トヨタが放った国産初の量産ミッドシップ「MR2」が走り屋には大ヒット! その果たした役割は大きい【歴史に残るクルマと技術051】

トヨタ・MR2
トヨタ・MR2
ミッドシップ(MR)と言えば、F1やスポーツカーなどスピードを極めるクルマの代名詞となっているが、今から40年前の1984年、トヨタから日本初の量産ミッドシップスポーツ「MR2」がデビューした。当時本格スポーツカーを持たなかったトヨタが、果敢にチャレンジしたMRスポーツは、トヨタのイメージリーダーとして、また日本のMRスポーツの先駆けとなった。
TEXT:竹村純(Jun TAKEMURA)/PHOTO:三栄・MR2のすべて

●MRの最大のメリットはクイックで安定した旋回性能

トヨタ「MR2」
トヨタ「MR2」

・FF(フロントエンジン・フロントドライブ)は、アンダーステア傾向
FF方式は、室内空間が広くとれるため最近はほとんどのクルマが採用している。コーナーで加速すると、フロントが重いために前輪が横滑りを起こしてアンダーステア(旋回周よりも外側に膨らみ、曲がり切れなくなる)になりやすい傾向がある。

・FR(フロントエンジン・リアドライブ)は、オーバーステア傾向
FR方式は、スポーツ車や高級セダンで採用される。前輪に荷重がある後輪駆動なので操作性に優れ、車体のコントロールがしやすくドリフト走行ができるが、コーナーで急加速すると、後輪が横滑りを起こしてオーバーステア(旋回周よりも内側に切り込み、スピンしやすくなる)になる傾向がある。

・MR(ミッドシップエンジン・リアドライブ)は、ニュートラルステア
MR方式は、前後輪の重量配分を等分設定でき、さらに重量の重いエンジンを旋回軸の近傍に搭載できるので、クルマの重心が中央に集中し、ステアリング操作に対してレスポンスの良いクイックな旋回性能と安定した加速ができる。

アンダーステアとオーバーステア
アンダーステアとオーバーステア

●レーシングカーから普及が始まったミッドシップ(MR)

優れた運動性能が特徴のMRだが、一方でエンジンをクルマの後席付近に搭載するため、車室や荷室に十分なスペースが確保できず、基本的には2シーターとなるので日常的な用途には向いていない。そのため、室内空間の狭さが問題とならず、走行性能を追求するF1やレーシングカー、スーパーカーで採用されるのが一般的である。

歴史を辿ると、1930年代から海外ではレーシングカーでMRの採用が始まり、1950年代にはF1などフォーミュラカーで一気に普及。1960年代になると、ロータスやポルシェのようなスポーツモデルや、排気量の大きいフェラーリやランボルギーニのようなスーパーカーが採用し、MRはスポーツカーの必須アイテムになった。

トヨタ「MR2」
トヨタ「MR2」ボディレイアウト

日本では、1952年に少量ながら市販化された軽自動車の「オートサンダルFS型」が最初とされ、1967年のホンダの軽トラック「TN360」や初代「バモス」が採用したが、いずれもレイアウト上のメリットから採用したものである。
MRをスポーツモデルとして日本で最初に量産化したのが、「MR2」。ちなみに車名は、ミッドシップの“M”、小型軽量なスポーツカーの総称であるランナバウト(Runabout)の“R”、2シーターの“2”を意味する。

トヨタ「MR2」
トヨタ「MR2」のシャープなハイデッキスタイル

●破格の低価格でデビューするも人気は限定的だったMR2

1970年代の排ガス規制やオイルショックを乗り越え、日本では1980年代になると高性能・高機能時代が到来した。各メーカーは競って個性的な高性能モデルを投入したが、そのようななかでトヨタはスポーツモデルのイメージリーダーとして、アッと驚くMRスポーツを市場に送り出したのだ。

トヨタ「MR2」
MR2 1600Gの4A-GELU型エンジン
トヨタ「MR2」
MR2 1500Sは3A-LU型のキャブレター仕様エンジンが載る

MR2は、スラントノーズにリトラクタブルヘッドライト、リアはハイデッキという典型的なスポーツカーらしいスタイリングを纏ったライトウェイトスポーツ。パワートレインは、1.5L直4 SOHC&1.6L直4 DOHCエンジンと5速MTおよび4速ATの組み合わせが用意された。

