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最新ハイブリッドを搭載したセダン&SUVの実力は!?
5月23日、筑波サーキット(コース2000)で吉利汽車(ジーリー)のセダン&SUVの試乗会が行なわれたので、その模様をレポートしたい。…と言っても、多くの方は「吉利汽車」という名前に馴染みがないはず。ということで、まずは吉利汽車という自動車メーカーの概要からご紹介しよう。
吉利汽車は中国の自動車メーカー。李書福氏が1986年に立ち上げた冷蔵庫部品の製造会社がその起源だ。97年には自動車産業への参入を開始し、2001年には中国で最初の自家用車メーカーとして中国当局からライセンスを取得。以降、吉利汽車は急速に販売台数を伸ばし、02年には早くも中国で10指に入る自動車メーカーへと躍進を遂げる。
ここから吉利汽車は、さらに成長のアクセルを踏んでいく。03年に吉利ホールディンググループが設立されると、10年にはフォードが所有していたボルボの株式を100%取得。17年にはプロトンの株式49.9%を取得するとともに、マレーシアのコングロマリット・DRB-ハイコムからロータスの株式51%を取得してその支配権を獲得している。そして18年には吉利ホールディンググループの会長を務める李氏がダイムラーAG(当時)の株式9.69%を取得し、メルセデス・ベンツの筆頭株主となった。さらに直近では、22年にアストンマーティンの株式7.6%を取得後、翌23年には17%まで株式を増やして第3位の株主となるなど吉利汽車の勢いはとどまることを知らない。
こうしてこれまでの流れをかいつまんで見てみると、吉利汽車は資金力にモノを言わせてブランドを買いまくっている…ように思えるかもしれない。ところが、吉利汽車のすごいところは、「金は出すが口は出さない」を実践していること。その好例が、前述のとおり、2010年に吉利汽車に買収されたボルボだ。
当初は中国メーカーの傘下に収まることに対する不安の声が聞かれたが、ボルボはそこから急速に業績を回復。日本でもXC60とXC40が連続してカー・オブ・ザ・イヤーを受賞したのは記憶に新しい。そうした近年のボルボの躍進の背景には、ジーリーからの投資を基にした新プラットフォームの開発や新工場の建設があったのである。また、メルセデス・ベンツとはコンパクトカーのスマートを生産する合弁会社を設立したり、ハイブリッド車用のガソリンエンジンを共同で開発したりと提携の規模を次第に拡大している。
吉利汽車自体はいうと、主要ブランドの「ジーリー」のほか、若者向けブランドの「Lynk&Co(リンク・アンド・コー)」、高級EVブランドの「Zeekr(ジーカー)」をグループ内に抱えている。業績は好調の模様で、2023年には前年比18%増の約168万台をグローバルで販売。ボルボやプロトン、スマートなどを含めた全体では279万台を記録した(同20%増)。ちなみに、日本のメーカーでいうとマツダのグローバル販売が約124万台というのを聞けば、吉利汽車の規模がなんとなく想像できるだろうか。
というわけで、前置きが長くなってしまったが、ここからは5月23日に吉利汽車が中国現地自動車メディア「Auto九局下半」の協力によって開催した試乗会の模様をご紹介しよう。
筑波サーキット(コース2000)で我々を出迎えてくれたのは、SUVの「星越L智擎」とセダンの「星端L智擎」だ。
星越Lは、全長4770mm×全幅1895mm×全高1689mmのボディをもつ中型クロスオーバーSUV。2021年から中国で発売が開始され、海外にもモンジャロの名前で展開されている。その星越Lに最近加わったのが新しいハイブリッドパワートレインで、それを搭載したモデルには「智擎」のサブネームが加わっているというわけだ。
その智擎は、最高出力120kW(163ps)&最大トルク255Nmを発生する1.5L4気筒エンジンに、100kW&320Nmのモーターを組み合わせたもの。4.79L/100km(≒20.9km/L)という燃費性能が自慢だ。ユニークなのは、3速のトランスミッションを組み合わせている点だ。どういう仕組みなのか興味が募るが、会場にはメカに詳しい関係者がおらず、資料もないため詳細は不明だ(すみません)。
