は1202kg/kmで強度が106kN(ニュートン)である。
これらの仮定から、まず係留気球1個の重さは表面積に面積当たりの重量を掛け、余裕を見て100トンとなる。この時の気球の浮力は高度7kmでの空気密度の0.55kg/m2に容積を掛けて390トンとなる。係留ケーブルの重量は浮力から気球の重さを引いた290トンまで許容できる。上記のケーブルは前回述べたその構造から、係留気球1個当たり、4本必要であり、1本の長さが7kmなので、8本まで束にして用いることができる。するとその強度は1本の強度に束にした8本と係留のための4本を掛けて約3400kNとなる。
前回、気球団は上空から見た大きさが1km四方としたので、気球の数は約33個となる。すると係留ケーブルの強度は11万2000kNになる。この強度が、上空での風が気球団に当りそこで発生する空気抵抗の大きさに耐えられることが条件になる。
それではその上空の風の強さについて調べてみたい。日本の台風で最大瞬間風速があったのは1966年9月15日の台風18号で85.3m/秒であったとの記録がある。これは時速300kmに相当する。地上の風速は地面の効果があり平均風速に対して瞬間最大風速は大きくなる。
上空に行くと風速は安定するが、今度は強い西風のジェット気流がある。ジェット気流は上空10km当りで最も強く吹き100m/秒にも達する。その影響は高度7kmにも及ぶ。このことから、気球団は100km/秒の風速に耐えるといいうことを前提にする。
この風速の横風が気球団に当たった時の抵抗の大きさは車が走る時の空気抵抗の計算とまったく同じで、違うのは空気の密度が高度7kmでは地上の0.55倍となるということである。
その計算式は空気密度に風が当たる面の面積と、物体の形により決まる空気抵抗係数を掛けたものに、さらに風速の2乗を掛け合わせることで求められる。より正確にはこの値の1/2が抵抗の大きさとなる。空気抵抗係数は車の場合は0.3程度まで下げられているが、円柱では意外に大きく1.2になる。これらの数値から気球団が秒速100mの強風に吹かれた時の空気抵抗は約7万Nとなる。上記の係留ケーブルの強度が11万2000Nであったからその安全率は1.6ということになる。
安全対策も必須
建築物や車等には、安全に保つためにその強度に安全率が掛けられる。安全率をWikipediaで調べると宇宙航空の安全率は1.15~1.25で原子力容器では3とされている。このことから、気球団の係留ケーブルの安全率は妥当とみてよいだろう。但し、もし強風により係留ケーブルが切断したと仮定した時の対策も考えて置くことが必要である。想定できることは気球団が係留気球から解き放たれて上空高く上って行き空気密度が低くなったところで気球の内圧により気球が破壊され、海上あるいは場合によっては地上に落下することである。気球団の総重量は気球の浮力である約400トンになるため、これが地上に落ちて来ることによる人的、物的事故は防がなくてはならない。これを防ぐ方法としては、もし係留ケーブルが強風により切れたことを検知した時には即座に気球に穴を開けて係留ケーブルごと真下に落ちて来るようにすることが有効である。その穴を開ける方法としては、気球に予め取り付けてある安全弁を開放するか、火薬を爆発させるか、気球表面に取り付けたヒーターに電流を流して気球の一部を焼き切ることなどが考えられる。いずれにせよ、こうした安全装置を付けておくことで、気球団本体は真下に落ちてくるので、被害は最小限に小さくできる。
もう一つ気球発電で気を付けておかなければならないのは、航空機との関係である。ここは、航空関係の法規や実際の航路との関係から、その飛行の妨げにならないための設置場所の選定や、航空関係との調整が必要であることは言うまでもない。
ここまでが天候に左右されずに太陽光発電を安定に行なうための気球団の現実性であり、軽量なフレキシブルパネルの実現によって大量の電力を得ることが可能になることを示した。
この5回にわたって、第一次産業との融合に加えて、気球を用いた太陽光発電で大電力を得る方法について述べてきた。その結果、太陽光発電の唯一といってよい弱点であったパネルに必要な面積の確保の問題は解決できることになる。
次回以降は、これからの太陽光パネルはどのようなものが生まれてくるかについて述べたい。