トヨタ・ハイラックスをミリタリースタイルで楽しむ! ピックアップトラックの”テクニカル”仕様ってなに?『SPRING Party!』で見つけた凄いクルマ

2024年3月10日(日)、千葉市中央区フェスティバルウォーク蘇我・共用第二駐車場にて、アメリカ車専門誌『アメ車マガジン』(文友舎刊)主催の『SPRING Party!』が開催された。会場には新旧様々なアメ車がエントリーしていたが、その中でもひと際存在感を放っていたのがトヨタ・ハイラックスのテクニカル仕様(民生用のSUVやピックアップトラックベースの即席軍用車)であった。「アメ車じゃないじゃん!」とのツッコミを思わず入れたくなったが(ちなみにエントリーしていた日本車はこれだけだった)、ベッドには星条旗を掲げ、米軍正式装備のMINIMIをマウントした米軍と契約したPMC(民間軍事車両)のテクニカルということで、これも立派なアメリカンカスタムだ。ということで、ユニークかつカッコイイ軍用ハイラックスをテクニカルの解説とともに紹介する。
REPORT&PHOTO:山崎 龍(YAMAZAKI Ryu)

アメ車が200台以上大集合!!『SPRING Party!』で見つけたヒストリックカーからマッスルカーまで!人気モデルもレア車も一気に見せます!!

2024年3月10日(日)、千葉市中央区フェスティバルウォーク蘇我・共用第二駐車場にて、アメリカ車専門誌『アメ車マガジン』(文友舎刊)主催の『SPRING Party!』が開催された。2024年のアメ車イベントの先陣を切って開催されたこのイベントには、地元千葉を中心に関東一円から200台を大きく超えるアメリカ車が集結した。今回はそんなイベントに集まった個性豊かなマシンを紹介しよう。 REPORT&PHOTO:山崎 龍(YAMAZAKI Ryu)

会場で独特の存在感を放つテクニカル仕様のハイラックス

さまざまなアメ車が並ぶ『SPRING Party!』の会場で、異様な存在感を放つ1台のマシンがエントリーしていた。そのクルマはアメ車ではなく、タイトヨタが生産する現行型ハイラックスだった。フロントビューは大型のアニマルバンパーが装着されている以外はほぼノーマルだが、リアに回るとベッドには銃架に載せられたMINIMI(ミニミ)軽機関銃が! そう、このハイラックスは「テクニカル」仕様なのである。

アニマルバンパーとルーフラック、MINIMIを銃架に取り付けたロールバー、追加したフォグランプや作業灯以外はほぼノーマルのライトカスタムなのだが、不思議と存在感はかなりのもの。

ミリタリー方面の話題に明るくない多くの人にとって「テクニカル」とは耳馴染みのない言葉かもしれないが、これはニュース番組などの戦場リポートで目にすることが多い民生用のSUVやピックアップトラックに機関銃や対空機関砲、ロケットランチャー、無反動砲などの火器を搭載した即席の軍用車両のことを指す。

1992~93年頃に撮影されたソマリアの首都・モガディシュで撮影された民兵の乗る古いランクル40のテクニカル。同地は映画『ブラックホーク・ダウン』の舞台となったことでも知られる。

こうした車両はスペシャルフォースなどの不正規戦部隊を除くと先進国の正規軍が装備することは稀で、そのほとんどが発展途上国の軍隊や治安組織、PMC(民間軍事会社)、傭兵、民兵、ゲリラ、テロリスト、マフィア、麻薬カルテル、密輸組織などの武装集団で使用されている。ベース車にはさまざまな車種が用いられているが、その中でも現場から圧倒的に支持を集めているのがトヨタ製のランドクルーザーとハイラックスで、戦場で戦う兵士たちにとっては、ロシア製のカラシニコフ小銃やRPG-7対戦車ロケット弾と並び「頼りになる戦友」として長きに渡って愛され続けている。

彼らがなぜトヨタ製のSUVやピックアップトラックを熱烈に支持しているかといえば、他車とは比べ物にならない徹底した信頼性と堅牢性に加えて、貧しい紛争地帯でも容易かつ比較的安価に入手でき、扱いが簡単でメンテナンスや部品の入手に悩まされることが少ないからだ。

