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マツダは「走る喜び」や「運転の楽しさ」を伝えるべく参加型のモータースポーツ、グラスルーツレース(草レース)に力を入れている。「ロードスターパーティレース」や「ロードスターカップ」「サーキットトライアル」「マツダエンデュランス(マツ耐)」など、ユーザーのスキルやニーズに合わせたレースイベントを用意。「スーパー耐久シリーズ」を頂点としたステップアップも可能としたカテゴリピラミッドを形成している。
またMAZDA SPIRIT RACINGは、パーティレースやロードスターカップで好成績をあげたドライバーをスーパー耐久(S耐)のドライバーに起用「チャレンジプログラム」も用意している。
さらにこのチャレンジプログラムに新たなプログラムが追加された。
新たな登竜門としてeスポーツに着目
今や日本でもeスポーツは国体の種目(文化プログラム)にも加えられており(2019年「いきいき茨城ゆめ国体」が初)、「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」もすっかり恒例となった。そのゲーム種目として『Gran Turismo』といったレースゲームは定番となっている。
マツダはそこに着目し、チャレンジプログラムに加え新た参加型モータースポーツのルートの開拓を目指し、独自の大会を開催。
2022年10月30日〜12月11日にかけて開催された「MAZDA SPIRIT RACING GT CUP 2022」がそれで、全5戦のシリーズ戦で争われ、シリーズ成績上位者に“リアル”なレースへ挑戦権が与えられた。これはマツダファンやグラスルーツ(そしてそのさらに先の)レースへの新たなユーザー誘致の取り組みになっている。
「MAZDA SPIRIT RACING GT CUP 2022」は約6000名が参加し、その成績上位者19名が挑戦権を獲得。筑波サーキットでの実走プログラム「REAL CIRCUIT EXPERIENCE」で9名が選抜され、実際のレースに出場する「REAL RACE CHALLENGE」に進むことになった。
「マツ耐」4戦に出場! デビューはツインリンクもてぎ戦
選抜された9名のeスポーツ出身ドライバーは3名ずつ十勝ラウンドを除く全4戦の「MAZDA Fan ENDURANCE(通称「マツ耐」)」に出場する。そのデビュー戦となったのが6月18日に開催されたツインリンクもてぎラウンドだった。
・選抜ドライバー(年齢) 加藤達彦(23)、深谷諄(26)、三宅陽大(22)、瀬田凜(27)、稲葉隼平(20)、大谷慶大(29)、龍翔太郎(21)、吉田航太朗(19)、市井智也(21) 敬称略
選抜を勝ち抜いたドライバーは各eスポーツ大会で優秀な成績を収めており、なかにはすでにリアルでのモータースポーツ経験を積んでいるケースもあった。
上記の9名から加藤達彦、深谷諄、三宅陽大の3名が初戦に出場ドライバーとして選ばれた。
この「MAZDA SPIRIT RACING REAL RACE CHALLENGE」では、チーム運営をロードスターのチューニングやレースで活躍するTCRが担当。同社の代表であり、2022年スーパー耐久で倶楽部MAZDA SPIRIT RACING鈴鹿ラウンドでドライバーを務めた加藤彰彬氏が講師となった。
また、先輩ドライバーとしてチームを引っ張る役割を担ったのがロードスターパーティレースで活躍し、スーパー耐久にも参戦する南澤拓実選手だ。
予選をクラス3位、総合12位で通過
「マツ耐」は2012年から始まったエンジョイ系のレースカテゴリーで、ライセンス不要で参加できるほか、マツダ車であればほとんどのクルマが参加できる間口の広さが魅力。
150分を無給油で走り走行距離を競う耐久レースなので、燃費が重要な戦略要素になっており、ドライビングもスピードと燃費の両方が求められる。
出走クラスはノーマルのNDロードスターを対象にした「クラス5」で、全出走車36台中11台は全クラスで最多だ。
予選は確実を期すため経験者である南澤選手が走り、クラス3位、総合では12位のタイムを刻み本戦は6列目スタートとなった。
スターティングドライバーは、スタート直後の混雑を考慮して予選同様に南澤選手が担当。その後、加藤選手、三宅選手、深谷選手の順で走行。燃費勝負ということもあり、レースは淡々と進み中盤は15位〜16位付近を走行。
事前の練習の甲斐もあり、交代ドライバーがシートベルトの脱着を補助するなどのドライバー交代もスムーズに行なわれた。さらに、情報は無線でドライバーも含めたチーム全員で共有され、着実に距離を稼いでいった。
3名の選抜ドライバーは、少なくともレース走行に関してはゲームとの差異や違和感はあまり感じなかったそうだ。最新のレースゲームではシート、ハンドル、ペダルといったインターフェースがあり、Gやショックもある程度再現されるという。そして、ゲームであれば時間の許す限り練習もできる。コースもリアルに再現されており、習熟も重ねられる。
一方でヘルメット被りウインドウ越しに見る視界はゲーム画面より狭く、しかも何よりの違いがクルマが物理的な存在であり、他車との関係性がゲームよりも強いこと。特に接触や事故はゲームと違い取り返しがつかない。各選手はやはりその点には特に注意を払っていた。
総合14位で完走! そしてクラス3位の快挙!
