500万円のコンパクトカー! 値段は型破りだが、乗れば確かにその価値がわかる

これまで「小さな高級車」というと、めっきのグリルや木目パネルで厚化粧したようなクルマが多かった気がする。LBXも、最初はヤリスクロスをベースにしてちょいちょいと手直ししたようなクルマかと思っていたら(すみません)、全然違う! 乗れば乗るほど、そこかしこにレクサスのこだわりが秘められた、新しいラグジュアリーカーということが実感できるクルマとなっていたのだ。

レクサスLBXは、とにかく型破りなクルマである。いきなりおカネの話で無粋なのだが、レクサスLBXは一番安いグレードのFFモデルでも460万円、最も高いグレードの4WDモデルだと576万円にもなる。トヨタを代表する高級車のクラウン(クロスオーバー)だって435万円から買うことができることを考えると、全長4190mm×全幅1825mm×全高1545mmのボディサイズをもち、いわゆるBセグメントに属するコンパクトカーの価格が約500万円なのだから、型破りというほかない。

織物に使う「紡錘(ぼうすい)」をモチーフにしたスピンドルグリル、RXから採用が始まったスピンドルボディとも異なる、「ユニファイドスピンドル」をフロントフェイスに採用するLBX。スピンドル形状は上下に圧縮し、フード下のスリットが左右ヘッドランプにつながる造形が特徴だ。
グレードは3種類。インテリアの設えやホイールのデザインによってそれぞれの世界観を表現する。「Cool」はプレミアムカジュアル、「Relax(写真)」はハイラグジュアリー、そしてカラーやトリムを自由に組み合わせられる「Bespoke Build」といった具合だ。

しかも、日本では「小さな高級車」が成功した事例は多くない。LBXは大丈夫でしょうか…?と開発陣に恐る恐る聞いてみると、LBXを小さな高級車と捉えて欲しくはない、という。LBXは決して「小さいLS」を目指したわけではなくて、 “大きい=偉い=高い”というこれまでの高級車の概念を取り払い、「コンパクトサイズながらも走りやデザインも上質である、サイズのヒエラルキーを超えたクルマをつくる」のがコンセプトなのだとか。

そんなLBXの開発のきっかけとなったのは一足のスニーカー。それはメゾン・マルジェラというフランスのブランドのもので、約8万円(!)もするもの。普段使いもできて週末の買い物にも履いていける、飾り気のない本質を追求したラグジュアリーアイテムがマルジェラのスニーカーであり、それをLBXはクルマで目指したというわけである。

メゾン・マルジェラのスニーカー「レプリカ」。約8万円という価格ながら、ファッション愛好者からは定番アイテムとして人気を博している。

LBXはデザインも型破りだ。というのも、開発にあたってプロポーションの理想形として掲げられたのが“鏡餅”だったというのだ。実はエクステリアデザインに関しては、当初の提案では既存のプラットフォームを使う制約や従来のやり方に囚われてしまい、納得のいくものができなかったそうだ。そこで、改めてサイズのヒエラルキーを超えた存在感のあるプロポーションとするためにたどり着いたのが、18インチの大径タイヤを強調した低重心フォルムであり、そのどっしりとした低重心っぷりを象徴するアイテムが“鏡餅”だったというわけだ。

「タイヤが大きいと素直にかっこいい」「 だったらまずタイヤを強調しよう」「それに合わせたパッケージにしなきゃ」「さらに低重心を強調する形って一体なんなんだろう」「鏡餅だ!」…というやりとりが開発の過程ではあったそうだ。
18インチのアルミホイールが標準となるLBX(一部グレードは17インチ)。タイヤサイズは225/55R18。ヤリスクロスの上級グレードも18インチを履くが、タイヤは215/50R18とサイズが異なる。LBXの方が大径かつ幅広のタイヤだ。

LBXは、乗り込むときにも特別感を抱かせてくれる。ドアハンドルの裏側にはe-ラッチと呼ばれるスイッチが設けられており、それを押すことでドアを開くことができる。実にスムーズだし、ちょっとリッチな気分にさせてくれる。さらに感心させられたのは、ドアを閉めた際の音の重厚感。まるで輸入車のような…と思ったのもあながち的外れではなく、LBXはドアヒンジが国産車で一般的な板金プレスではなく、輸入車に多い形鋼材のドアヒンジを採用し、ドアの開閉音にこだわってチューニングが施されていたのだ。しかも、ただ重厚な音を出せばいいというわけではなく、LBXのキャラクターに合わせて少し軽快さや元気の良さを感じられるよう、ちょうどいい塩梅の音を追求したというのだから、そのこだわりには脱帽である。

