新型インプレッサ&クロストレック直球問答 スバリスト以外にも伝えたい進化ポイント【開発主査ロングインタビュー】

新型スバル・インプレッサ
4月中旬に千葉県袖ケ浦フォレストレースウェイで開催された新型スバル・インプレッサ(プロトタイプ、試乗コースはサーキット)とクロストレック(公道)の試乗会。そこで開発主査の刀祢友久さん(株式会社SUBARU 商品企画本部主査)に話を伺った。聞き手は瀨在仁志さんとMotor-Fan.jp鈴木慎一。

試乗を終えて、刀祢(とね)さんと向かい合う。刀祢さんは、もともとエンジンが専門で、世界唯一のボクサーディーゼル、EE20型水平対向4気筒ディーゼルターボの開発にも関わったという。編集部のかなり直球で失礼な質問にも真摯に受け答えをしてくれた。

刀祢友久さん(株式会社SUBARU 商品企画本部主査)

クロストレックとインプレッサ、どう作り分けるのか?

試乗会は袖ケ浦フォレストレースで開催された。

MF:刀祢さんはインプレッサとクロストレック、両方の主査を務めていらっしゃるのでしょうか?
刀祢さん:じつは元々、毛塚紹一郎PGMがずっと頭をとってやっていました。一緒にやらせていただいて引き継ぎました。ですから、クロストレック、インプレッサ両方とも企画からやっています。

MF:インプレッサとクロストレックをどう作り分けるか、企画段階から関わっていらしたんですね。
刀祢さん:そうです。元々兄弟車ですので、どう作り分けてどういうコンセプトでいくか、というのは考えてきました。

MF:前型XVだと元々インプレッサがあって、ちょっと背を高くしてSUVに仕立てる手法でした。 だんだんSUVが主流になりマーケットでの関係が逆になりました。SUVが主流になって作り方は変わりました?
刀祢さん:確かに入口は変わりました。クルマの作り方自体は、どっちが先というのはあるのですが、結局、車高が違う、外装が違う、装備が一部違う、そういうのは変わらないんですよ。なんであのサイズのSUV、XVでこんなに売れたのかは、我々も考えましたし、調査もしました。その上で今回クロストレックを作ったので、入口の乗用車ができたらそれを(車高を)上げましょうというのは、最初からないですね。

スバルのFWDはどうあるべきか?

MF:インプレッサの横に乗せていただいて(運転は瀨在氏)、やっぱり背の低いクルマの良さがありますよね。
刀祢さん:あります。
瀨在:やはり重心が低い方が運転していて楽しい。新型インプレッサで良かったのはFFのリヤサス。リヤサスがしっかりしていますね。
刀祢さん:ありがとうございます(笑顔)!
MF:あ、うれしそうですね。
刀祢さん:うれしいです。
瀨在:あれは、たまたまなんですか?
MF:たまたまなわけないじゃないですか!
瀨在:AWDのリヤデフを取り去れば共有の方が効率が良いんじゃない?ということでないんですか?
刀祢さん:そうではないです。やっぱりスバルがFWDを作るということ自体が、「えーっ!」って言われたのがひと昔前です。インプレッサは前型もFWDを持っているんです。今回、クロストレックにFWDを設定するのはひとつ議論になりました。「取って、なくなってFWD」っていう考え方だとスバルはだめなんです。AWDをいままで作ってきてそれを好きだって買って下さっているお客さまに「ま、そこまではいらないから、FWDで。でもやっぱり性能悪いよね」じゃ話にならない

