ステア・バイ・ワイヤはハードとソフトの両面から新しい運転体験の提供する
「クルマの新価値を提供する知能化」に分類されていたのが、ステア・バイ・ワイヤを搭載した電気自動車(BEV)のレクサスRZだ。トヨタはハードとソフトの両面でBEVの走る、曲がる、止まるにこだわり、「もっとFun to Driveなクルマ」を実現していく目標を掲げて開発に取り組んでいる。ステア・バイ・ワイヤはハードとソフトの両面から「新しい運転体験の提供」を目指す。
ステア・バイ・ワイヤはすでに、2022年4月12日に国内でbZ4Xが発表された際に紹介されている。ただし、この技術は中国市場向けで、当時のプレスリリースには「各国・地域に順次展開予定(日本市場への展開時期は調整中)」とあった。現時点ではこの状況に変化はないようだ。
ワークショップに用意されていたRZにも、bZ4Xのステア・バイ・ワイヤ仕様と同じワンモーショングリップのステアリングホイールが装着されていた。ステアリングは○型とするのが一般的だが、ワンモーショングリップは凹型だ。角を曲がるときやUターンするときなどはステアリングをたくさん切る必要があり、たくさん切るには持ち替える必要がある。だから必然的にステアリングは円形になっているのだが、ワンモーショングリップはそうなっていない。
なぜなら、持ち替える必要がないからだ。bZ4Xの資料をもとに記すと、±150度の範囲で切ればコトは済んでしまう。角を曲がるときも、Uターンするときも、車庫入れの際も持ち替え操作が必要ない。ゆえに、「ステアリング操作による負荷が軽減される」とトヨタは説明する。
持ち替え不要にできるのは、ステア・バイ・ワイヤだからだ。従来のステアリングシステムは、ステアリングホイールと前輪の向きを変えるステアリングギヤボックス(ラック)がシャフトで機械的につながっている。ステアリングが回転する動きをラックで左右方向の動きに変換し、車輪の向きを変えるわけだ。そのままでは操作に大きな力が必要なので、小さな操作力で車輪の向きを変えられるようステアリング近くのシャフト、またはラック側にアシストモーターが取り付けられている(電動パワーステアリングの場合)。
ステア・バイ・ワイヤは、ステアリングとラックが機械的に切り離され、つながっていない。バイ・ワイヤ(by Wire:電気信号による制御)で操作するのだ。ステアリング操作を電気信号に置き換え、通信で信号をラック側に伝達。ラック側のアクチュエーターを作動させて車輪の向きを変える。同時に、ステアリング側に設けたアクチュエーターで操舵反力を返す。あたかも機械的につながっているかのような手応えを作り込むわけだ。
ワンモーショングリップは一般的なステアリングホイールに比べて天地方向にコンパクトなので、メーターが見やすい。下側もフラットなので、足元スペースにもゆとりが生まれる。
市街地を模したテストコースでステア・バイ・ワイヤのRZに試乗した。ステア・バイ・ワイヤの場合、ステアリングとラックが機械的につながった一般的なステアリングシステムのように操作量とタイヤの切れ角は1:1の関係ではない。可変制御だ。車速が低いときは小さな操作量で大きく切れ、車速が上がるにつれて操作量に対する切れ角は小さくなる。
低車速時は自分が思っている以上にタイヤが切れてしまい、慌てて戻し側に修正するシーンもあったが、感覚がつかめてくると楽しく運転できそうな気配を感じることができた。ステアリングを持ち替える必要がないのは「なんて楽なんだ」というのが第一印象。低車速域では(低車速でしか走っていないが)小さな操作量で大きく切れる。つまりクイックで、クルマが機敏に動く様が楽しい。
メカニズムは異なるが、持ち替えなしで操作できるのはトヨタのル・マン・ハイパーカーなど、レース専用に開発されたと同じ。ワンモーショングリップを採用したステア・バイ・ワイヤが新しい運転感覚を提供するのは間違いない。