ドアの開閉用のハンドルは、内外ともにスイッチ操作でラッチが解除される。乗り降りするたびに、高級感を味わえる装備だ。
LBXのドアヒンジは形鋼製で、いかにもガッチリしている。細部に至るまでLBXがいかにこだわっているかを象徴するような部分だ。

そんなLBXで横浜の市街地を走り始める。LBXのパワートレーンは、1.5L直列3気筒エンジンを核としたハイブリッドのみ。スルスルとモーターで走り始めたのだが、まず好印象だったのが“静かさ”だ。外界の喧騒はごく小さく伝わってくる程度で、1〜2クラス上のクルマに乗っているかのような感覚だ。LBXはトヨタのコンパクトカー向けプラットフォーム(GA-B)を採用しているのだが、同じプラットフォームを用いるヤリスクロスよりも明らかに静かな印象がある。それもそのはず、LBXでは音や振動の発生源を抑制する源流対策にこだわり、徹底したエンジンノイズや振動の低減を実現しているという。

1.5L直列3気筒エンジン(M15A-FXE)+モーターのハイブリッドを搭載。システム最大出力は136psとなる。

また、この静かさにはオプションで設定されているマークレビンソンのオーディオシステムもひと役買っている。このオーディオを選択すると、アクティブノイズコントロールが同時装着されるのだ。25万1900円と、なかなか値が張るアイテムではあるものの、余裕があるならばぜひ選択しておきたいオプションだ。

メーターは12.3インチのフル液晶を採用。また、最近は空調のコントロールをディスプレイのタッチ操作で行なうクルマも増えているが、LBXは物理スイッチが残されているのも好印象。FFモデルの試乗車である「Cool」の内装は黒基調。シートはセミアニリン本革とウルトラスエードの組み合わせとなる。
ヤリスクロスよりも着座位置を下げることで一体感を演出。アクセルペダルも足首の動きに沿うオルガンタイプを採用する。
Bセグメントであることを実感させられるのが後席で、足元の空間にはそれほど余裕がない。ファミリーユースではなく、パーソナルユースを前提として前席優先のパッケージとしているLBXが割り切った部分と言えるだろう。

乗り心地は、街中でのんびり走っていた際はやや硬い印象があったものの、速度を上げていくに連れてシャキッとした歯切れの良いドライブが楽しめるようになる。LBXは欧州が主要な販売地域のひとつということもあり、極低速域よりも40km/h以上の車速でフラットになるような足まわりのチューニングが施されているとのこと。開発時にはランナバウトを想定して、ランナバウトへの進入〜旋回〜繋がり〜脱出という一連の流れも想定し、そこでいかに気持ちよく走れるかというテストも行なわれたそうだ。

扱いやすいボディサイズ、優れた静粛性と乗り心地、そして所有欲をくすぐる上質な内外装の仕立てがLBXの持ち味だ。

高速道路の料金所をくぐって本線に合流する際にフル加速すると、意外なほど元気な加速にも驚かされた。1.5Lエンジンは最高出力91ps、最大トルクは120Nmと、ヤリスクロスと同スペック。だが、モーターは最高出力94ps&最大トルク185Nmと、ヤリスクロスの80ps&141Nmよりも強力なものが組み合わされていることに加えて、バッテリーもLBXはより高出力なバイポーラ型のニッケル水素電池を搭載している。これらによってアクセル操作に対するモーターアシストが大幅に強化され、LBXの俊敏なダッシュが実現しているというわけだ。

エンジンマウントの最適配置による起動時のショック低減や、エンジン本体へのバランスシャフト採用による低回転時のフロア振動抑制など、静粛性向上のための施策が多数盛り込まれている。

今回はFFと4WDの両モデルに乗ることができたのだが、乗り心地は4WDモデルの方がドタバタする印象があった。車両重量は4WDモデルの方が80kg重く、またリヤサスペンションがFFモデルではトーションビームなのに対して、4WDモデルはダブルウィッシュボーンという違いが影響しているのだろうか。開発スタッフにお聞きすると、FFも4WDも同じ乗り味になるようにチューニングされているとのことだが、同時に試乗した他の編集部員2名も「FFモデルの方が乗り心地がいい」という意見で一致した。LBXの4WDモデルは雪道など低μ路で発進をアシストするのが主目的で、コーナリング時に旋回性能を引き上げるようなタイプではない。というわけで、積雪地帯でなければFFモデルの方を選ぶのが無難かもしれない。