2008年に撮影されたランクル70に乗るチャドの兵士。1986~87年のチャド内戦末期に政府軍・反政府軍がともにこのようなトヨタ製のテクニカルを戦闘に大量投入したことから、この戦争は後に「トヨタ戦争」と呼ばれるようになる。

しかも、ランドクルーザーやハイラックスには現場の兵士たちが何よりも重視するコンバットプルーフ(武器や兵器の使用実績のことを指し、実戦で性能や信頼性などが証明されること)がしっかりとある。
1978~87年のチャド内戦(チャド・リビア紛争)はリビア軍とチャド反政府軍による連合軍とフランスの支援を受けた政府軍による戦いであったが、内戦末期(1986~87年)から政府軍と反政府軍がともにテールゲートに「TOYOTA」のロゴが入ったピックアップトラックを大量投入したことから、のちに「TOYOTA WAR」と呼ばれるようになった。

この内戦では政府軍のテクニカル数台が、T-54/55やT-62などのソ連製戦車で編成されたリビア・チャド反政府連合軍の機甲一個中隊に奇襲攻撃を仕掛け、その優れた機動性でたちまち壊滅させたという記録が残っている。テクニカルは民生用車両の転用ということもあり、装甲車のような耐弾性能はまったく期待できず、5.45mmクラスの小銃弾すら容易に車体を貫通してしまうが、使い方次第で恐るべき戦力となることがこの一件で証明されたのだ。

河北中興汽車のグランドタイガーをベースにしたテクニカル。このメーカーは人民解放軍の兵器工場を母体としたSUV・ピックアップトラックメーカーで、ユーザーフレンドリー(?)なことに最初からフレームに銃架が取り付けやすい設計になっている製品だとか。一時は日本メーカーがテクニカル市場を独占していたが、近年では中国車も追い上げを見せている。しかしながら依然としてブランド力では日本車が圧倒しており、現場の兵士たちからは熱い支持を集めていることに変わりはない。

なお、このような武装車両を「テクニカル」と呼ぶようになった背景には、1988年のソマリア内戦時にとあるNGO(非政府組織)が同地にボランティアスタッフを送る際に政府から民間の警備要員を連れて行くことを禁じられたため、要員保護のため政府支給の「技術支援助成金(technical assistance grants)」を利用して現地で民兵をガードマンとして雇用した。その際に彼らが武装した民生用ピックアップトラックを用いていたことから、この種の車両を「テクニカル」と呼称するようになったとされる。ほかにも「ガンワゴン」や「バトルワゴン」、「ガンシップ」などの名称で呼ばれることもある。

ハイラックスをベースに中東で活躍するPMC仕様のテクニカルにカスタム!

さて、『SPRING Party!』にエントリーしていたハイラックス・テクニカルだが、武装としてMINIMI(もちろんモデルガン)を搭載し、荷台に星条旗を掲げており、オーナーはPMC装備で身を固めていることから、イラクやアフガニスタンで軍に雇用されていたプライベート・オペレーター(民間軍事会社の警備員)仕様であることがわかる。

『SPRING Party!』にテクニカル仕様のハイラックスでエントリーしたオーナー氏。米軍と契約したPMC(民間軍事会社)を模したプライベート・オフィサーのユニフォームで身を固め、暗視ゴーグル付きのヘルメット、イヤープロテクター、タクティカルベストで完全武装。これもひとつのアメリカ的なスタイル。

米軍と雇用関係にあるPMCでは、シボレー・シルバラードやフォードF-150、トヨタ・タンドラなどの米国製のフルサイズ・ピックアップトラックを用いるのが一般的ではあり、より小さなミッドサイズ・ピックアップトラックを使う場合でも、フォード・レンジャーやトヨタ・タコマが使われることが多い。

2009年にアフガニスタンで撮影されたアフガニスタン国家警察のフォード・レンジャー。アメリカが他国に供与した車両や、米軍と契約したPMCは一般的にはアメリカ製のピックアップトラックとなる。だが、状況によっては現地で入手しやすい車両が用いられることもあるようだ。
シリア駐留の米軍が使用する3代目トヨタ・タコマ。タコマはハイラックス後継の北米生産車。米軍では一般的にHMMWV(ハンヴィー)などの軍用車を用いるが、特殊部隊や後方地域ではNSTV(non-standard Tactical Vehicles:非標準戦術車両)という名称でテクニカルを用いることがある。

