その昔、『巴里のアメリカ人』というミュージカル映画がありましたが、今回はパリで愛されているイタリア車について、ボクの描いた水彩画をまじえてお話ししていきましょう。
フィアット チンクエチェント。新旧“チンク”はパリでもよく見かける素敵なイタリア車の一台です。タイトル画の1台は、パリのモンパルナス地区の近く、お洒落なブティックやカフェが並ぶヴァヴァン通りで見かけた素敵なチンクエチェントです。
その日はパリを一日歩き回り、午後にヴァヴァンのカフェで休憩、夜には友人とホテルの部屋でごはんを食べようとしたその時です。手元にカメラが見当たらないことに気が付きました。青くなったボクは、急いで最後にカメラを使った記憶があるヴァヴァンのカフェへ地下鉄で向かいました。
祈るような気持ちでカフェにつくと、お店のお兄さんが笑顔でカメラを手渡してくれたのでした。お兄さんにカメラで撮影を頼んだりしたので覚えていてくれていたそうです。お礼を言って帰る道すがら、夜の9時過ぎごろでしょうか、薄暗くなってきたヴァヴァンで見たのがこのチンクエチェントでした。シックなボディカラーと後ろの白い壁がハッとするほど美しく、嬉しくなったボクはこの瞬間を神様に感謝しつつ、夢中でシャッターを押したのでした。
こちらは、エッフェル塔の近くのカフェの前で見かけたオレンジのチンクエチェント。ちょっとヤレた感じが魅力的でした。古いイタリア ナンバーがついているのも珍しく、たまたま通りかかった女の子たちも楽しげに見えました。
こちらはマレ地区で見たブルーのチンクエチェント。パリは細い道が多いので、駐車もしやすい小さなクルマが愛されています。チンクやミニ、スマートやトゥインゴなどが、街並みを美しく彩ります。特にリュック・ベッソンの映画『グランブルー』が公開された後、パリにこの古いチンクエチェントがとても増えた気がしました。
こちらはヴィラージュ サン ポールのアパルトマンに泊まったときに、目の前の細い路地で出逢ったセイチェント(600)。チンクエチェントを設計する前にダンテ・ジアコーザ博士が設計した名車です。「500の空冷2気筒に対して、600の水冷4気筒はとても乗りやすくいい車だよ」と同車を所有している友人から聞いたことがあります。このお店の前で立ち話をしていたおじさんが、軽快に乗り込んで走り去って行きました。
パリではアルファロメオも魅力的です。こちらはエコール ミリテールの近くの路地を歩いているときに、まだ小さかった息子がみつけた、美しいジュリア スパイダー。ピニンファリーナ・デザインの小粋なスパイダーは、ジュリエッタとしてデビューし、後にエンジンをスケールアップしてジュリア スパイダーとなりました。このスパイダーは、なんとも言えないゴールドと紫の間のようなメタリックで、オープンのまま佇む姿がゴージャスでした。
こちらは、2月のパリで出会ったデュエット スパイダー。雨上がりのマレのフラン ブルジョワ通りで駐車していた赤いデュエットは、まるで映画の中の1シーンのようでした。黒い小さなトップも小粋ですね。
そして、バスティーユの路地で出会ったのは、白いジュリア。ジウジアーロ・デザインのヴェローチェは大好きなデザインで、イエローバルブのヘッドライトと古いパリの黒ナンバーが時代を感じさせます。
こんな小さなクルマはいかがでしょう? パリでもよく見かけるスクーターでおなじみのヴェスパが――イタリアのピアッジオ社が――60年代に作っていた唯一の4輪車、ヴェスパ400。正確には設計はピアッジオ社ですが、ヴェスパの製造ライセンスを持っていたフランスのACM社で作られていたクルマで、当時のフランス製のプラスティックで作られたノレブ社のミニカーはボクの宝物です。こちらは16区に泊まったときに見た綺麗なブルーのヴェスパ400。写真で見るより更に小さくて、チンクエチェントよりも小ぶりの二人乗りです。
最後にこちらは、北マレで見たチンクエチェント・ベースのアウトビアンキ ビアンキーナ。かわいいオープンの小さなクルマで、素敵なグリーンが印象的でした。
パリで見かけたイタリア車たちは小さなクルマが多かったのですが、16区で見たフェラーリ マラネロ スパイダーは堂々として、街並みにピタリとマッチしていました。ベントレーのミュルザンヌも美しかった。あの街並みがあれば、どんなクルマも魅力的に映るのかもしれませんね。
(初出:『アウトモビリ in パリ』 2022年3月5日 編集部にて一部改稿)