リアルとデジタルの融合で、デザイナーのイマジネーションも刺激する
日産は、神奈川県厚木市のグローバルデザインセンター内に、リアルとデジタルを融合させることでデザインプロセスの革新を目指すデザインプレゼンテーションホールを新設し、メディア向けに公開した。
ホールに足を踏み入れてまず圧倒されるのは、24Kの超大型LED スクリーンだ。4Kのモニターが6枚つなぎ合わされており(つなぎめはまったく見えない)、全長は約40mにもおよぶという。スクリーンが直線状だと端に表示したものが歪んで見えてしまうので、緩やかに湾曲しているのも特徴だ。また、映し出させる画像の精細さにも驚かされた。映し出されるものによっては、まるでその場に実在しているかのように感じられることもあった。
ホールは天井もフルカラーのスクリーンで覆われているほか、リモート照明技術、7.1ch音響システムなども備わっており、世界中で実際にクルマが使用されるさまざまな環境を高い精度で再現することが可能となっている。このホールを中心として日産はデザインプロセスのデジタル化をより一層推進するという。その大きな目的の一つは、開発時間の短縮だ。
従来、クルマのデザイン開発では、デザインの検証を行うために複数のモデルを製作してきた。しかし、製作期間の長さ(ひとつのモデルを作るのに3週間くらいかかるそうだ)とコストの課題が伴うため、製作可能なモデルのバリエーション数は限られるという。そこで、日産のデザイン部門では5年以上前からVR を活用するなど、デザインプロセスのデジタル化を推進してきた。
このホールで投影するコンテンツの製作にはゲーミングエンジンが使われている。ゲーミングエンジンというと、ゲームのためのソフトウェア…という風に捉えられがちだが、現在では映画やテレビドラマなど映像業界で幅広く使われている。ゲーミングエンジンによって時間による光の変化、天候や自然の要素もリアルタイムに高い臨場感と没入感で再現することができ、デジタル上で製作したモデルを様々な市場環境に合わせて検証、確認することが可能になる。
デザインを決定するプロセスにおいては、複数のデジタルモデルを実物大で24K LEDスクリーン上に並べ、デザインやカラーの微妙な違いを精度高く再現し比較することができる。また、モデルの位置やアングルをリアルタイムに素早く切り替えることができるため、より迅速な意思決定が可能となる。グローバルデザインを担当する日産・専務執行役員のアルフォンソ・アルバイサ氏によると、「約35%の時間短縮が可能」とのことだ。
また、実物大のモデルをホールに置くことで、24K LED スクリーンとフルカラー天井スクリーンの映像がモデルを包み込み、あたかもリアルとデジタルの境界の無い空間をつくり出すことができ、デザイナーのイマジネーションを広げることができるという。
エクゼクティブ・デザイン・ダイレクターの田井悟氏によると、このホールをつくるきっかけになったのは現行型フェアレディZだったそうだ。現行型フェアレディZの開発では、初めてモデルを作ることなくデザイン決定が行われた。そして、その成功から「フルデジタルでもデザイン決定ができる」との考えに至り、このホールが作られことになったのだという。
アルバイサ氏は、次のように語る。「自動車業界は今、開発プロセスに大きなブレークスルーが生まれています。私たちデザイナーにとっても大変エキサイティングな時代です。ゲーム業界がますますデジタル化を進めるのと同じように、日産も劇的なデジタルシフトを進めています。私たちの新しい没入型のホールは、フィジカルとバーチャルが融合したドラマチックな空間に最先端のテクノロジーを集結させ、チームに新次元のインスピレーションを与えています」
この画期的なデザインプレゼンテーションホールから生まれてくる新しい日産車がどのようなデザインで我々を魅了してくれるのか、大いに期待したいところだ。