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日経に書いてある「昇るテスラとBYD、沈む伝統メーカー」は本当か?
日本経済新聞ウェブ版が11月14日に「世界自動車11社の決算分析・EVシフトで明暗〜昇るテスラとBYD、沈む伝統メーカー」という記事を掲載した。11社の2024年7〜9月期(Q3)決算分析から「EVシフトの先行組が快走し、後発組は軒並み減益となり、業績の落ち込み度合いも目立った」と書いている。BEV推しメディアならではの視点だ。BEV推し=脱炭素推し=SDGs広告収入期待という図式にしか私には思えない。
まず「え?」と目を疑う点は、日経が「エンジン車を主体とする伝統的な自動車メーカー」のなかに日産を挙げている点だ。日産はテスラがまだガレージメーカーだった時代に「リーフ」を発売している。三菱「iMiEV」プロトタイプ発売はテスラ「ロードスター」プロトタイプ発表と3カ月しか変わらない。もちろん日産は伝統的自動車メーカーである。テスラはBEV専業の新参者だからBEVしか作らない。BEV先発組だが自動車では後発組だ。
次に日経は主要OEMのQ3最終損益の前年同期比「増減率」を取り上げ、「テスラは17%増、BYDは11%増」と、この2社を持ち上げた。テスラの2023年Q3は、その前の期、2023年Q2に比べて減収減益だった。売上高営業利益率はピークだった2022年Q1(1〜3月期)の19%に対しことしQ3は7.6%に落ち込んだ。しかし「物差し」は「対前年同期の増減率」だからテスラは「快走」だという。
さらに、テスラQ3の車両販売台数は46万2890台だと礼賛する。2024年の四半期決算では初の前年同期超えだった。会社としてのテスラの最終利益21.6億ドルをこの販売台数で割ると、1台当たりの利益は約4666ドル。決算発表日の為替レートは1ドル=152.74円なので邦貨換算だと71万2700円。同じように計算するとトヨタ車は21万3500円。だからテスラは「快走」だと日経は書いた。ほかは「伝統的OEMだから負けた」と言わんばかりだ。
一方、10月24日付けの日経には「テスラは蓄電池などエネルギー部門やサービス部門も増収となった。急速充電網や運転支援システムを通じた課金収入などサービス部門の売上高は29%増の27億9000万ドルと売上高全体の11%を占めた」と書いてある。そのとおりである。しかし、11月14日のWeb版では単純に最終利益を販売台数で割って「高い利益率だ」と書いている。充電網やサービス部門の話はない。せめて「BEVは充電網課金などの収入を見込める」「ソフトウェアのサブスクリプションも儲かる」「だから伝統的自動車メーカーも新しい儲け先を考えたほうがいい」くらいの解説が欲しい。
BYDについては「中国でPHVとEVの普及をけん引したのがBYDだ。7〜9月の世界販売は38%増の113万台と急成長した。そのうち、EVは3%増の44万台、PHVは68万台で76%も増えた」と書いている。販売台数ではPHEV(日経の言うPHV)がBEV(日経の言うEV)を上回る。取材すれば利益率でもPHEVがBEVを上回っていることがわかるが、そこは書いていない。
余談だが、日経はいまだにEVと書く。BEVとは書かない。ハイブリッド車もHVと書く。HEVとは書かない。プラグイン・ハイブリッド車はPHEVと表記せずPHVと書く。FCEV(燃料電池電気自動車)はFCVと書く。BEV以外はすべてE=Electricを省略している。
経済産業省は「xEV.」という表現の解説を大昔に行なっている。「x」のところにバッテリーならB、ハイブリッドならH、プラグイン・ハイブリッドならPH、燃料電池(フューエル・セル)ならFCを入れるというルールだ。EV=エレクトリック・ビークルは1種類ではないというこの表現方法を、なぜか日経は否定し続ける。
テスラとBYDのスタートは、こうだ
記事を読むと、終盤に「テスラはEV専業、BYDは電池メーカーとして創業した。当初から既存のガソリン車の販売を目的としていない点で共通する。伝統的な大手に比べ、テスラはEV、BYDはPHVやEVにいち早く投資を進めてすでに収穫期を迎えている」と書いてある。これも正確ではない。
電池メーカーであるBYDは、既存の自動車メーカーを買収することで自動車に参入した。しかし、当初はガソリン車だけを作っていた。ガソリンエンジンを自前で設計できるようになるころにPHEVのコンセプトを披露し、2008年12月の広州ショーで市販車を発表、自ら「世界初のPHEV」と謳った。
BYDのPHEV投入は、どのOEMよりも早かった。その理由は「電池メーカーだから」である。筆者は王伝福総裁への2009年のインタビューでそう聞いた。BYDの技術者氏からは「電池を自前で量産しても、大量の電池を積むBEVを採算に乗せるのは難しい」とも聞いた。BYDはまず、PHEVを開発した。そこからBEVへ向かった。しかし、完全にBEV移行しなかった。理由は「利益が出ない」からだと推測する。
一方、ガレージメーカーとしてスタートしたテスラは、18650型という規格化された量販電池を使ったBEVを考案し、そのコンセプトを2006年7月に「テスラ・ロードスター」として発表し投資を募った。まだイーロン・マスク氏は経営に参画していない時代だ。市販型ロードスターは2007年10月の発売予定より遅れ、2008年3月から納車が始まった。
ガレージメーカーを脱したのは2010年にトヨタと提携してからであり、トヨタの持ち物だった旧MUMMI(GMとの合弁工場)を譲り受け、量産規模が一気に拡大した。トヨタの紹介でパナソニックとの電池共同開発にも着手した。ここからテスラは量産OEMとしての足取りを始める。
テスラはZEVクレジット、BYDは電池が事業を支えている
当初テスラはBEVの製造・販売では赤字だったが、幸いなことにカリフォルニア州のZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)規制を採用している州が11州あり、そこでテスラはZEVクレジットをほかのOEMに販売することができた。経営基盤の弱い時代にクレジット販売で会社の赤字化を防ぐことができたのは、テスラにとってこの上なくラッキーだった。
BYDは出自が電池メーカーであることが現在の事業を支えている。テスラはパナソニックに専用電池の製造を担ってもらい、電池を「共同開発した」ことから自前でも電池の製造設備を持ち、BYDのスタイルになった。筆者が調べたかぎり、BYDはPHEVが会社の経営を支えている、BEVはネームバリューを支えている。PHEV用のICE(内燃機関)はBYDが自前で開発した。
テスラはEU委員会による中国補助金調査の際に「上海工場で製造する車両は電池を安く買っている」ことを認めた。旧知の在欧ジャーナリストに訊くと「当初はテスラへの追加関税率は20%強だったが、テスラ側が弁護士を立てて猛烈に反論し、EU側が折れた」という。結果、追加関税率は9%に引き下げられた。とはいえ9%ということは「補助金を受け取っていた」ことの証拠であり、補助金の額はQ3の利益から差し引かれなければならない。
BYDも17%の追加関税を課せられた。当初、EU調査団は17.4%を提案していたが、最終的には17%に落ち着いた。BYDは調査に協力し、受け取った補助金の一定部分は情報開示しただろう。当然、会社の正確な財務情報は開示するはずがない。ここは攻防があったと聞いている。ちなみにEUの調査にいっさい協力しなかった国営・上海汽車は35.3%の追加関税を喰らう結果になった。(次ページに続く)x