乗るにつけ、ホンダが心配になる「出来すぎ新型N-BOX」にない装備、ない理由

ホンダN-BOX ファッションスタイル
ご存知、「日本で一番売れているクルマ=ホンダN-BOX」がモデルチェンジを受けた。いまこの瞬間も日本国内は230万台のN-BOXが走り回っている。「Happy Rhythm BOX〜わたしも、家族も、日本も、ハッピーになれる幸せなリズムを作る」のがグランドコンセプトの新型N-BOX。期待通りの出来の良さだが、ライバルにあってN-BOXにない装備もある。どうしてか?
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

サーキュレーターがない!

ボディカラーはフィヨルドミスト・パール
内装:グレージュ×グレー

横浜みなとみらいを基点にホンダの新型N-BOXに試乗したときは季節外れの暑さだった。後席に乗り込んでエンジンを始動(したのはドライバー)。「涼しい風よ早く」と望んだものの、期待どおりの環境にはなかなかならない。思わず、エアコンの設定温度を下げるよう、身を乗り出してドライバーに頼んでしまった。

従前から承知していたことだが、前席ヘッドレストの上あたりの天井には、あってほしいと感じるサーキュレーターがない。そもそも、N-BOXにはサーキュレーターの設定はない。新型にも。試乗後、汗が引いたところで技術者にそこのところを聞いてみた。

「他社にあると『ないの?』と聞かれるのですが、助手席側のエアコンの吹き出し口は2つあるので、1つを跳ね上げてもらえると後ろまで結構届くんです。それに、(フロント)シートの肩口を落として風を流しやすい配慮はしています。サーキュレーターを付けると重心が高くなるので、運動性能的にいいことはありません」

頭を働かせず、サーキュラーターがないだけで「このクルマはダメ」と決めつけていたことになる。猛省。

ホンダN-BOX ファッションスタイル 全長×全幅×全高:3395mm×1475mm×1790mm ホイールベース:2520mm
トレッド:F1305mm/R1305mm 最低地上高:145mm
車両重量:910kg 最小回転半径:4.5m

マイルドハイブリッドがない!

エンジン 形式:直列3気筒DOHC 型式:S-07B型 排気量:658cc ボア×ストローク:60.0mm×77.6 mm 圧縮比:12.0 最高出力:58ps(43kW)/7300pm 最大トルク:65Nm/4800rpm 燃料供給:PFI 燃料:レギュラー 燃料タンク:27ℓ

「ないの?」と販売店で聞かれるものはまだあるらしく、マイルドハイブリッドだ。エンジンのクランク軸からベルトを介して駆動するオルタネーターの代わりにISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)を搭載。減速時はISGがエネルギーを回生し、助手席下などに搭載するリチウムイオン電池にエネルギーを貯蔵。蓄えたエネルギーをエンジンのアシストや補機駆動に使うことで燃費向上に役立てるシステムである。アイドリングストップからの再始動はスターターモーターではなくISGが行なうため、再始動が早く、静かでショックが少ないのも特徴だ。

これも、N-BOXには設定がない。くだんの技術者は次のように説明した。「検討はしたのですが、N-BOXはパッケージで買っていただいているところがある。(バッテリーが)どこに入るんだと。結局、車室内に浸食することになる。パッケージをいじめるのはN-BOXとしては本末転倒だと考えています。燃費も他社のハイブリッドシステムとたいして変わらないと思っています」

N-BOXに限らないが、前後方向はとても余裕がある
身長183cmの男性が前後に座ったときの後席の膝周り

同じ条件で比較したわけではないので良し悪しは断定できない。ホンダの言い分としては、エンジンだけの実力でマイルドハイブリッドを搭載する他社と遜色ない燃費を達成できる。だから、マイルドハイブリッドは不要だという考えだ。ただでさえ容積の限られた車室内にリチウムイオン電池を置き、居住性や使い勝手を犠牲にするのはユーザーのためではないという考えでもある。

サーキュレーターがないから快適性に劣るとか、マイルドハイブリッドがないから燃費が悪いというのはイメージ先行の決めつけである。きちんと検証したわけではないので、正しいかどうかは断定できないが、ホンダの言い分もわかる。

アイドリングストップからの再始動については、短い試乗時間内に確認できた。一般的にはISGのほうがスターターモーター式より音の面でも、時間の面でも、ショックの面でも有利だが、N-BOXの場合、何の痛痒も感じない。スターターモーター式なのに。燃費のことはなんとも言えないけれども、アイドリングストップからの再始動に関しては、ISGを持つマイルドハイブリッドである必要はまったくないと言える。担当した技術者は、「100本ノックではないですが、始動性については繰り返しテストしました」と説明した。「これならISGである必要はないな」というのが、乗ってみての実感だ。

