日産「シーマ(Y31)」500万円オーバーでも爆売れ! あの“シーマ現象”って何だったのか?【歴史に残るクルマと技術054】

1988年に誕生した日産「シーマ」。シーマ現象を巻き起こして大ヒット
日本がバブル景気に沸いた1980年代後半の1988年に日本自動車史の1ページを飾る日産自動車の「シーマ」がデビューした。高級セダンながらスポーティでパワフルな走りが魅力で、“シーマ現象”という言葉が誕生するほどの爆発的なヒットを記録し、バブル時代を象徴する“ハイソカーブーム”を代表するモデルとなった。
TEXT:竹村 純(Jun TAKEMURA)/PHOTO:三栄・80年代日産車のすべて、80年代国産車のすべて、国産傑作車のすべて、すべてシリーズ

●シーマが誕生したバブル時代

1980年代中盤から本格的に始まった好景気、いわゆるバブル景気は、1970年代に起こった排ガス規制の強化やオイルショックで抑制されていた反動もあってか、ユーザーのニーズはコンパクトカーを中心にしたファミリーカーから、一気に上級志向のクルマへと方向を変えた。

日産・シーマ
日産・シーマ
トヨタ「ソアラ」
1981年に誕生したトヨタ「ソアラ」。ハイソカーの火付け役として大ヒット

そして、1981年にハイソカーの火付け役となったトヨタの「ソアラ」が登場。クリーンノッチバックと呼ばれたシャープなエッジを持った上品かつスポーティなフォルムと、多彩なエレクトリック技術を駆使した豪華なインテリアは、当時の高級車を凌駕し、大ヒットを記録した。続いて、1984年には“マークII 3兄弟”と呼ばれたマークII/チェイサー/クレスタも大ヒットし、”ハイソカー“と呼ばれたスポーティな高級セダンの一大ブームが到来したのだ。

日産・シーマ
1988年に誕生した日産「シーマ」。シーマ現象を巻き起こして大ヒット
日産・シーマ
日産「シーマ」の落ち着いた雰囲気のリアビュー

対する日産は、トヨタのハイソカーよりさらに上を目指し、「セドリック/グロリア」のさらなる上級モデルとして1988年にシーマを投入した。

高価ながら爆発的なヒットでバブル時代の頂点に立った日産・シーマ

初代シーマ(FY31型)は、日産を代表する高級車セドリック/グロリアをベースに、重厚な角張ったフォルム20240811_nissan_cima_11をスタイリッシュな曲面基調にし、さらにハードトップにすることでスポーティさをアピール。エンジンは、当時最強レベルの255psを発生する3.0L V6 DOHCセラミックターボ(VG30DET)と200psの同NA(VG30DE)を搭載し、高級セダンながらスポーティな走りも魅力だった。

日産・シーマ
日産・シーマに搭載される3.0L V6 DOHCセラミックターボ(VG30DET)

車両価格は、NA仕様が433万円/478万円、ターボ仕様が500万円/510万円。特に高価なハイグレードが人気を呼び、トータルで1年間になんと3万6400台が売れた。ちなみに、当時の大卒初任給は15.8万円程度(現在は約23万円)なので、単純計算で今ならターボ仕様は728万円/742万円に相当する。

日産・シーマ
日産「シーマ」のゴージャスなインテリア
日産・シーマ
日産「シーマ」のインテリア

シーマが登場した1988年は、日本では空前のバブル景気の真っただ中、信じ難いが“高価なモノが売れる、高価でないと売れない”時代だった。高級車シーマの過熱した人気ぶりに“シーマ現象”という新語が生まれ、ハイソカーの象徴的存在になったのだ。

シーマが採用した数々の最新技術

最強のVG30系V6エンジンについては、NICS(ニッサン・インダクション・コントロール・システム:可変吸気)やNVCS(ニッサン・バルブタイミング・コントロール・システム:可変バブルタイミング)、NDIS(ニッサン・ダイレクト・イグニッション・システム:電子配電点火)、ターボエンジンには気筒別電子制御を採用。組み合わされるトランスミッションは、最新の電子制御式4速AT(E-AT)で、雪道などで活用できるスノーモードも設定された。

