「なぜヤマハが四輪のレースに? 」の質問が、参戦する目的でありモチベーション
「オーガナイザーやライバルチームの皆さんからも、我われニューフェイスの参入は歓迎されていると感じています」と、ヤマハ発動機でフォーミュラEの開発グループリーダーを務める梅田泰宜さん。「イギリスの名門ローラと、F1やMotoGPなど世界の頂点で戦ってきた日本のヤマハ、そしてフォーミュラEでの豊富な経験を持つドイツのABT(アプト)というタッグに、ある種の敬意と注目をいただいているという印象です。周囲からの期待に、あらためて身が引き締まる思いです」と話す。
ヤマハ発動機は、電動パワートレインのマニュファクチャラーとして、モーターとインバーター、そしてギヤボックスのパッケージの開発を担い、同チームに供給する。フォーミュラEでは、全チームに同一のシャシー(車体)とタイヤの使用が義務付けられているため、パワートレインの性能や制御はチャンピオンシップにおいてもとりわけ大きなポイントのひとつだ。
「フォーミュラEは、極めて厳しく繊細で、かつ高次元の世界です。厳格な各種制限の中で開発のスピード感も求められるこのチャレンジは、当社が目指す2050年カーボンニュートラルの実現に向けたブースターにもなるだろうと考えています。『なぜヤマハが四輪のレースに?』と尋ねられることも多いのですが、それこそが私たちが参戦する目的であり、モチベーションにもなっています」と、このプロジェクトを統括する原隆さん(ヤマハ発動機AM開発統括部長)。
フォーミュラEの“厳格な制限”――。それはバッテリーの容量にも見て取れる。例えばF1やMotoGPでは、レース中は常にほぼフルパワーで戦うのに対し、フォーミュラEに搭載されるバッテリーはおよそ半分のエネルギーに制限されている。つまり「1」のレースを「0.5」のエネルギーで賄わなくては完走さえできないということだ。「だからこそ、エネルギーマネジメントの技術が勝負どころ。私たちの会社にとって高めていきたい技術領域のひとつです」と話す。
開幕に先立ってスペインで行われたプレシーズンテストでは、ゼイン・マロニー選手が全体の13番手(22台中)のタイムを記録。梅田さんは引き締まった顔つきでこう語った。
「ここまで手応えも感じてはいますが、先行するライバルたちの本当の力は開幕戦までわかりません。私たちはシーズンを通して進化と成長を続け、できる限り早く表彰台を狙える位置まで進んでいきたい」
ローラとアプトというふたつのビッグネームと手を組んだヤマハ、初参戦のフォーミュラEでどのような活躍を見せるのか、期待は高まる。