一方でコストを抑えるため、パワートレインや足回りなどはカローラの流用品が多く、スポーツモデルとしては性能不足という声も散見された。車両価格は、標準仕様(1.5L)で139.5万円、上級仕様(1.6L)が164.2万円。当時の大卒初任給は13.5万円程度(現在は約23万円)なので、単純計算では現在の価値では標準仕様が約238万円に相当する。これは、MRスポーツカーとしては破格ともいえる安価な設定だった。

トヨタ「MR2」
トヨタ「MR2」

MRスポーツカーを手頃な価格で入手できることから、一部のスポーツカーファンからは歓迎されたが、操作にはそれなりのドライビング技術が必要で“じゃじゃ馬”との評価もあり、販売は限定的となった。

●その後MRスポーツが続いたが、現在国産MRスポーツは途絶えた

トヨタ「MR2」
MC後のトヨタ「MR2」に設定された4A-GZE型1.6Lスーパーチャージャーエンジン

MRは、その後スーパーチャージャーエンジンを搭載するなどして走りに磨きをかけ、1989年に2代目のSW20型へモデルチェンジ。その後1999年にはオープンスポーツの「MR-S」へと変貌した。

トヨタ「MR2」
2代目トヨタ「MR2」
トヨタ・MR-S
1999年発売のトヨタ「MR2」の3代目に相当する「MR-S」、ミッドシップのオープンスポーツ

一方、ホンダからはスーパースポーツ「NSX(1990年~)」、軽2シーターオープン「ビート(1991年~)」、1992年には軽初のガルウィングを装備したマツダ「オートザムAZ-1(1992年~)」、さらにホンダの軽スペシャリティカー2代目「ホンダZ(1999年~)」、本格的な軽スポーツ「S660(2015年~)」とミッドシップスポーツが続いた。しかし、NSXとS660はともに2022年に生産を終了したため、国産MRスポーツの歴史はここで途絶えた。

2016年デビューのホンダ2代目「NSX」のMRレイアウト
2016年デビューのホンダ2代目「NSX」のMRレイアウト

ちなみにミッドシップだが、エンジンをフロントアクスルより後方にエンジンを搭載するフロントミッドシップ(FMR)を採用しているモデルもある。車室空間や収納スペースも確保でき、重量バランスをクルマの中心に近づけて最適化できる。代表的なクルマとして、生産は終えたがホンダ「S2000」やマツダ「ロードスター」、日産自動車「GT-R」があり、高い走行性能と引き換えに居住性を犠牲にするMRの弱点を解消できるメリットがある。

マツダ4代目「ND型ロードスター」
2015年にデビューした、フロントミッドシップのマツダ4代目「ND型ロードスター」

●MR2が誕生した1984年は、どんな年

1984年には、トヨタの「5代目マークII/3代目チェイサー/2代目クレスタ」の“マークII 3兄弟”が揃ってモデルチェンジし、5月には「東洋工業株式会社」が「マツダ株式会社」に社名を変更した。
マークII 3兄弟は、爆発的にヒットしたハイソカーブームを象徴するスポーティな高級セダンの兄弟車。また、三菱自動車「ミラージュ」のTVコマーシャルで登場したエリマキトカゲが大きな話題を集めた。

トヨタ「MR2」
トヨタ「MR2」

自動車以外では、米国アップルコンピューターから初代「マッキントッシュ」、SONYから世界初のポータブルCDプレーヤー「D-50」が発売。アイスクリームのハーゲンダッツが日本での発売を開始、マンガ「ドラゴンボール」の連載が始まった。

また、ガソリン150円/L、ビール大瓶295円、コーヒー一杯274円、ラーメン365円、カレー480円、アンパン88円の時代だった。

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1980年代、MRスポーツと言えば海外のスーパーカー、そんなときに小型ではあるが国産初の量産ミッドシップスポーツとして登場した「MR2」。一般庶民に夢を与え、その後日本にミッドシップスポーツブームを巻き起こした、日本の歴史に残るクルマであることに、間違いない。

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著者プロフィール

竹村 純 近影

竹村 純

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までを…