ライバルはテスラModel S、BMW3シリーズ? BYDシールは性能に対してバーゲン価格だ

BYD SEAL
BYDの日本投入モデル第三弾がシール(SEAL)だ。スポーティなセダンで、一充電走行距離も走行性能も高い。メルセデス・ベンツCクラス、トヨタ・クラウンクロスオーバー、テスラModel Sとも競合できるポテンシャルを持つBYDシールをジャーナリスト、世良耕太が試した。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

ポルシェ・タイカンに匹敵する加速性能

全長×全幅×全高:4800mm×1875mm×1460mm ホイールベース:2920mm

BYD SEAL(ビーワイディー・シール)は、BYD Auto Japanが正規輸入販売するモデルの第3弾となる電気自動車(BEV)である。第1弾は2023年1月に販売を開始したATTO 3(アットスリー)、第2弾は同年9月に登場したDOLPHINE(ドルフィン)だ。アットスリーはコンパクトSUVタイプ、ドルフィンはそれよりコンパクトなサイズがウリで、機械式立体駐車場に対応したサイズとなっている。

シールは見ての通りセダンだ。フォーマルにも使えそうな佇まいだが、BYD Auto Japanは国内の輸入セダン市場で「e-Sport Sedan(イースポーツ・セダン)」のポジションを確立すると説明している。スペックの詳細は後述するが、前後にモーターを搭載するAWDは0-100km/h加速を3.8秒でクリアする俊足ぶりだ。ポルシェ・タイカン4S(1650万円)の0-100km/h加速が3.7秒だと記せば、シールの卓越したパフォーマンスに想像がつくだろうか。実際、AWDは衝撃的なほど強烈な加速を披露する。

車名のSEAL(シール)はアザラシの意味。ドルフィン(イルカ)と同様、BYDの海洋生物シリーズに属する。筆者の印象では、海洋生物の印象をダイレクトには感じない。フロントバンパーサイド部の4本のC字型ラインは波をイメージしたものだそうだし、リヤの左右貫通式コンビネーションランプは空と海の広大さを表現しているというが、筆者にはただ、スタイリッシュなセダンにしか見えない(それで充分だろう)。

インテリアデザインは、ドイツ人デザイナーのミケーレ・パガネッティの手によるもの。

インテリアも同様だ。ドルフィンはドアハンドルにイルカのヒレを模した形状を採用したり、カラフルな色使いをしたりしているが、シールはごくオーソドックスなつくり。ドルフィンのシフトセレクターはインパネ中央部のバレルをひねるタイプで一見さんお断りのようなHMIだが、それに比べるとシールのシフトセレクターはセンターコンソールのツマミを前後に倒すタイプで、ずっとわかりやすく、使いやすい。見た目にも上質だ。

15.6インチ電動回転式タッチスクリーン ディスプレイは縦にも横にもなる。

同じ海洋生物シリーズながらドルフィンとシールでは共通性を探すのが難しいほどだが、センターの回転式タッチディスプレイだけは共通している。縦画面にすると、ナビ使用時に進行方向が表示できて便利という触れ込みだ。ただし、筆者の偏光サングラスと縦画面の相性は悪く、干渉して見えづらくなった。

ダイヤモンドパターンをあしらったナッパレザーのシートは見た目の上質さに感心した。前席は左右ともパワーシートで、ベンチレーションとヒーターを装備する。後席も広々としており、居心地がいい。積極的に後席に座りたいと思わせるのは、パノラミックガラスフーフのおかげだ。見晴らしが断然いい。景色はきちんと見えるが、日射はしっかりさえぎってくれるので快適である。

ダイヤモンドパターンをあしらったナッパレザーのシート
リヤシートは、中央席にPUレザー、両サイドの席にナッパレザーを使用。

シールのスリーサイズは全長4800mm×全幅1875mm×全高1460mm、ホイールベースは2920mmだ。国内の輸入車セダンマーケットで最活況を呈するDセグメントに属し、BEVではテスラ・モデルS、内燃エンジンを積んだ機種ではメルセデス・ベンツCクラス、BMW 3シリーズ、アウディA4と競合する。国産ではトヨタ・クラウンシリーズを意識しているようだ。