もう一台の星端Lは、全長4825mm×全幅1880mm×全高1469mm。中国で2020年にお披露目され、星越Lと同様のタイミングでハイブリッドの智擎がラインナップに加わった。
星越Lと星端Lは、中国では1ヶ月で2万5000台を販売しているという。そのうち、約15%がハイブリッドとのこと。中国ブランドとしては、彼の地でハイブリッドのシェアナンバー1という吉利汽車。星越Lと星端Lにはハイブリッドだけでなく、PHEVも用意されている。中国というとBEV一辺倒なのかと思いきや、HEVやPHEVも人気。特に最近、中国ではEVよりもPHEVの方が販売台数が伸びているというのが現実だ。
今回の試乗会の会場には、「中日双擎对抗赛」と大きく書かれたバナーが至るところに飾られていたのだが、どうやらこれは「中日ハイブリッド対抗戦」という意味らしい。中国でも人気のある日本のハイブリッド車と、吉利汽車の最新ハイブリッド車を日本のサーキットで乗り比べてもらって、その実力のほどを知ってもらおう、というのがイベントの趣旨のようだ。そのため試乗会場にはライバル車として、ホンダCR-Vとトヨタ・カムリ(いずれも先代モデル)が用意されていた。
さて、SUVの「星越L智擎」とセダンの「星端L智擎」を実際に目にして「なかなかカッコいいぞ」と思ったのはお世辞ではない。特にセダンの星端Lは、精悍なフロントマスクとシャープなプレスラインの組み合わせが目を引く。また、大型スクリーンをふんだんに使ったインテリアも先進的な雰囲気である。
吉利汽車は現在、シュテファン・ジーラフ氏がデザイン部門を率いている。ジーラフ氏はアウディのデザイン責任者を務めたこともある敏腕デザイナーだ。そうした外部の有能な人材を積極に登用する姿勢も、躍進の要因のひとつなのかもしれない。
とはいえ、そんな星端Lも細部を見ると”粗さ”がやや目についたのも事実。例えばトランクを開けた際に目に入るアームはいかにも無骨だし、トランクルームの奥を覗き込むと上部は鉄板が剥き出しになっている。また、ブレーキキャリパーを赤くペイントしているのは洋の東西を問わないスポーティさの演出手法だが、18インチタイヤとフェンダーとの隙間が妙に広い点も気になった。
では、吉利汽車の走りはどうだったのか。実は今回の試乗会、主役だったのは我々日本のメディアではなく、中国からやってきた現地メディアたち。日本のメディアに許された時間はごく僅かだっため、試乗は味見程度になってしまったのだが….
筑波サーキット試乗レポート
さて、試乗したのは、セダンの「星端L智擎」だ(試乗レポートは鈴木慎一)。
簡単にスペックを見てみよう。
星端L智擎 ボディサイズ 全長×全幅×全高:4825mm×1880mm×1469mm, ホイールベース:2800mmだ。 車両車重:1625kg 搭載エンジン:1.5L直4ターボ 最高出力:120kW(163ps) 最大トルク:255Nm。 モーター;永久磁石同期モーター 最高出力:100kW(136ps) 最大トルク:320Nm 3速ハイブリッドトランスアクスルを組み合わせる 駆動方式:FWD WTLCモード燃費:23.7km/L
サスペンションは、フロントがマクファーソンストラット式、リヤがマルチリンク式だ。電動パワーステアリングはダブルピニオンアシスト式。
中国での価格は、最上級グレードの天宮版で14万6700元(1人民元=21.6円換算で約317万円)だ。
エンジンの熱効率は44.26%だというから、現代世界最高峰である(ちなみに、エンジンブロックには「Lynk&Co」の文字が刻印されていた。
ちなみに、ジーリーがライバルとして持ち込んだ(どうやらレンタカーだったようだが)トヨタ・カムリは2.5L+トヨタハイブリッドシステム(THS)でWLTCモード燃費は24.3km/L。フロントモーターの出力は120ps/202Nmだ(車重はFWDモデルで1580kg)。
こうして見てみると、ジーリーの星端L智擎のスペックは、トップレベルだ。
実車を見ても、デザイン、外観から見た仕上がりは非常に素晴らしい。このサイズでこんな美しいデザインのセダンがあったら、心が動く人も多いのではないだろうか。
プラットフォームはボルボ(前述した通りボルボはジーリー傘下だ)でお馴染みのCMA(Compact Modular Architecture)を使う。つまりボルボXC40とプラットフォームは同じだ。
