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現代的に言えばオマージュ、初代パトロールは米国の名車にそっくり?
かつて、国産クロスカントリー4WDの二大巨頭と言えば、トヨタ「ランドクルーザー」と日産「サファリ」だった。2代目のY60型はかなりのゴツ系だったことから、ちょっとヤンチャな人に人気を博したものである。3代目のY61型になると、なぜかランドクルーザー100系にそっくりになってしまい、日本で急激に人気を失っていくことになる。
そんなサファリの祖先と言えるのが、「パトロール」だ。日産は2014年にサファリの日本撤退を決めてしまうが、その後も海外では後継車がパトロールの名で販売されているのは周知の通りだ。
初代パトロールは1951年に誕生したが、その目的はランドクルーザーと呼ばれる前のトヨタジープBJ型と同じだった。警察予備隊(現陸上自衛隊)で使う車両としてである。結果的には、トライアルは三菱ジープに負けてしまうのだが、この4W60型と名付けられた日産車は実にユニークだった。というのも、本家のウイリス・Jeepにソックリなのである。
三菱ジープはライセンス生産だったので似ていても頷けるが、パトロールはまさに“パクリ”だった。フロントグリルこそ横スリットで多少立体感があるが、それもアーリーアメリカンのクルマの真似。現代的に言えばオマージュというやつだが、どうせだから真似してしまえということだったのかもしれない。
余談だが、トヨタは戦時中に「AK10型」という小型四輪駆動車を造っている。これはJeepソックリなのだが、南方で鹵獲したバンタム・Jeepを帝国陸軍がいたく気に入り、トヨタがリバースエンジニアリングで試作したものだ。トヨタジープBJ型がこれを参考にしたことは、そのカタチからも想像できる。
日本は自動車製造では後進国であったので、当時の国内メーカーがアメリカ車を参考にしたことは当然だろう。とは言え、4W60型のやり過ぎ感は凄い。4W60型はトヨタジープBJ型同様に、治安警察車両として採用された以外は民生用としての需要がわずかにあったくらいだ。ここでトヨタはランドクルーザーという名前をもって新基軸に転換するのだが、日産はパトロールの名前を継承しながら、2代目でまたまたやってしまうのである。それが今回の主人公の「G60型」だ。
2代目は脱ジープ。今度はランドローバーに寄せていった?
今度は、やはり四輪駆動車の名車と言われる「ランドローバー・シリーズⅠ」に似ていたのである。たしかにシリーズⅠよりも洗練された意匠ではあったが、箱形のフロントフェンダーは開発者が明らかに意識したものだと思う。ショートボディ車やソフトトップ車のフォルムもまた、シリーズⅠそっくりだ。脱ジープを果たして、ランドローバーに寄ってしまったのである。
しかし、このG60型がなぜかカッコいいのである。ランドクルーザー20系、40系がボリューミーなボディなのに対して、パトロールは直線的でシュッとしている。日本では警察や消防車両、官公庁用として売れた以外は、さほど民間に流通しなかったようで、ランクル40系ほど現存車両が残っていない。一説によると、日本にあった車両の多くがアジア地域やアフリカに輸出されてしまったから、国内に残っていないらしい。
とにかく車両の状態は抜群、四輪駆動車の好事家にとって貴重な映像資料
そんなG60型が印象的なアイコンとして登場するのが、東宝特撮映画の名作である「海底軍艦」だ。この映画の主役は「轟天号」という軍艦だが、その秘密基地で移動用として使われているのがG60型。轟天号は旧帝国海軍の生き残りが開発したという設定なので、G60型のフロントグリルには海軍公用車を表す「碇と桜」のマークが付いている。
東宝特撮映画と言えば、三菱ジープが常連なのだが、なぜかこの映画ではパトロールが使われている。海軍公用車以外にも、警察車両として劇中に何度か登場している。もしかすると、当時のタイアップであったかもしれない。
ファンが特に凝視してしまうのが、G60型が大島の三原山砂漠を疾走するシーンだ。轟天号なぞは所詮創りモノのだが、こちらはれっきとした実車である。わざとスタックさせるシーンがあるが、実際にはあのくらいの不整地でG60型はタイヤが空転しないと思うが…。
デビューから3年ほどで、しかも撮影車両は日産あたりから借りたものであろうから、とにかく車両の状態は抜群だ。インパネなども時折写り、四輪駆動車の好事家にとってはかなり貴重な映像資料となっている。