「硬いだけがスポーツじゃない」クラウンスポーツが目指した走りとは?

トヨタ・クラウンスポーツ(プロトタイプ)
4車型で構成される新型クラウンシリーズ。そのなかでもっともスポーティな走りを担うのがクラウンスポーツだ。プロトタイプの取材会で短時間の試乗をしたあと、性能全般を統括するエンジニアに話を聞いた。クラウンスポーツにとっての「スポーツ」の意味は? それを実現するためになにをしたのか?
TEXT:世良耕太(SERA Kota)PHOTO:山上博也(YAMAGAMI Hiroya)

クラウンスポーツでやりたかったスポーツは、『硬い』ではない新しい価値

富士スピードウェイのショートコースでクラウンスポーツ(プロトタイプPHEV)を試乗した。

4タイプあるクラウンのうち、2022年のクロスオーバーに続いて出てきたのがスポーツだ。HEV(ハイブリッド車)は2023年秋頃、PHEV(プラグインハイブリッド車)は2023年冬頃の発売が予定されている。スポーツはクロスオーバーに対してホイールベースと前後のオーバーハングを短縮し、ボディに凝縮感を持たせた。これは見た目をスポーティにするだけでなく、キビキビした走りの実現に寄与する。

多和田貴徳さん(トヨタ自動車元町工場車両品質部付主査MSZ ZS)

性能全般を統括する多和田貴德氏は、「硬いだけがスポーツじゃない、ということを実現したかった」と、クラウン(スポーツ)が目指した走りについて説明する。

「スポーツというとモータースポーツに代表される『究極』のイメージがあります。すると、どうしても(乗り心地が)硬い印象がつきまといます。今回のクラウンでやりたかったスポーツは、『硬い』ではない新しい価値です。じゃあ『緩い』かというと、そうではなく、しっかり締まった状態を狙いました。『しなやか』という言葉が合うかもしれません。そういう車両特性を目指しました」

電動4WD(E-Four)プラスDRS、ホイールベースの短縮

クラウンクロスオーバーより短いホイールベースだが、DRS(リヤステア)は装備する。

クラウン(スポーツ)の詳細な諸元は公開されていないが、大容量のバッテリーを搭載することが見込まれるPHEVは2t前後の車重になるものと予想できる。重たい車体を支えようとするとばね(コイルスプリング)は硬くなりがちだ。開発当初は硬いばねによるヒョコヒョコした動きが出てしまったそうだが、「理屈に忠実」な手を打つことによりネガ消しに成功し、狙いどおりの乗り味を実現したという。

「クルマの姿勢をフラットに収め、4輪の接地が感じられるようこだわりました。制御は変えていますが、DRS(Dynamic Rear Steering:後輪操舵)はクロスオーバーからキャリーオーバーしています。この種の武器を使いながら、運動性能を高めていくことを頑張りました」

DRSは低速域では前輪と逆の向き(逆相)に後輪を切って小回り性を高め、中速域でもやはり逆相に切り、回頭性を高める。高速域では前輪と同じ向き(同相)に切ることで走行安定性をもたらす。という使い方をするのが基本。スポーツはクロスオーバーに対してホイールベースを80mm短縮したこともあり(2850mm→2770mm)、最小回転半径の低減に関する要求はクロスオーバーほど大きくない。

「(スポーツの場合は)曲がる楽しさ、運転する楽しさのためのDRSです。4度の最大切れ角はクロスオーバーと同じですが、それは取り回し時の切れ角。実際に走っているときの切れ角はもう少し小さく、スポーツではクロスオーバーと異なるセッティングにしています。クロスオーバーへの適用でもそうですが、DRSは乗り心地にも寄与します。ばね上の動きを止めるために硬いセッティングにしなくても、DRSをうまく使うことでばね上を穏やかに動かすことができる。そうすることでしなやかさを出すことができています」

上がクラウンクロスオーバー、下がクラウンスポーツ。フロントアクスルセンターで合わせてある。

ホイールベースを80mm短縮したのは、スポーツにふさわしい走りを実現するためが先に立ったのではなく、デザイン部門からの要求が大きかったという。前後の大径タイヤが近づくことによる、凝縮されたスタンスの良さを表現するためだ。もちろん、運動性能面でも良い方向に働くため、性能開発側としても大歓迎だったという。

幅広タイヤの採用も同様だ。クロスオーバーが225/45R21サイズのタイヤを履くのに対し、スポーツは10mmワイドな235/45R21サイズを履く。偏平率は同じなので、幅が広くなったぶんハイト(サイドウォールの厚み)が増し、大きな径がさらに大きくなった。これもデザインからの要望だったが、接地面積が増えるため運動性能面でも歓迎だった。クロスオーバーと同じミシュランeプライマシーを履くが、単なるサイズ違いではなく、「クロスオーバー用に開発した質感の高さを継承しつつ、スポーツにふさわしい性能の高さ」を狙い専用に開発したという。

タイヤサイズは235/45R21。クラウンクロスオーバーよりも10mmワイドだ。

電動パワーステアリング(EPS)は、意図してクロスオーバーよりも手応えを強めにした。

「とくに切り始めからビルドアップしていくところを意識しました。旋回姿勢に持ち込む際、切り遅れずにしっかり応答させていく。コーナーに入っていく際の、ターンインのしやすさにこだわっています。いっぽうで、重すぎると手アンダーになってしまいますし、腕に力が入ってしまう。そのあたりのバランスに注意しました」

そして、E-Four。リヤに搭載するモーターを駆動することで4輪駆動を成立させる技術だ。「スペックはまだ言えない」としながらも、従来の常識を覆す新しいスポーツを実現するうえで欠かせない技術であることを認めた。

「クロスオーバーに適用した電動4WD(E-Four)プラスDRSの組み合わせが非常に高いポテンシャルを持っていることがわかっていますので、その武器はしっかり使っていきたいと考えました。とくに雪上は最高です」

クロスオーバーとは異なる、スポーツならではの走りに振った(しかし、従来の概念とは異なる)キャラクターが与えられている。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…