マラネロ周辺を走行しているところを目撃されたプロトタイプは、マセラティSUV、レヴァンテのボディとフェラーリ ローマのヘッドライトを組み合わせ、さらに両モデルから暫定的にコンポーネントが調達されたツギハギの、いわゆる“フランケンシュタイン”テストミュールだ(編注:“ミュール”とはオスのロバとメスの馬とを交配して作られた動物のラバのこと。ラバは繁殖力がないため、そのまま量販車両に結びつかず、既存車両のパーツを組み合わせて作られた純粋な開発テストカーの事を主に欧州でこう俗称する)。
詳細を見ると、レヴァンテの5ドアボディに特大のホイールとローダウンサスペンションを組み合わせ、ハッチバックのように見える。ただし、これは初期段階のテストカーではよく見られる手法で、新しいパワートレインとシャシーが偽装改造されたボディシェルの下に隠されている。このボディスタイルがそのまま量産型を示すものではないだろう。
レヴァンテのボディを使用していることから、フェラーリはSUVのようなプラットフォームを試している可能性があるが、アグレッシブでローダウンしたスタンスは、極端なクロスオーバーであれ、本格的なスーパーカーであれ、はるかにパフォーマンス重視のものを目指していることを示唆している。
ディテールはどうあれ、カスタムフロントバンパーにはBMW M2スタイルの吸気口が備わっており、高性能電気モーターとバッテリーパックの冷却をさらに進めるための設計が成されているものと思われる。
また、リヤバンパーに取り付けられた4本のエキゾーストパイプは完全なダミーで、フェンダー付近の稲妻ステッカーや、完全に塞がれたフロントグリルからもEVであることは間違いないだろう。
足まわりを見ると、ピレリのタイヤを装着した大径ホイールを装着、幅広のトレッドに対応するためにプラスチック製の延長部が追加され、パフォーマンス重視の4輪駆動システムを示唆している。おそらく、フェラーリの機敏性とパワーを維持するために、デュアルまたはトリプルモーターセットアップで駆動されるものと予想される。
このプロトタイプがプロサングエといっしょに居たということも興味深く、特に重い電気自動車のダイナミクスを管理するためのシャーシエンジニアリングにおいて、何らかの共通技術または設計哲学を示唆している可能性がありそうだ。
フェラーリ初のEVは2025年後半に生産開始予定となっているが、ボディスタイルに関しては明らかにしておらず、ロードスター、スーパーカー、グランドツアラー、あるいはプロサングエ・スタイルのクロスオーバー(おそらく2ドアのみ)など、現状ではあらゆる可能性が秘められているといっていいだろう。
気になる価格だが、50万ユーロ(約7800万円)を超え、実質的にニッチな製品になることが発表されている。同社は今夏、マラネッロに『E ビルディング』と呼ぶ、内燃機関(ICE)やハイブリッドモデルと並んで電気自動車(EV)を製造するための新しい施設をオープン、V6、V8、V12 エンジンと同様に、これらの新しい車両の電気モーター、バッテリー、車軸は自社で製造されることが確定している。
まだまだ謎の多いEVだが、フェラーリがまもなく、テスト用のミュールから最終生産ボディを装備した量産型のプロトタイプに移行し、そのデザインと存在感をよりよく理解できるようになることを期待したい。