新型フリードの魅力を走って体感。「ちょうどいい」が着実にアップデート

ホンダ新型フリード
発売を控えている新型フリードの走りをメディア向け先行試乗会で体感した。実車を観察し、乗って、技術者から話を聞いた内容をもとに、新型フリードの概要をお届けしていこう。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)PHOTO:長野達郎(NAGANO Tatsuo)

新旧フリード乗り比べ

新型フリードAIR 全長×全幅×全高:4310mm×1720mm×1755mm ホイールベース:2740mm
現行型と比べて新型は全長で45mm、全幅で25mm(クロスター、Airは同じ)ボディサイズは大きくなった。全高は105mm低くなった(アンテナがシャークフィンタイプになったため)

新型の特徴を表すフレーズとして開発陣は、「ジャストライト(ちょうどいい)ミニバン」の表現を考えたという。だが、ミニバンとしてしまうと用途を限定してしまう懸念があり、最終的には「ムーバー」の単語を選択した。「ジャストライト・ムーバー」だ。間口を広げた表現としている。

2代目にあたる現行フリード(2016年〜2024年)も、初代フリード(2008年〜2016年)も、プレファミリーだけでなく、子育て中のファミリーや、子育てが終わったポストファミリーにも選ばれている。家族が増えたからコンパクトカーから“ちょうどいい”サイズの3列シートミニバンに乗り換えるという選択もあったが、サイズも含めて使い勝手がいいからと、フリードはライフステージを問わずに選ばれていた。

プレファミリーにとっては充分コンパクトで使いやすく、家族が増えても使えるし、家族が巣立っても使える。だから買い換える必要がない。実際、フリードは長く乗り続けるユーザーが多くいるという。

現行フリード モデルライフを通して売れ続けただけのことはある。ダイレクトな走りの魅力は健在だ。

先行試乗会では、テストコース内で現行フリード(ハイブリッド仕様/FF)に試乗することができた。ハイブリッドはi-DCDと呼ぶシステムで、7速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)にシングルモーターを組み合わせた構成。発進時はクラッチをつなぐので動きに変動(ショックと感じる人もいるだろう)があるし、変速時も変動(やはり、ショックともいえる)をともなう。

多段トラッスミッション車のようなダイレクト感のある走りを歓迎するユーザーがいるいっぽうで、変動を好まないユーザーももちろんいる。フリードのユーザーには女性が多い(例えば、平日はママが運転し、休日はパパが運転)となれば、スムースな走りを実現したほうが、歓迎する人は増えると考えられる。

i-DCD→e:HEVで走りはどう進化した?

現行フリードHYBRID G
新型フリードe:HEV AIR

新型フリードのハイブリッド仕様は(先代と同様、ガソリン仕様も設定)、フィットやヴェゼルと同じe:HEV(イー・エイチイーブイ)を搭載する。走行用と発電用のふたつのモーターを持つシステムで、高速巡航時を除き、発電用モーターで発電した電力で走行用モーターを駆動して走る。

発進時を含めて基本的にはモーターの走りなので、スムース。システムが自動的に行なう走行モードの切り換えによる変動はまったく感じない。e:HEVがもたらすスムースな走りは、新型フリードの大きな特徴だ。

e:HEV用エンジン 1.5LアトキンソンサイクルDOHC i-VTEC 最高出力:78kW/6000-6400rpm 最大トルク:127Nm/4500-5000rpm  2モーター内蔵電気式CVT 最高出力:90kW 最大トルク:253Nm
ガソリン 1.5Lポート噴射 最高出力:118ps(87kW)/6600rpm 最大トルク:142Nm/4300rpm

いっぽうで、先代フリードの走る・曲がる・止まるといった、クルマとしての基本性能は、デビューから8年を経過しているにも関わらず、まったく色あせていないと感じた。なんの不満もなく、快適である。現在でも「ちょうどいい」クルマとして充分通用する印象。その証拠に、2024年4月の新車販売台数は4535台で、全体の21位。ホンダ車でいえば、ステップワゴン(5023台/18位)、フィット(4944台/19位)に次ぐ販売台数だ(1位はN-BOXで14947台)。フリードはモデル末期にもかかわらず、多くの支持を集めていることになる。

となると新型、「これがあるから新型が欲しい」という魅力的な特徴がなければ、現行を上回る需要を生むことはできない。その点、開発陣も重々承知しており、ひとつには前述したe:HEVが挙げられる。2列目シート用に設けたリヤクーラーを魅力に感じる人もいるだろう。

新型フリードe:HEV AIR

視界の良さは新型の大きな美点

新型フリードのインテリア 現行型から大きく変わっていて新鮮だ。

テストコースでの試乗では、Aピラーの形状違いによる視界の違いが顕著だった。先代フリードのAピラーはΛ状に二股に分かれており、間にガラスがはめ込まれている。新型のピラーは1本だ。タイトな右コーナーを曲がる際、先代は二股ピラーが視界を邪魔するため、首を動かしてピラーで隠れている部分を確認したくなる。

新型の視界はずっとクリアでストレスがない。サイドミラーの取り付けを工夫したことにより、斜め下方の視界が抜けているのも良好な視界の実現に効いている。

現行フリード
新型フリード

「すっきり」とか「クリア」といったワードは、新型フリードのエクステリアやインテリア全般についてもいえる。先代はステアリングホイールの上から車速などの情報を確認するアウトホイールメーターだったが、新型はステアリングホイールの内側に情報を表示するインホイールメーターとした。表示の位置を変えただけでなく、情報を集約し、より運転に集中できるよう(邪魔しないよう)にした。

センターコンソールの張り出しを抑え、2列目以降へのウォークスルーを可能にしている点は新旧同じ。シフトレバーの右側には、電動パーキングブレーキ(EPB)やオートマチックブレーキホールドの操作スイッチが並んでいる。先代フリードは足踏み式パーキングブレーキだったが、新型はEPBで、この違いも大きい。

新型フリードのインテリアは華やかで、明るい。コンパクトながらも、くつろげるリビングルームのような仕立てである。8年の差があるので当然だが、できたてのホテルの居室とそうでないホテルの居室に通じる新鮮味の違いが、新旧フリードには確実にある。新型は乗り込んだ瞬間に、気分が上がる。

大きすぎず、小さすぎず、「ちょうどいい」寸法は受け継いでいる。全長は4310mmで先代比+45mm。e:HEVを搭載するためにフロント側が少し伸びた格好だが、3列シートを備えるクルマとしては依然としてコンパクトなサイズに留まっている。

左がクロスター(CROSSTAR)、右がAIR。

全幅はAIR(エア)が1695mmで先代と同じ。アウトドアテイストを強調したCROSSTAR(クロスター)はホイールアーチガーニッシュの装着分だけ幅が広く、全幅は1720mmである。ホイールベースは2740mmで先代と同じ。全高はルーフアンテナを含めて1755mmで、前代より105mm低い。先代フリードはロッドアンテナを採用していたが新型はシャークフィンアンテナで、アンナの種類の違いにより、アンテナを含んだ高さが大幅に低くなっている。

歴代フリードが培ってきた強みはしっかり継承し、進化分をきっちり上乗せしたのが新型フリードという印象。「ちょうどいい」と感じる魅力は着実にアップデートされている。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…