1 / 2

「500万円のコンパクトカー! 値段は型破りだが、乗れば確かにその価値がわかる」の1枚めの画像
FFモデルのリヤサスペンションはトーションビーム式

2 / 2

「500万円のコンパクトカー! 値段は型破りだが、乗れば確かにその価値がわかる」の2枚めの画像
4WDモデルのリヤサスペンションはダブルウィッシュボーン

4WDモデルの試乗車は”Relax”。”Cool”とはデザインの異なる18インチ・アルミホイールを履く。
“Relax”はセミアニリン本革シートが標準となり、カラーもブラックとサドルタン(写真)の2色から選択が可能だ。
価格は”Relax”も”Cool”も同一。FFが460万円、4WDが486万円となる。ちなみに”Bespoke Build”は550万円(FF)/576万円(4WD)。

というわけで、約8万円のスニーカーを買うような甲斐性のない自分は、最初は約500万円という価格に懐疑心を抱いていた。しかし、実際に見て触れて乗ってみると、LBXにはその値段分の価値がしっかりと込められていることを実感できた。さらに刺激的な走りを望む人(懐に余裕がある人)は、東京オートサロン2024年でお披露目されたハイパフォーマンスバージョン(LBX MORIZO RR CONCEPT)も順調に開発が進んでいるとのことなので、そちらの発売を待つのも一興だ。

東京オートサロン2024に出店されたLBX MORIZO RR CONCEPT。1.6L直列3気筒インタークーラーターボエンジン(G16E-GTS)を搭載する。写真の出展車はマスタードライバーでもあるモリゾウの愛車としてカスタマイズされたもので、各部にイエローがあしらわれている。
レクサスLBX “Cool”
レクサスLBX Relax(FF)
全長×全幅×全高:4190mm×1825mm×1545mm
ホイールベース:2580mm
車重:1310kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式/Rトーションビーム式 
駆動方式:FF
エンジン
形式:直列3気筒DOHC+THSⅡ
型式:M15A-FXE
排気量:1490cc
ボア×ストローク:80.5mm×97.6mm
圧縮比:ー
最高出力:91ps(67kW)/5500pm
最大トルク:120Nm/3800-4800rpm
燃料供給:PFI
燃料:レギュラー
燃料タンク:36L
フロントモーター:1VM型交流同期モーター
最高出力:94ps(69kW)
最大トルク:185Nm
バッテリー:ニッケル水素電池
電圧:28.8V
電池容量:5Ah
総電圧:210.6V
燃費:WLTCモード 27.7km/L
 市街地モード28.1km/L
 郊外モード:29.8km/L
 高速道路:26.4km/L
車両本体価格:460万円
レクサスLBX “Relax”
レクサスLBX Relax(E-Four)
全長×全幅×全高:4190mm×1825mm×1545mm
ホイールベース:2580mm
車重:1400kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式/Rダブルウィッシュボーン式
エンジン
形式:直列3気筒DOHC+THSⅡ
型式:M15A-FXE
排気量:1490cc
ボア×ストローク:80.5mm×97.6mm
圧縮比:ー
最高出力:91ps(67kW)/5500pm
最大トルク:120Nm/3800-4800rpm
燃料供給:PFI
燃料:レギュラー
燃料タンク:36L
フロントモーター:1VM型交流同期モーター
最高出力:94ps(69kW)
最大トルク:185Nm
リヤモーター:1MM型交流同期モーター
最高出力:6ps(5kW)
最大トルク:52Nm
バッテリー:ニッケル水素電池
電圧:28.8V
電池容量:5Ah
総電圧:210.6V
燃費:WLTCモード 26.2km/L
 市街地モード24.7km/L
 郊外モード:28.8km/L
 高速道路:25.3km/L
車両本体価格:486万円

キーワードで検索する

著者プロフィール

長野 達郎 近影

長野 達郎

1975年生まれ。小学生の頃、兄が購入していた『カーグラフィック』誌の影響により、クルマへの興味が芽生…