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通常とは異なるワイパーの配置に注目
高速で長距離を走るGTは、ときには雨などの悪天候の中でも走らなくてはならない。また、レースに関しても豪雨や濃霧でもない限り「雨天中止」ということにはならない。
雨天の高速走行において、サスペンションのセッティングやタイヤのグリップよりも視界の確保が最優先。つまり、ワイパーの性能が良くなければ安心して雨の走行ができないというわけだ。
TOYOTA 2000GTのフロントウィンドゥは、当時の国産車としてはかなり湾曲していた。これに合致したワイパーの払拭面積を確保することと、ワイパーを動かす機構の取り回しに開発チームは非常に苦労したという。
1965年8月に完成した試作1号車のワイパーは、国産乗用車では珍しい3連式になっていた。払拭面積を確保しながら、1本あたりの駆動抵抗を狙ったものと考えられる。その後、再設計し、試作2号車以降は2本ワイパーに改められた。
TOYOTA 2000GTのフロントウィンドゥ両端はフロントピラーまで回り込んでいるので、通常のワイパーの取り付けでは払拭面積が確保できない。そのため、ワイパーの軸の位置は独特な配置をされている。通常、右間ドル者の2本ワイパーの軸はフロントウィンドゥの右端付近と、フロントウィンドゥのセンターの位置にあるのが一般的だ。
その動きは運転席から見て左方向から起き上がって折り返し、ほぼ90度の動きになる。ところが、TOYOTA 2000GTのワイパーの軸は、運転席と助手席のほぼ正面にある。そのため、右方向から起き上がったワイパーは、ドライバーの目の前で2つの扇形を描いて折り返す。
TOYOTA 2000GTの写真を見ると、右ハンドルであっても、左ハンドル車のワイパーのように見えるのはそのためだ。ちなみに、左ハンドル仕様のTOYOTA 2000GTのワイパーは、右ハンドル仕様と反対の位置になっている。
高速で浮き上がらないワイヤー式アームブレードを開発
自動車のワイパーは、高速なればなるほどワイパーブレードがガラス面から浮き上がる現象に悩まされる。一般の乗用車では130km/h付近からこの現象が見られるが、常用速度域ではないので問題視されない。ところがレース参戦を前提に設計・開発されたTOYOTA 2000GTでは超高速の雨天走行でもワイパーが浮き上がらずに、クリアな視界を確保できることが要求される。
開発チームは、1966年5月の第3回日本グランプリ参戦を機に高速でも浮き上がらないワイパーの開発に着手した。その結果、ワイヤー式アームブレードが完成し、180km/hまで浮き上がりを防止することに成功した。細いワイヤーを組み合わせたアームで風の抵抗を極力減らすという発想だった。
ワイヤー式アームブレードは、同年10月のスピードトライアルに投入され、台風28号の影響を受けた豪雨の中、タイムを落とさずに走行。この時の走行速度は250km/h前後に達し、ワイヤー式アームブレードの性能を実戦で証明できたというわけだ。ワイパーという何気ないパーツにも、新しい道を切り拓くアイデアが込められていたのだ。