クラウンスポーツPHEVの4灯式テールランプのモチーフとなったのは懐かしのあのクラウン!

トヨタ・クラウンスポーツRSは、超エリートビジネスマンのごときプラグインハイブリッド車!

クラウンの長い歴史上、最大の改革となった16代目クラウン。その4モデルの中で最もエモーショナルなデザインを纏うのが、SUVボディのクラウンスポーツだ。プラグインハイブリッドモデルの追加に伴って開催された試乗会では、あらためてその日本車離れしたスタイリッシュな姿にホレボレ。もし実車を見る機会があれば、ぜひ21インチの大径タイヤとワイドに張り出したリヤフェンダーにご注目あれ!

「21インチをいただけたのだから、カッコよくできなかったら叱られます(笑)」

「徳川幕府の江戸時代も15代で幕を閉じております。なんとしても、クラウンの新しい時代をつくらなければいけない」。そんな豊田章男社長(当時)の決意表明とともに登場した16代目クラウン。ボディデザインのまったく異なる4モデルのクラウンシリーズが一堂に姿を現し、聴衆の度肝を抜いた2022年7月の発表会はクラウンの長き歴史における大きなターニングポイントとなった。そんな近代日本の幕が開いた明治維新のごとき衝撃の発表から1年の時を経て、23年9月にはクロスオーバー、11月にスポーツ、12月にはセダンが相次いで発売され、24年にはエステートの発売も予定されている。

4モデルが揃う16代目クラウン。静粛性や快適性といったクラウンらしさは全モデルに共通の要素として盛り込みつつ、SUVボディのクラウンスポーツにはよりエモーショナルなデザインや操る楽しさを重視してつくり込まれている。

今回、クラウンスポーツに後から加わった新グレード「RS」の試乗会が開催された。既存の「Z」グレードはハイブリッドで、「RS」はPHEV(プラグインハイブリッド)といった具合にパワートレインが差別化されている。編集担当の私は横浜近辺の都市高速〜街中を移動のためにドライブ。短時間の運転だったため、詳細なインプレはできないが、走りの印象はひと言でいうと「しっとり」。2.5Lプラグインハイブリッドのシステム出力は22.5kW(306PS)に達しており、フロントブレーキは6ポット対向アルミキャリパーというスペックを聞くと、どれだけスポーティなクルマなのかと身構えてしまったが、混雑している道を淡々と走っていても、尖った性格を見せるような場面は皆無。仕事がバリバリできるのに、決してそれをひけらかさないエリートビジネスマンの如し、である。

クラウンスポーツRS(プラグインハイブリッド車)のエクステリアは、Z(ハイブリッド車)とほぼ同様。違いはホイールデザインと、テールゲート右側に備わるバッジ(PHEVもしくはHEV)くらいだ。
リヤスタイルはクラウンスポーツの白眉。リヤフェンダーの張り出し具合は”官能的”と称したくなるほど。
2.5LエンジンはハイブリッドのZと同形式のものだが若干パワーが抑えられている。その代わり、前後モーターの出力アップが図られており、システム出力はZが172kW(234PS)なのに対して、RSは225kW(306PS)を発揮する。
RSは満充電の場合、90kmのEV走行が可能。普通充電だけでなく、急速充電にも対応する。急速充電の場合は、約38分で満充電量の約80%の充電が可能という。
「アイランドアーキテクチャー」と称する、アシンメトリーに造形された内装が特徴。Zのインテリアカラーがサンドブラウンとブラックなのに対して、RSは鮮烈なレッド。いやがうえにも気分が盛り上がる。
RSはシートも専用タイプ。Zよりもサポート部分が盛り上がっているが、タイト過ぎず、適度に身体をホールドしてくれる。

そんなクラウンスポーツ(PHEV)だが、そんな走りの良さを堪能する前に、まず実車を目の前にした瞬間から日本車離れしたデザインに目を奪われてしまった、というのが正直なところだ。「ダイナミックな走りを予感させるエモーショナルな形」というエクステリアの謳い文句は伊達ではない。前述の例えを言い換えるならば、仕事ができるのに、決してそれをひけらかさない二枚目エリートビジネスマン、だ。

試乗会場では、クラウンスポーツのデザインを手がけた串間幸生さんにお話をお伺いする機会があった。そこで「クラウンスポーツ、カッコいいですねぇ〜」とお伝えすると、

「ありがとうございます。デザイナーとしては、このクルマのサイズで21インチ(タイヤ)をいただけたので、これはカッコよくしないと叱られる(笑)という思いでデザインしました」と答えてくれた。

そう、クラウンスポーツは21インチのタイヤが標準なのだ。全長がクラウンスポーツとほぼ同等(約4.7m)のハリアーは19インチが標準設定の最大サイズというのを聞けば、クラウンスポーツの21インチがいかに異例の大きさかがおわかりいただけるだろうか。

21インチタイヤ、ショートオーバーハング、そして小さいキャビンと、デザイナーにとってはスタイリッシュなデザインをつくるのに有利な要素が多かったというクラウンスポーツ。

