炎天下!ボディ表面が12℃も冷える塗装を日産が公開「自己放射冷却塗装」とは?

日産自動車は6日、太陽光によるボディの温度上昇を抑制する「自動車用自己放射冷却塗装」の実証実験を公開した。

熱を放出する「熱のメタマテリアル」とは?

日産がラディクール社と共同開発した自動車用自己放射冷却塗装

日産自動車は、ボディの温度上昇を抑制するメタマテリアルを使用した「自動車用自己放射冷却塗装」の実証実験を公開した。

自動車用自己放射冷却塗装に使用している塗料は、放射冷却製品の開発を専門とするラディクール社と共同開発したもので、電磁波、振動、音などの性質に対し自然界では通常見られない特性を持つ人工物質「メタマテリアル」を採用しているのが大きな特徴だ。

こちらは塗料の原液のため粘度が高い。現状は塗膜厚が120μm程であり量産車レベルの20μmにするのには時間が掛かりそうだ。塗膜が薄くなると熱放出効果も低くなる。厚塗りでも対応可能な特装車(救急車や幼稚園バスなど)から実用化を目指している。

今回は「熱のメタマテリアル」では、塗料の中に2種類のマイクロ構造粒子を含んでいる。1種類目の粒子は太陽光の近赤外線の電磁波を反射する働きをもっていて、塗膜の温度上昇を抑制する。2種類目の粒子は塗膜の熱を電磁波として外に放出する働きをする。放出された電磁波は大気に吸収されない特徴の波長のため、熱を電磁波に変換して宇宙に放出することになる。この2つの粒子を含んだ「自動車用自己放射冷却塗装」は、太陽光の熱を反射すると同時に、熱を電磁波として放出する仕組みにより塗装表面の温度上昇を抑制する。

太陽光を反射させるには白色が一番効率が良いが、カラーバリエーションの研究を進めていく。黒や赤、パールなどは可能だが、メタリックは金属を含んでいて電磁波を発生させるため採用が難しいそうだ。

開発段階において、この塗料を塗装した車両と通常塗料を塗装した車両を比較した際には、外部表面で最大12℃、運転席頭部空間では最大5℃の温度低下を確認しているという。これにより、炎天下に長時間駐車していた車両への乗り込み時の不快感を軽減し、エアコンの設定温度や風量の最適化により、燃費や電費の向上に貢献するという。

左が自己放射冷却塗装で、右が通常塗装。5.6℃の温度差がある。放出するエネルギーは塗装温度の4乗に比例して増える。冬は外気温が低いためそれほど熱を放出しないので冷えすぎることはないという。

羽田空港の炎天下で実証実験を行う

羽田空港ので使用されているNV100とSAKURAに自己放射冷却塗装を施し実証実験を行っている。滑走路の炎天下や塗装に物がぶつかることもある過酷な環境だが、塗装の剥がれや色褪せなどは確認されていない。

この塗装の効果と耐久性を検証するために日産は、羽田空港において2023年11月から1年間の実証実験を実施している。ラディクール社の日本法人の販売代理店を務める日本空港ビルデングの協力により、ANAエアポートサービスが空港で日常的に使用しているNV100クリッパーバンに当該塗料を塗装して評価を行っている。

実際に炎天下でNV100のボディ表面に触ってみると、通常塗装は「熱い!」、自己放射冷却塗装は「ぬるい」という印象だった。
通常塗装のボディ表面温度は47.1℃
自己放射冷却塗装のボディ表面温度は39.8℃だった。今回の状況下では7.3℃の差があった。

本塗装を開発した、総合研究所で先端材料・プロセス研究を担当する主任研究員の三浦 進氏は、「私の夢は、エネルギーを消費せずにより涼しい車を作り出すことです。特に電気自動車(EV)において重要となる夏のエアコンの使用によるバッテリーの負荷を、大きく軽減できる可能性があります」と述べた。

自己放射冷却塗装の発表会でプレゼンテーションを行った、日産自動車総合研究所で先端材料・プロセス研究を担当する主任研究員の三浦 進氏。

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