「哨戒(しょうかい)」とは、敵の攻撃などに備えて見張ること、監視することを示す。英表記では「パトロール」だ。海上自衛隊でいう「哨戒機」は海の上でこの役目を果たす航空機を指す。哨戒機は固定翼航空機(いわゆる飛行機)と、回転翼航空機(ヘリコプター)の2種が用意されている。固定翼機はその高速性や航続距離、行動半径の大きさから海域を広範囲に探る。回転翼機は護衛艦などに艦載可能でピンポイントで深掘りするのが得意だ。そして海自哨戒機の相手は主に敵性潜水艦になる。今回注目している哨戒ヘリ「SH-60K」はその前身型を拡大発展させた機体だ。前身とは「SH-60J」である。
SH-60Jは米シコルスキー・エアクラフト社製SH-60B型をベースとする機体だ。三菱重工がライセンス生産したもので、初飛行は1987年だった。そしてSH-60Kは、このJ型を三菱重工と防衛庁(当時)で改造開発したもので、初飛行は2001年、現場運用は2005年からだ。
SH-60Kは、SH-60Jの機内設備の配置を見直し動力性能向上などを図った。J型の機内は意外と狭く、ここに必要で大量の機材を詰め込まねばならず、使いづらい点が目立ったそうだ。こうしたJ型の難点を大幅に改良し、性能も大きく向上させた日本独自の機体が後継機のK型になる。現在海自はJ型とK型を合わせて100機弱を保有運用しており、J型は随時退役を進めている。
SH-60KがJ型から発展改良させた点は多い。まず、高性能メインローターシステムを採用した。これは主にローター断面と翼端形状を変更した装置体系だ。この改良で飛行性能や能力は向上し機体に余裕を持たせることができた。機体後方のキャビンは拡張され、居住性も良好で人員輸送時の搭乗人数は8名から12名に増加した。操縦席はグラスコックピット化(マルチディスプレイ集約表示)されている。
夜間の監視能力を上げるため機首にFLIR(前方監視型赤外線探知装置)を装備し、合わせて機首下面にはISAR(逆合成開口レーダー)と呼ばれる円盤状のレーダーを装備。これは相手側の移動や姿勢変化を利用して分解能を高めるレーダーだ。これらで目標を画像化して捉えることが可能となった。
哨戒ヘリの主務は海中に潜む潜水艦を見つけ出し「狩る」ことにある。対潜装備には新型ディッピング・ソナーを搭載している。これは海面上でホバリングしながら吊り下げたソナーを海中へ降ろし、音波を使って潜水艦の位置を特定するものだ。戦術情報処理装置も搭載し探知能力は向上している。
発見した潜水艦に対抗するための武装は対潜魚雷や対潜爆弾、空対艦ミサイルや機関銃まで装備できる。固定化された武装品はないのだが、必要に応じて機外の懸架装置やドア付近などに武装品を取り付けられる。キャビンのスライドドア付近には陸上自衛隊の車載機関銃を流用した7.62㎜機関銃を、さらには機外に高性能対戦車ミサイル「AGM-114MヘルファイアⅡ」も搭載できる。機関銃やミサイルの主目標は不審船などの小型艦艇・船舶だ。
防御力としては電波を欺瞞するチャフや強い赤外線を発するフレアなどの自機防御装置も備えている。不審船の乗組員が携帯対空ミサイルなどを射撃してきた場合に回避目的で使用するわけだ。攻守の装備と能力を持つ哨戒ヘリは特異な行動をする不審船や情報収集船、海賊、海上民兵などにも対応できる。
海中の潜水艦に対してはディッピング・ソナーや磁気探知装置(潜航する潜水艦が発する磁気の乱れを探知して位置を特定するもの)を駆使して探し出し、強化された火力で攻撃することが可能だ。
哨戒ヘリは海自・護衛艦隊の「耳目」となり、艦隊から離れた前方での攻勢も行える存在だ。そのほか、救難活動や災害対応も可能。海上で多様に活動している。