これまでは、ばね下重量が重くなってしまって操縦安定性に悪影響が出てしまうことを懸念して、21インチのような大径タイヤを提案することは難しかったそうだ。そこでタイヤが少しでも大きく見えるよう、ボディサイドにラインや絞りを入れるクルマが多かった。しかし、クラウンスポーツでは21インチが実現したため、そうした小技を用いる必要がなくなり、結果、”余分な”ラインが存在しない抑揚のあるボディサイド面を実現することができたというわけだ。

ハイブリッドの「Z」グレードとは異なる、「RS」の専用デザインとなるアルミホイールにも注目だ。細身のスポークの一部はトリプルスポークとなっている凝りようで、スポークの隙間からは6ポット対向アルミキャリパーがその存在をアピールし。ちなみにキャリパーには「OP-6」の文字が描かれているが、これは対向(=Opposed)6ポットを意味している。

タイヤサイズは235/45R21、銘柄はミシュランe-プライマシーを履く。
スポークの隙間から、6ポット対向アルミキャリパーがチラリと顔を覗かせる。

足元のほかにクラウンスポーツの見せ場となっているのがリヤフェンダーだ。キャビン後部が絞り込まれるのと反比例するかのように、大胆かつワイドに張り出したその造形美は実車でも一見の価値あり、と言える。

実際のところ、クラウンスポーツのデザインはリヤから始まったのだという。クラウンスポーツの開発全体を司どった主査の本間裕二さんは、「リヤクォータービューのスケッチがあるのですが、実車を同じ角度から撮影すると、ほぼ一緒。それくらい忠実にデザインを再現できていますし、そこまでできたクルマは他にはなかなかないと思います」と、ちょっと誇らしげに教えてくれた。

クラウンスポーツの開発に従事した本間裕二主査。

しかし、その実現には相当の苦労があったようだ。本間さんは次のように振り返る。「僕ら自身も、デザイナーが描いたスケッチを初めて見たときに”無茶苦茶カッコいい!”と思ったんですよ。絶対にこのデザインで絶対に世に出すんだ、とチームが気持ちをひとつにしてやってきました」

「だからこそ、このリヤフェンダーも実現できたんです。これはプレス(担当)の人たちが本当にすごく苦労しました。最初は割れまくったんです。そこで何百パターンもの金型の動かし方を突き詰めたりして、なんとか完成することができました」。デザイナーと設計側、そして製造側が一致団結した賜物が、クラウンスポーツの艶姿というわけである。

最後に、トリビアをひとつ。クラウンの歴史上で初めてのSUVとなったクラウンスポーツ、そのデザインは15代の歴史の延長線上にはないまったく新しいもの…と思っていたら、実はかつてのクラウンを想起させる部分が一ヶ所あるという。それはテールランプ。クラウンクロスオーバーやクラウンセダンが横一文字形状なのに対して、クラウンスポーツは左右が独立した4灯となっている。そのモチーフともなったのが、12代目(通称ゼロクラウン)に設定されたスポーツグレード「アスリート」の4灯テールだったとか。クラウンファンにとっては、ちょっとホッコリなエピソードではないでしょうか。

クラウンスポーツのテールライトは4灯を採用。これはクラウンアスリートのオマージュだった!
12代目クラウンは主要コンポーネンツやデザインを刷新し、オーナー層の若返りを図ったモデル。通称「ゼロクラウン」として人気を博した。走りを訴求した「アスリート」も、ゼロクラウンから始まったモデルだ。
アスリートのテールランプも4灯式! この後、アスリートは14代目まで設定されたが、そのテールランプはすべて4灯式が継承された。※写真はニューモデル速報第338弾「新型クラウンのすべて」より。
トヨタ クラウン スポーツ RS(2.5Lプラグインハイブリッド車)
全長×全幅×全高:4720mm×1880mm×1570mm
ホイールベース:2770mm
車重:2030kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rマルチリンク式
エンジン形式:直列4気筒DOHC
エンジン型式:A25A-FXS
排気量:2487cc
ボア×ストローク:87.5mm×103.4mm
圧縮比:-
最高出力:177ps(130kW)/6000rpm
最大トルク:219Nm/3600rpm
過給機:×
燃料供給:DI+PFI(D-4S)
使用燃料:レギュラー
燃料タンク容量:55ℓ
モーター:
フロント 5NM型交流同期モーター
 最高出力182ps(134kW)
 最大トルク270Nm
リヤモーター 4NM型交流同期モーター
 最高出力54ps(40kW)
 最大トルク121Nm

駆動方式:4WD(E-FOUR)
WLTCモード燃費:20.3km/L
 市街地モード17.5km/L
 郊外モード21.5km/L
 高速道路モード21.0km/L
充電電力使用時走行距離90km
車両価格:765万円

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著者プロフィール

長野 達郎 近影

長野 達郎

1975年生まれ。小学生の頃、兄が購入していた『カーグラフィック』誌の影響により、クルマへの興味が芽生…