NDロードスターが満タンで150分を走りきるためのレース戦略はあらかじめ計算されており、南澤選手の指導を元に3名のチャレンジドライバーはそれを忠実に実行することができた。
そのため、レース終盤は逆に燃料に余裕が出たことでフィニッシュドライバーを務める深谷選手は全開で攻めるチャンスを得ることができた。
そしてレース最終盤。ヴァーチャルtoロードスターの追い上げを躱そうとした上位チームが次々とガス欠で戦列を去る。最終的に150分を走り切った時、ヴァーチャルtoロードスターは総合12位まで順位を上げ、クラス3位でチェッカーフラッグを受けることができたのだ。
南澤選手は手本として第1スティントを走り、その走り、ペースを無線で他の3選手と共有。実際に他の選手もそのペースを守ことで戦略通りの燃費を達成。むしろ4Lほど余裕を残したことで、次回はもう少し攻めた戦略を取りたいと語った。
また、加藤代表も予定通りの戦略で完走できたことに加え、燃費に余裕があったからこそ終盤にペースアップできた。チームも選手もベストを尽くした結果が完走であり、クラス3位のリザルトに繋がったと言う。
3選手ともに十数周ずつ約30〜40分ほど走行。体力的にも問題はなく、緊張はありつつもリアルのレースを楽しむことができたようだ。加藤選手と三宅選手は戦略通りのペースを守り、深谷選手は全開で追い上げる、それぞれがそれぞれの役割を果たしレースを戦い抜いた。
走りではゲームとの差異はあまり感じなかったと語る3選手だが、逆にゲームとの違いを強く感じたこととして“多くの人とのリアルな関わり”を挙げた。ゲームはネットワークで繋がっており、そこにはやはり多くの人との関係があるものの、実際にレースをするにあたっては、チームがあり実際のクルマがあり、そこにいる多くに人と一緒にに戦っていく。それがゲームとリアルとの大きな違いだと言う。
道は拓かれたばかり……そして2023年も
「MAZDA SPIRIT RACING REAL RACE CHALLENGE」のヴァーチャルtoロードスターは、この後、7月30日の筑波ラウンド(筑波サーキット)、8月13日の大分ラウンド(オートポリス)、そして11月5日の岡山ラウンド(岡山国際サーキット)と続き、今回出走しなかった選抜者もステアリングを握る。
そして、2023年も10月15日〜12月10日のスケジュールで『MAZDA SPIRIT RACING GT CUP 2023』が開催され、2022年同様にリアルなレースへの道が予定されている。
すでに世界ではゲーム出身のレーシングドライバーが活躍を始めており、ゲーム原作の『グランツーリスモ』の映画も9月に公開予定だ。
マツダのチャレンジプログラムを通して、ゲームからリアルモータースポーツへその裾野が広がってゆき、日本でもいつかeスポーツ出身者がリアルのレースでも活躍するようになることを期待したい。