急成長するSUV市場へのホンダの解答──お手頃価格なWR-Vはメインターゲット層の心に刺さるか

2023年12月に正式発表される見込みであるホンダWR-V。グローバルモデルであるWR-Vはタイを拠点に開発され、生産地であるインドではすでに展開されている。日本では「手が届くSUV」として200万円台前半からという価格となるようだが、その価格設定の理由と日本導入の狙いを整理する。

TEXT:世良耕太(SERA Kota) Photo:世良耕太(SERA Kota)/Honda/Motor-Fan編集部

2024年春に発売が予定されているホンダWR-Vは、ホンダのSUVのラインアップで上の価格帯から順にZR-V、ヴェゼルに次ぐポジションを受け持つ。エントリーSUVの位置づけで、200万円台前半からの価格帯が予定されている。商品企画を担当する佐藤大輔氏の説明をもとに、WR-V投入の狙いをマーケティングの観点からひもといていこう。

国内における自動車の市場規模を見ると、この10年で販売台数は429万台(2014年)から381万台(2023年)へと縮小している。ところが、SUVはシェア(6%→24%)、台数(25万台→92万台)ともに大幅な伸びを示している。
ホンダが独自に「次に乗りたいクルマは何ですか?」と買い換え意向調査を行なったところ、「SUV」と回答する人が2010年の8%から2022年は21%に増えていることがわかった。これらのデータから浮かび上がってくるのは、SUVの市場は急激に伸びており、買い替え需要も高まっているということだ。

スモールあるいはコンパクトに分類されるSUV市場の推移を価格帯別に可視化してみると、2020年前後に国産各社が軒並みスモール・コンパクトクラスのSUVを投入し、台数が伸び、ボリュームゾーンがシフトしている様子が見えてくる。2017年頃は250~300万円がボリュームゾーンだったが、2020年以降は200~250万円がボリュームゾーンとなっており、150~200万円のゾーンも拡大している。

価格帯別にパワートレーンの構成を見ていくと、250万円以下は(ハイブリッド車ではなく)ガソリン車が主流を占めていることがわかる。さらに、250万円以下のスモールSUVについてユーザーニーズを調査してみると、「車両価格の安さ」「小回りの効きやすさ」を重視していることがわかった。

ホンダにはコンパクトSUVに属するヴェゼルがある。ヴェゼルはハイブリッドシステムのe:HEV仕様が主流なので、250万円以上の価格帯が主軸。ZR-Vはさらに上の価格帯を受け持つ。ホンダは成長著しい250万円以下の価格帯に属するSUVを持っていなかったので、ここにニューモデルを投入しようというわけだ。

それがWR-Vである。車両サイズ的には、ヴェゼルと同じコンパクトSUVのセグメントに属する。250万円以下のSUV市場に最短で商品を投入し、「群雄割拠のSUVマーケットにおいてホンダのシェアを拡大する」のが、WR-Vに課された使命だ。

WR-Vの勝ち技は「ダイナミックで塊感のある力強い外観デザイン」、「コンパクトSUVトップクラスの広々×快適空間(多人数乗車しても余裕ある後席居住空間とトップクラスの荷室)」とした。車両価格は250万円以下に設定するが、「お値段以上の価値」を提供することもWR-Vの強みだと説明する。

WR-Vのターゲットは2層設定している。メインに据えるのは20~30代のいわゆるミレニアル世代。サブに据えるのは40~50代の子離れ世代(ダウンサイザー)だ。販売ボリュームのメインは購買力のあるサブ層に据えているが、「セールスプロモーションはミレニアル世代向けに行なっていく」という。
「彼らのクルマにおける価値感はコスパ重視。安くていい物を選ぶ。それだけでなく、本質的にいい物を選び、気兼ねなく、自分らしく使いたいという価値感を持っています。弊社は10年前から同じコンパクトSUVのヴェゼルを出しています。全長と全幅が近いヴェゼルに対し、価格、堂々とした力強いデザイン、クラストップレベルの居住性、アウトドアが似合うアクティブなイメージですみ分けをしたいと考えています」

WR-VヴェゼルZR-V
全長×全幅×全高4325mm×1790mm×1650mm4330mm×1790mm×1580mm4570mm×1840mm×1620mm
ホイールベース2650mm2610mm2655mm
最低地上高195mm170mm190mm
パワートレイン1.5L 直列4気筒1.5L 直列4気筒
1.5L 直列4気筒+e:HEV
1.5L 直列4気筒
2L 直列4気筒+e:HEV
駆動方式FFFF/4WDFF/4WD
価格200万円台前半~ガソリン:2,399,100円~
e:HEV:2,778,600円~
ガソリン:3,049,200円~
e:HEV:3,399,000円~

全長×全幅×全高が4330×1790×1580mmのヴェゼルはクーペライクなスタイルをしており、都市型SUVのイメージ。主力はe:HEVで上級グレードの価格は300万円を超える。いっぽう、WR-Vの全長×全幅×全高は4325×1790×1650mm。サイズはヴェゼルとオーバーラップするが、ヴェゼルとは対極にある力強くタフなイメージを与えて差別化する。ハイブリッドシステムを設定せず1.5Lガソリン車のみとし、4WDを設定せず(FFのみ)、電動パーキングブレーキ(EPB)も装備しない。こうした割り切りで200万円台前半の価格を実現した。

「日本のお客様にとって重要性の高い機能と装備を見極めながら、250万円以下で買えるSUVを企画しました。広い居住空間と荷室空間は捨てられないポイントです。ヴェゼルとは同じくらいのサイズなので、似たようなデザインではすみ分けができません。調査してみると、都市型SUVを好まれる方が6割いるいっぽうで、4割程度はスクエアな形を好まれる。こうした調査結果もあり、堂々とした力強いデザインのアクティブなSUVを企画しました」

価格を重視するけど、いい物が欲しい。そんな贅沢なニーズを満たすべく企画・開発されたのがWR-Vというわけだ。果たして、ミレニアル世代の心をつかむことはできるだろうか。実車を見たサブ層に属する筆者は、イイ線いっていると感じている。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…