しかし、テクニカルの使用車種にはルールはなく、必要要件と性能を満たしていれば車種は何でもよく、比較的入手し易い車両が選ばれるため、タイトヨタ製のハイラックスが戦場で使用されていないとは断言できない。そうしたことから考えてもベース車のセレクトに問題はない。

ハイラックスに取り付けられたMINIMI軽機関銃のモデルガン。テクニカルの実車も5.45~7.62mmクラスの分隊支援機関銃はロールバーマウントでも発射の反動に耐えられる。12.7mmクラスの重機関銃になるとベッドに穴を開けて直接フレームに銃架を固定する必要がある。

フロントのアニマルバンパーとベッドのロールバーは純正オプションではないため、おそらくは社外品。ロールバーには銃架が取り付けられており、MINIMIがマウントがされている。仮にブローニングM2やDShK38のような12.7mmクラスの重機関銃を乗せるとしたら、ベッドに穴を開けてフレームに直接銃架を設置しなければ反動には耐えられないと思われるが、5.56mmクラスの軽機ならロールバーへのマウントでもおそらくは発射の反動も問題はないだろう。武装のセレクトもリアリティがあってナイスだ。

ディティールにもこだわり軍用車っぽく無骨にカスタム!

ハイラックスのアニマルバンパーやルーフラック、ドアミラーにはアンダーコートのような粒子の大きいマット塗装が施されていた。

オーナーは細部のディティールにもこだわりを見せており、フロントのアニマルバンパーとルーフラック、ドアミラーは無骨なマットブラックでペイントしており、車体の各部にはフォグランプと作業灯を増設して軍用車らしい無骨さを演出している。

ハイラックスのリアビュー。ロールバーにマウントされたMINIMIの搭載方法がよくわかる。大きくたなびく星条旗によって米軍車両であることを主張している。

また、ボンネットとフロントフェンダーには手製と思われる「TOYOTA OF WAR」のエンブレムが取り付けられている。このエンブレムはトヨタのエンブレムに武装した2台のハイラックスがあしらわれており、センスも抜群でなかなかカッコイイ。このエンブレムだけでも思わず欲しくなってしまった。

オーナーの手でワンオフ制作されたと思しき「TOYOTA OF WAR」の特製のエンブレム。
ハイラックスの戦場での活躍を誇らしく主張したカッコイイエンブレムだ。

オーナーは自身が集めたコレクションを車内と荷台に積んできたのだろう。車両の前方にはボディアーマーやアリスパック、マガジンポーチ、カスタマイズされたM4カービン(の電動ガン)などの装備類を陳列し、ベッドには軍用のコンテナが無造作に置かれていた。

現在でも戦いが続くウクライナでも日系テクニカルは活躍する。写真はウクライナ陸軍の日産ナバホで、米国供与の車両らしくベッドにはブローニングM2が鎮座する。ほかにも三菱トライトン、いすゞD-MAX,トヨタ・ランクルなどが、ウクライナの自由と平和のために活躍中だ。
フランス陸軍がプジョーP4(メルセデス・ベンツ230Gベース)の後継として採用したマステックT4。ベースはランクル70で、日本のトヨタ工場で製造された車両をフランスのテクナム社が軍用に改装した車両。テクニカルとして紛争地域で活躍するトヨタ製SUVやピックアップトラックだが、先進国の正規軍での採用例も少なからずある。また、ランクルは装甲車への改修キットが兵器市場ではメジャーな商品となっており、それらを用いることで中近東や南米、東南アジアなどでは軽装甲車として使用されている。

ハイラックスのこうしたカスタムはカーミーティングで見かけることはなかったが、充分に個性的だし、よく目立つ。ピックアップトラックが流行しつつある昨今、テクニカル仕様にカスタムしてサバイバルゲーム会場に乗りつける……という楽しみ方もアリかも?

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トヨタ・ハイラックス”テクニカル仕様”カスタム・フォトギャラリー

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著者プロフィール

山崎 龍 近影

山崎 龍

フリーライター。1973年東京生まれ。自動車雑誌編集者を経てフリーに。クルマやバイクが一応の専門だが、…