日産・シーマ
日産・シーマ

サスペンションは、フロントがマクファーションストラット式、リアがセミトレーリングアーム式ながら、ハイグレードには電子制御式エアサスペンションを採用。さらに車速感応式電子制御パワステ、4輪ベンチレーテッドディスクブレーキも装備された。

また、インテリアも高級感を演出。シートは100%ウール素材で、運転席はパワー調整付、助手席もハイグレードには助手席にも装備され、オプションで運転席メモリー機能や後席ヒーターシートも用意された。その他、エンタメ系ではハイグレードにはイコライザー&TVチューナー付オーディオ+6スピーカー、ヘッドホーンジャック&マイクロヘッドホーンが装備され、JBLスピーカーやハンドフリー自動車電話、モイスチャーコントロールなどがオプションで選べた。

バブル時代に誕生した数々の名車

バブル期のハイソカーブームをけん引したトヨタのソアラやマークII 3兄弟(マークII/チェイサー/クレスタ)、日産のシーマの他にも、メーカーは潤沢な資金を背景に数々の名車を誕生させた。代表的なモデルとしては、以下が上げられる。

日産5代目「シルビア(S13型)」
1988年にデビューした日産5代目「シルビア(S13型)」。「プレリュード」とともにデートカーの代表格として大ヒット
ホンダ3代目「プレリュード」
1987年にデビューしたホンダ3代目「プレリュード」。「シルビア」とともにデートカーの代表格として大ヒット

・トヨタ:カリーナED(1985年~)、セルシオ(1989年~)
・日産:5代目シルビア(1988年~)、4代目フェアレディZ(1989年~)、8代目スカイラインGT-R(1989年~)
・ホンダ:3代目プレリュード(1987年~)、NSX(1990年~)、ビート(1991年~)
・三菱:6代目ギャラン(1987年~)、ディアマンテ(1990年~)
・マツダ:ユーノス・ロードスター(1989年~)、ユーノス・コスモ(1990年~)
・スバル:レガシィ(1989年~)、アルシオーネSVX(1991年~)
・スズキ:アルトワークス(1987年~)

マツダ「ユーノスロードスター」
1989年にデビューしたマツダ「ユーノスロードスター」。ライトウエイトスポーツとして世界中で大ヒット
ホンダ「コンチェルト」
1988年にデビューしたホンダ「コンチェルト」。ローバー社の共同開発車

●シーマが誕生した1988年は、どんな年

スズキ「エスクード」
1988年に誕生したコンパクトSUV、スズキ「エスクード」

1988年には、シーマの他にホンダの「コンチェルト」とスズキ「エスクード」も登場した。
コンチェルトは、当時提携関係にあったローバー社と共同開発したセダンで、落ち着いた欧州風のスタイリングが特徴。エスクードは、本格4WDのオフローダーながら街乗りにも対応した、現在人気のコンパクトSUVの先駆け的なモデルである。
この年のF1では、アイルトン・セナとアラン・プロストを擁するマクラーレン・ホンダが16戦中15勝を飾るという快挙を成し遂げた。

1988年に誕生した日産「シーマ」。シーマ現象を巻き起こして大ヒット

自動車以外では、青函トンネルと瀬戸大橋が開通、東京ドームが完成(日本初の屋根付き球場)、TVアニメ「それいけ!アンパンマン」が放送開始された。
また、ガソリン122円/L、ビール大瓶316円、コーヒー一杯308円、ラーメン422円、カレー560円、アンパン96円の時代だった。

日産・シーマ

・・・・・・
ハイグレードが500万円を超える高級車でありながら、爆発的な販売を記録したシーマ。今も語り継がれる日本中が浮かれたバブル景気を象徴する、日本の歴史に残るクルマであることに、間違いない。

キーワードで検索する

著者プロフィール

竹村 純 近影

竹村 純

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までを…