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SLの原点回帰とGTとの統合!外観の共通点はほとんどない!?
2021年10月、メルセデス-AMGが現行SLを発表した。それまでのメルセデスベンツのSLとは違って、AMGが開発し、AMGの工場で生産され、メルセデス-AMGのブランドで販売されている。
これはSLが70年前のルーツに、あらためて立ち返る施策だ。1952年にデビューした300SLはレースで数々の伝説を残した不朽の名作。しかし63年の2代目以降、SLはレースの世界とは距離を置き、パワフルだがエレガントなコンバーチブルとして進化してきた。
そんな歴史のネジを巻き戻し、メルセデスのモータースポーツを司るAMGが手掛けたのが現行SLである。それは「SLらしさ」の原点回帰として理解できるが、AMGの最強クーペであり、レースでも活躍するAMG GTはどうなるのか? そのDNAのルーツも300SLにあるわけで・・。
現行SLの発表当時から、関係者は「次世代AMG GTがSLと統合される」ことを隠していなかった。果たして昨年8月に米国ペブルビーチで発表され、日本では4月2日にデビューしたAMGの新型GTクーペは、基本的には現行SLの兄弟車と言えるクルマだ。
AMG専用のプラットフォームを共有し、同じくAMG専用のエンジン/トランスミッションも共通。メルセデス-AMG本社の英文広報資料を読み比べると、SLからGTクーペにコピペされた部分が少なくない。それほど両車は近い存在なのである。
ユーザー要望に応えた2+2シーターのレイアウト
SLとGTクーペに共通する大きな特徴のひとつが、2+2シーターのパッケージになったことだ。
SLの長い歴史のなかで、後席を設けたのはこれが初めて。ただし後席に座れるのは、身長150cm以下という制限がある。現実的には手荷物をそこに置いたり、休憩時にバックレストをリクライニングさせたりするための後席スペースと考えるべきかもしれない。その利便性・快適性も重要だ。
新型GTクーペでは後席はオプション。こちらも150cm制限だが、それを備えると、バックレストを倒して荷物スペースを321リットルから675リットルに拡大できる。2シーターだった従来のAMG GTに対して実用性が格段に進化したし、240リットル(幌格納時は213リットル)のSLとの差別化ポイントにもなるだろう。
高性能スポーツカーにそんな実用性が必要かと思う人もいるだろうが、メルセデス・ベンツ日本の上野金太郎社長は発表会で「お客様のニーズがある。それに応えたまで」と語っていた。
モダンになったプロポーション
2+2パッケージの採用にともなって、どちらもホイールベースが2700mmに延びた。SLは先代+115mm、GTクーペは従来のGTに対して+70mmだ。しかしその程度の延長で、いくら身長150cm制限とはいえ、後席空間を確保することはできない。そこでとくにGTクーペはプロポーションが大きく変えた。
従来のGTは大胆なまでにAピラーの根元を後ろに引いた上で、その傾斜を立て気味にして居住性や視界を確保していた。古典的なFRスポーツのプロポーションだが、現代では他にない強烈な個性。スーパーGTなどのレースで走る姿を見ても、ひときわ個性際立つ存在だった。
そんな従来型に比べて新しいGTクーペは、依然としてボンネットは長いとはいえ、Aピラーの根元がかなり前進したし、その傾斜も寝た。SLは後席の背後に幌の格納スペースがあるので、パッケージングがより難しい。SLで前後席のレイアウトを決め、Aピラーの位置や傾斜も定めて、それをGTクーペに適用したと考えるのが妥当だろう。
その結果、GTクーペのプロポーションがモダナイズされた。しかしモダンになって存在感が薄れるほど、ヤワな個性ではない。市場でもサーキットでもライバルのポルシェ911は、こちらも2+2のファストバッククーペだが、プロポーションの違いは明らか。911はリヤエンジンだから、Aピラーがもっと前にある。
もうひとつ従来型とのプロポーションの違いを示す目印が、ドア開口線から後輪ホイールアーチまでの距離だ。前席が前に寄ったので、そこが延びた。その寸法を利用して、SLよりもリヤフェンダーの張り出しを強めることができたというのも大事なポイントだろう。
GTクーペはSLよりリヤトレッドを60mm前後も広げ(グレードにより異なる)、ワンサイズ太いタイヤを履き、全幅は70mm広い。ドアは共通だから、そこから後ろに寸法がなければこんな拡幅は実現しなかったはず。プロポーションをモダナイズしたおかげで、SLの兄弟車でありながらGTクーペは独自の個性を打ち出すことができたのだ。