FWDのリヤ。当然、プロペラシャフトはない。
AWDのリヤサスペンション
FWDのリヤサスペンション

瀨在:AWDのマインドを活かしつつ、2駆でもスタビリティ面ではしっかり4WDとイコールに、という意味では今日の試乗会は、お話していたとおりでした。そのうえで、AWDユニットの分、FWDは軽いってことはありますか?
刀祢さん:数字的にはFWDはやっぱり軽いです(註・AWDとFWDの重量差は40kg)。軽いんですけど、操作としてはスカッと言う軽さは持たせてないです。クルマ自体はひらひら動くようなスタビリティはよりFWDの方が持つのですが、でも一概に軽いっていうだけのところは狙っていない。というか、そうはしなかったです。
瀨在:そういう意味ではFWDモデルもAWDのテイストはちゃんと持っていて、安心感のある上でフロントの軽さを感じました。
刀祢さん:(FWDは)回頭性がいいんですよ。感覚的にノーズが入りやすい。ただ、背反というかウラを返せばAWDは入りやすさは減るのですが、後ろが押すので安定感はやはり違う。そこの個性は出ています。FWDはヒラっと入ってから後ろがフワっと浮いちゃうということはないようにしました。

スバルが作るFWDはどうあるべきか、開発陣は議論したという。

瀨在:そのあたりでクロストレックは多少、違和感が残ったのですがインプレッサではそれがない。クロストレックはピッチングはないけれど、重心が高い分トラクション抜けみたいな感じが出ちゃうところがありましたが、インプレッサだと、トラクション抜けみたいなのがないので、すごく安心して運転できたな。
刀祢さん:数値化した部分がヨーゲインとか社内であるんです。クロストレックとインプレッサを比べるとインプレッサの方がいい数字が出ています。なので、感覚的にはおっしゃる通りです。

瀨在:そういう意味ではオンロード、一般路の試乗のなかでは相当クオリティが高い。インプレッサは安心感があって、4輪がしっかり地面をキャッチしている。普通ハッチバックというと軽快さばっかりが先に言っちゃうじゃないですか。新型インプレッサはそれはなくてスバルらしい。だけどね、なんか気持ちが動かない。運転するといい。でも、当たり前過ぎて、ちょっとつかみ所がないかな。
刀祢さん:おっしゃるとおりで、インプレッサって乗用車じゃないですか。今朝のプレゼンでも「実用性」という言い方をしました。そうしたときに、スバルに乗ってもらう理由を探すのがすごく難しいクルマになってしまったんですね。乗っていただくと間違いなく安心できるんですよ、っていうのは幾度となく我々も言うんですけど、お客さまになかなか伝わりにくくて、難儀はしているんですよね。

スバリスト以外には新しさが伝わりにくい?

全長×全幅×全高:4475mm×1780mm×1515mm ホイールベース:2670mm
最低地上高:135mm
最小回転半径は5.3m トレッド:F1540mm/R1545mm

瀨在:アクセル踏んでハンドル切って、Gをかけていったときに安定している感じはAWDなのかFWDなのか関係ない。これぞスバル。でもそれをわかる人って、とくにスバルファンの場合はずっと乗り継いできているから、当たり前じゃないですか。だから他の銘柄からスバルに乗り換えるきっかけという意味でいうと……スバリストにとっては新型は洗練されて満足すると思います。ほかのお客さまが飛びつくなにかポイントが少ないな。
刀祢さん:スバルに乗ってくださっているお客さまって、インプレッサがどういうものがおわかりになっていて、我々もがんばって進化させていることに対して、ある程度わかったうえで、乗っていただくので、比較的伝えやすいのです。しかし、確かに他銘柄からの乗り換えのお客さまは見た目から入ります。価格もそうですが、まずはカッコ良さ、精悍さから入るので、今回スバルなりに頑張ってみました(笑)

リヤをかなり絞り込んでいる。

MF:それは近くで写真撮るとわかります。あ、このフェンダーがいいね、とか。でも、ぼやけてみえる。街で新型インプレッサが走り去ったときに、あ、新しいインプレッサだ、っていう感が若干薄い。
刀祢さん:パッケージとして大きさを変えませんでした。スタイリングを大きくは変えてない。スバルのなかではかなり思い切ってルーフを下げてリヤを絞ったのですが……。現行車を見てから新型を見ると後ろはかなり精悍にシュッとしてます
MF:それはやっぱりスバリストじゃないとわからないのでは?
刀祢さん:乗用車というスタイルでこのあたりを表現するのは難しいですね。ハッチバックの乗用車というとみんな似た形ですよね。表現はもう少しやるという話もありつつ、インプレッサというクルマであることは間違いないので、そこをまったく違うクルマにするつもり、はそもそもありませんでした。