走行性能も高いが注目は充電性能だ

車両重量:2230kg 前軸軸重1120kg 後軸軸重1110kg 最小回転半径:5.9m トレッド:F1620mm/R1625mm

エクスエリア、インテリアのデザインや質感では“強豪”と表現していい競合機種と充分に勝負できるというのが、実物を目にした筆者の印象だ。では走りはどうか。e-Sport Sedanと言い切るだけあり、スペックは堂々としている。

バッテリー容量は82.56kWh。アットスリーとドルフィンのロングレンジが58.56kWhだから1.4倍の容量を持つ。リヤに最高出力230kW(312ps)、最大トルク360Nmのモーターを搭載するベースモデル(車重2100kg)のWLTCモード一充電走行距離は640km。フロントとリヤにモーターを搭載し、システム最高出力390kW(529ps)、システム最大トルク670Nmを発生するAWDの一充電走行距離は575kmだ。

タイヤサイズは、235/45R19
銘柄はコンチネンタルECO CONTACT 6Q

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「ライバルはテスラModel S、BMW3シリーズ? BYDシールは性能に対してバーゲン価格だ」の1枚めの画像

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「ライバルはテスラModel S、BMW3シリーズ? BYDシールは性能に対してバーゲン価格だ」の2枚めの画像
ボンネット側のトランク(フランク)容量50L

ただバッテリー容量が大きいだけでなく、充電性能が高いのが特徴で、アットスリーとドルフィン・ロングレンジの充電受入最大出力が85kWなのに対し、シールは105kWだ。BYDのスタッフが150kWの急速充電器で30分間充電したところ、46.6kWh入ったそう。シールはkWhあたり6km超走るそうで(車両サイズや重量を考えると優秀だ)、単純に計算すれば30分の充電で約280km走行できるエネルギーを充電できることになる(条件によって上下する)。BEVは長距離ドライブに不向きだと思っていたが、シールは既成概念を覆してくれそうだ。

シールはBEVの車両価格についても既成概念を崩しにかかっている。ベースモデルは528万円、AWDは605万円である。申請中のCEV補助金がアットスリーやドルフィンと同じ35万円で決まると、実質価格はそれぞれ493万円、570万円となる。さらに、1000台限定で導入記念キャンペーン特別価格を設定しており、ベースモデルは495万円、AWDは752万円だ。35万円のCEV補助金(予定)適用後は、実質価格がそれぞれ460万円、537万円になる。

大型ガラスルーフ 紫外線99%カット 可視光線透過率は4.2%
Qiを標準装備 2台同時に充電できる。

大バーゲンというほかない。採算度外視に違いないが、BYDには深謀遠慮がある。クルマに対して厳しい目を持つ日本のユーザーの生の声を拾い上げ、グローバルに展開するモデルの品質向上に役立てたいと考えているのだ。そのための投資だと思えば、安いものというわけ。おかげで、魅力的なクルマがお得に手に入る寸法である。ありがたいことに。

AWDは0→100km/h加速3.8秒、RWDは5.9秒
BYD SEAL AWD
全長×全幅×全高:4800mm×1875mm×1460mm
ホイールベース:2920mm
車両重量:2230kg
サスペンション:Fダブルウィッシュボーン式/Rマルチリンク式
リヤモーター
TZ200XYC型交流同期モーター
最高出力:230kW(312ps)
最大トルク:360Nm
フロントモーター
YS210XYA型かご形三相誘導モーター
最高出力:160kW(217ps)
最大トルク:310Nm
バッテリー
リン酸鉄リチウムイオン電池
総電圧:550V
総電力量:82.56kWh

WLTC交流電力量消費率:165Wh/km
一充電走行距離575km
車両価格:605万円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…