今回の試乗会(の体をなしていなかったが)では、SUVの「星越L智擎」が1周の同乗走行、セダンの「星端L智擎」は1周だけドライブできた。したがって、報告できるのは第一印象のみであることをお断りしておく。
SUVの「星越L智擎」の助手席で結構なハイペースな走行を体験した。ドライバーは中国人だった(テストドライバーなのかレーシングドライバーなのか、はたまた中国人ジャーナリストなのか、わからなかった)。どんなドライバーなのかわからないまま、サーキットで同乗走行するのは、恐怖以外のなにものでもない。
ドライバーが、「Hello Geely」と呼びかけると、Hello メルセデス!と同様な体験ができる。バッテリーの残量はどのくらいか、ドライバーが聞くとシステムが答えてくれていた。目前には、今風の大型ディスプレイがそびえていたが、モニターの品質は最上級とは言えなかった。なんとなくくすんで見えたのだ。
あっという間の1周だったが、印象は悪くなかった。が、ストロングハイブリッドらしさは感じられなかった。1.5L直4ターボがやや大きなボディを引っ張っている感じ。脚周りはしなやかだが、動きはやや重く感じられた。
今度はドライバーズシートに収まって実際にドライブしてみた。セダンの「星端L智擎」である。
スラロームや、停止~フル加速~急制動などを試したが、確かに破綻はしないし、走りはスムーズだった。しかし、パワートレーンの出力に対してボディが少し重いように感じられた。また、セダンもSUVと同様に「フルハイブリッドならではのモーター駆動の気持ち良さ」はあまり感じられなかった。
2台の吉利汽車(ジーリー)の最新モデルを日本で試乗できたのは、貴重な体験だった。
試乗後、中国メディアのインタビュー(というか、ビデオカメラを向けられた)で、そのときのやりとりだ。Qが中国メディア、Aが筆者である。
Q:ジーリーのクルマ、日本に導入したら売れると思いますか?
A:売れるとは思いません。ハイブリッドモデルについては、日本に優れたクルマがたくさんあります。ブランドの認知度が低いジーリーが日本で成功するのは難しいと思います。ただし、ハイブリッドではなく、BEVなら可能性があるのではないでしょうか。ジーリー(Geely)ブランドではなく、Zeekr(ジーカー)やLynk & Co(リンクアンドコー)の方が成功する確率が高いと私は思います。
だったのが、翌日中国のSNSで公開されていたコメントは
「今日は筑波コースでいくつかの日本の専門メディアにインタビューした。吉利の2つのモデルは非常に高い評価を得て、操作感、動力感、インテリアデザインはすべて良いです。特に贅沢感は十分だ。しかもハイブリッドシステムは日本系よりも直接的なパワー感があり、すでに日本に参入した中国ブランドより高級感がある。価格が適切であれば、市場があるかもしれません」
話していないことを記事にされるのは心外だ。吉利汽車に限らず、中国メーカーで日本参入を計画しているところは複数あるようだ。だが、まずは「認知してもらうこと」「相互理解」からスタートする必要があるだろう。
吉利汽車が日本で試乗会を開催した意味は?
さて、気になるのは吉利汽車がこの試乗会を日本で開催した意味だ。試乗前のブリーフィングでは、吉利汽車の本国関係者との質疑応答が行なわれたのだが、「日本での販売予定はあるのか?」という問いに対して、「あります」との返答が! すわ、吉利汽車がいよいよ日本上陸か!?と一瞬色めき立ったもののの、「吉利汽車は日本はもちろん、世界中でクルマを販売する意向があります。ただし、その時期はわかりません」とのこと。どうやら、具体的な計画はまだ何もなく、社交辞令的な返答だったようだ。
とはいえ、筑波サーキット(コース2000)を1日借り切って、中国からメディアを大勢引き連れて試乗会を行うくらいだから、かなりの手間暇がかかったイベントであったことは間違いない。質疑応答の際には、「このイベントは毎年開催したい」というコメントも聞かれた。吉利汽車は海外販売にも力を入れており、新たな右ハンドル市場への進出も開始している。とすると、日本進出もありえない話ではないのかも!? そんな期待も膨らむ吉利汽車の試乗会だった。