新型スバル・インプレッサ
前型インプレッサ。並べると違いはよくわかる。

MF:今回のインプレッサはセダンの設定がありませんね。
刀祢さん:ないです。作らないです。市場の事情(セダン人気が低迷している)もあるのですが、やっぱりHBとセダンはコンセプトが明確に変わってくるので、今回思い切ってセダンはやめました。

ステアリングは○、CVTのノイズが気になる

電動パワーステアリングはデュアルピニオン式になった。

瀨在:新型はステアリングがすごくいい。洗練されました。正確性、初期の利き始め、揺り返しの少なさ。反力がしっかりついてきてくれる。前型だと知らないうちに戻したりしていました。
刀祢さん:ありがとうございます。今回は電動パワーステアリングがデュアルピニオンで、前型はシングルピニオンでした。新型はモーターでアシストするのを離れたところにすることで単純に2箇所で押さえています。

MF:でもデュアルピニオンはコストが高いんですよね?
刀祢さん:それなりに(笑)しますけれど、それ以上の効果は出せます。クルマが思ったとおりハンドルのまま動いてくれるっていうのを目指したんです。

瀨在:前型もけっして悪くなかったですが、新型は軽くてもしっかりと動いて収まりもいい。
刀祢さん:スポーティなハンドリングはスバル全車にいろいろ織り込んできています。WRX S4はもうちょっと、本当にスポーツなんですよ。でもインプレッサはそうじゃなくて、普段実用で使えるのが大前提です。たぶんちょっと軽めに感じられたんじゃないかと思います。
瀨在:保舵が必要ないっていう。WRX S4だと保舵力がかなり必要。新型インプレッサは戻るわけでもなくそこでホールドしてくれている。無駄に力を使わないっていう軽さ。新旧乗り比べるとわかります。
刀祢さん:そこは本当に目指したところなんです。企画としてそういうクルマを作りたかったんですよ。「疲れるからクルマに乗りたくない、出かけるのイヤだな」はいやだったんですね。
瀨在:そういう意味では、パワーフィールもCVTも前型はアクセルを戻すとギヤがリリースされるというか、ストンと回転が落ちてまたアクセルを踏む。新型は最後までけっこう粘ってくれるしツキもいい。でも、CVTの音だけは気になります。エンジンが静かになったのに……私個人は「エンジンがうるさい」ってどうしても言ってしまう。でもそれは開発者からすれば不本意ですよね?でも、エンジンじゃなくてCVTの音なのに、「スバル特有のうるささ」って言われちゃう。
刀祢さん:少なくともエンジンの音がするのは間違いないです。CVTのノイズが耳に入りやすいので、それがエンジンの音と捉えられてしまう。いろいろやってはいるんですけど、あれがなかなか壁が高くて。今回、このクラスのクルマなので、全面的にはできませんが、ボディ側でも身体に入る音が少なければ不快感も減ります。そういうところは手を入れています。エンジンマウントを変えたのも、じつはその一環なんですよ。クロスメンバーのマウントを改良して音が伝わって入ってくるのを押さえ込んだんです。ま、抑えきれなかったから聞こえてしまったんだと思いますが……。

スバル独自のチェーン式CVT、リニアトロニック。

瀨在:そこは機能的な音だからしょうがないでしょうね。
刀祢さん:そうなんですよ。ゼロにしたいという思いもあるんですけど。
瀨在:あるんですか?
刀祢さん:あります、あります。ボディにパッチを貼ればいいじゃなくて根本的に部品の精度も含めて、そういうところでやる方法っていうのはずっと探してはいるんです。
瀨在:でも、それはなにかとトレードオフになってしまうんじゃないですか?
刀祢さん:そうです。それはいろんな性能とのトレードオフになってくるので……がんばります。
MF:前型インプレッサでSGPの第一弾でした。最新のスバルはひと回りして、フルインナーフレームになっています。新型もそれですか?
刀祢さん:そうです。フルインナーボディコンです。

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