ホンダN-BOX ファッションスタイル
全長×全幅×全高:3395mm×1475mm×1790mm
ホイールベース:2520mm
車重:910kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式/Rトーションビーム式 
駆動方式:FF
エンジン
形式:直列3気筒DOHC
型式:S-07B型
排気量:658cc
ボア×ストローク:60.0mm×77.6 mm
圧縮比:12.0
最高出力:58ps(43kW)/7300pm
最大トルク:65Nm/4800rpm
燃料供給:PFI
燃料:レギュラー
燃料タンク:27ℓ
トランスミッション:CVT
燃費:WLTCモード 21.6km/ℓ
 市街地モード18.8km/ℓ
 郊外モード:23.4km/ℓ
 高速道路:21.8km/ℓ

車両本体価格:188万1000円

ノーマル+ターボの組み合わせがない!

グッと精悍な印象になるN-BOXカスタム。ボディ色はトワイライトミストブラックパール
エンジン 形式:直列3気筒DOHCターボ 型式:S-07B型 排気量:658cc ボア×ストローク:60.0mm×77.6 mm 圧縮比:9.8 最高出力:64ps(47kW)/6000pm 最大トルク:104Nm/2600rpm 燃料供給:PFI 燃料:レギュラー 燃料タンク:27ℓ

エンジンは先代と同様、自然吸気(NA)仕様とターボ仕様がある。当然、ターボ仕様のほうが力強い。しかし、ターボ仕様の設定があるのはカスタムのみで、ノーマルにはない。「ノーマルとターボの組み合わせが欲しいんだけどなぁ」と感じる人は、その声をホンダに届けることだ。たくさん声が集まれば、その声に応えてノーマルにもターボ仕様が設定されるかもしれない。

N-BOXカスタムのインテリア(内装色はブラック)

それにしても、新型N-BOXに乗るにつけ、ホンダが心配。になる。出来が良すぎて「これで充分」と思えるからだ車両サイズが小さいだけで、運転する感覚は登録車(乗用車)と遜色ない。ステアリングを切り込んだときの手応えは軽すぎず、重すぎず、手応えがしっかりしているし、反応は過敏すぎずダルでもなく、ちょうどいい。交差点を曲がるときにグラリと倒れこみそうになることもなく、しっかりした態勢のまま思いどおりに動く。初期のブレーキタッチも良くなり、「あれっ、踏み増さないと止まれない?」と不安になるようなこともない。

乗り心地は良くなっているし(とくに、後席の良くなり度合いが大きい)、静粛性も向上している。より静かな環境が欲しいなら、先代に対して遮音に手を入れたノーマルに対し、さらに遮音性能を高めたカスタムがおすすめ。いったん走り出したら騒々しくて会話どころではなく、必然的に無言になる──のは昔話で、前後の乗員が声を張らずに会話できるくらい静かだ。

NAでも動力性能的には充分だが、余裕が欲しければターボがいいだろう(現状、必然的にカスタムになる)。地上レベルの料金所を通過し、高架の本線に向けて上り勾配を加速するシーンなどでは頼もしさが断然違う。市街地でも高速道路でも、より機敏な動きを求めるならターボがいい。NAでも必要充分だが、ターボ仕様に乗り換えると、「なんて楽なんだ」と実感する。

ホンダN-BOX CUSTOMターボ 全長×全幅×全高:3395mm×1475mm×1790mm ホイールベース:2520mm 車重:940kg

乗車定員が4人だから(5人以上で乗る機会が多い)、駐車場に入らないから(背の低いクルマが必須)などという理由で、N-BOXが欲しくても購入リストに入れられない人もいる。そういう人は、ホンダでいえばフィットやヴェゼルやフリードやシビックやZR-Vやステップワゴンといった選択になるので、N-BOXが出来すぎても心配は要らないということらしい。出来すぎN-BOXでいいのだ(たぶん)。アイドリングストップの再始動だけでなく、全方位で100本ノックをこなしたからこそ、これだけの完成度に到達したに違いない。

ホンダN-BOX CUSTOMターボ
全長×全幅×全高:3395mm×1475mm×1790mm
ホイールベース:2520mm
車重:940kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式/Rトーションビーム式 
駆動方式:FF
エンジン
形式:直列3気筒DOHCターボ
型式:S-07B型
排気量:658cc
ボア×ストローク:60.0mm×77.6 mm
圧縮比:9.8
最高出力:64ps(47kW)/6000pm
最大トルク:104Nm/2600rpm
燃料供給:PFI
燃料:レギュラー
燃料タンク:27ℓ
燃費:WLTCモード 21.6km/ℓ
 市街地モード17.1km/ℓ
 郊外モード:22.2km/ℓ
 高速道路:20.9km/ℓ
トランスミッション:CVT
車両本体価格:204万9300円
試乗車はホンダアクセス純正アクセサリー装着車

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…