効いたよね、スポイラーのシェブロン!シビックRSの走りが激変!? ホンダアクセスの新型テールゲートスポイラーで「実効空力」を体感した

ホンダ車の純正アイテムを手がけるホンダアクセスから、シビックのマイナーチェンジのタイミングに合わせて新デザインのテールゲートスポイラーが登場した。一見、マイナーチェンジモデル向けのリニューアルと思ってしまいがちだが、なんと新開発することで空力性能を高めたという。その実力を群馬サイクルスポーツセンターを舞台に新型シビックRSで試した。
REPORT:大音安弘(OHTO Yasuhiro) PHOTO:中野幸次(NAKANO Kouji)

タイプRの知見を活かしつつタイプRとは異なる独自デザインに

新たなシビック用テールゲートスポイラーは、2022年9月に発売したタイプR用テールスポイラーに採用されたシェブロン型(鋸刃型)形状の実効空力デバイスを搭載したものだ。装着されたウィングを下からのぞき込むと、ノコギリの刃のような波型の凹凸があることが分かる。それこそがホンダアクセスの新たな秘密兵器なのだ。

スポイラーの裏に刻まれた連続したギザギザが「シェブロン」。

この新スポイラーの試作品を2023年の東京オートサロンで公開したところ、多くの反響があり、本格的な開発がスタートしたという。そのビジュアルをタイプR用に近いアグレッシブなデザインとしたことも、多くのシビックユーザーに響いたのだろう。ただ形状だけのもので満足しないのが、ホンダアクセスの社風だ。

東京オートサロン2023で公開されたコンセプトモデル。市販版との形状の違いに注目。

純正コンプリートカー「モデューロX」の開発で生んだシェブロン機能の効果を最大限発揮させるべく、根本的にウィング形状の見直しまで図っている。つまり、完成したウィングがあるにも関わらず、再びゼロから開発したのだ。その開発には、モデューロ開発ドライバーである土屋圭市氏も参加。徹底した走り込みを行うことで、しっかりと体感できる性能を磨き上げたという。

モデューロ誕生30周年でのトークショーで土屋圭市氏がその開発について語っている。
新型シビックRSに新製品のテールゲートスポイラー・ウイングタイプを装着。

そのスポイラーが生む具体的な機能性については、イメチェン効果も高いタイプR譲りのデザインとなる翼端板は、Aピラーの角度と緻密に合わせ込んで位置決めされており、直進安定性を高めるという。さらに車両側面の風を受け流すことで、旋回時の安定性にも貢献する。

テールゲートスポイラー・ウイングタイプの翼端版。後端がリップ状にやや跳ね上がった翼面にも注目。

肝となるモデューロ譲りのシェブロン形状については、車両後方に発生する乱流を抑制し、接地荷重の安定化を図るだけでなく、走行中の旋回から直進の過渡領域にも空力効果が追従し、曲がりの質を高めるとしている。

テールゲートスポイラー・ウイングタイプのウイング単体を裏から見たところ。
裏面に刻まれたシェブロン。

乗れば違いがわかる確かな空力効果

今回、新旧テールゲートスポイラーを同じシビックに装着し、その効果を検証する機会が与えられた。試乗車となったのは、発売されたばかりのMT専用グレード「RS」だ。幸運にも、取材前に標準仕様の「RS」に公道で試乗をしている。まずは旧型のテールゲートスポイラーからテストした。

テールゲートスポイラー・スタンダード
テールゲートスポイラー・スタンダード
テールゲートスポイラー・ウイングタイプ
テールゲートスポイラー・ウイングタイプ

テストコースは、タイトなワインディングである群馬サイクルスポーツセンターのクローズドコースであるため、慎重に走行する。走り出してすぐに、後輪の設置感が高まっているのに気が付いた。
実は、ノーマル車の試乗の際に、フロントタイヤに対してリヤタイヤの接地感が薄いと感じていた。街中でも走りは楽しめるが、リヤの挙動がワンテンポ遅いため走りの一体感が薄く「ザ・FF車」っぽい印象が不満であった。

テールゲートスポイラー・スタンダードでの走り。やはりリヤスポがあった方が、カッコいい。

その不満を見透かしたかのように、しっかりとリヤスポイラーは仕事をしてくれた。それでも有り無しを比較すると「装着されていた方の走りが好み」というレベルであった。

テールゲートスポイラー(スタンダード)での走り。

続いて、最新のシェブロンを導入したウイングタイプのテールゲートスポイラー装着し、同じコースを走ってみたが、その走りに目から鱗だった。大げさな話でなく。
劇的に4輪の接地感が高まり、クルマが路面に吸い付くように走る。路面からの衝撃や凹凸に対する車両の挙動もより安定し、ステアリングのインフォメーションも確かなので、より攻めたラインが選べるようになった。

テールゲートスポイラー(ウイングタイプ)での走り。形状の変化だけでなく、全体がブラック仕上げとなったことで、より勇ましい雰囲気に。

それゆえ、先ほどと同様の走りをしているつもりでもワンテンポ早く対応できるので、自然とラップも早くなる。そして、心地よさの肝となるのが、旋回から直線の過渡領域がシームレスなところ。だから、コーナリングも心地よく、ずっと走っていたいと思わせるほどだった。

テールゲートスポイラー(ウイングタイプ)での走り。

誤解のないように説明しておくと、車両は同じ個体のリヤスポイラーだけを取り換えただけ。スポイラーひとつでここまで走りが激変するとは、狐に包まれたようでもある。でも誓って真実なのだ。この新しいテールゲートスポイラー・ウイングタイプの本体価格は約7万円とスタンダードよりだいぶ高価だが、それでもこの効果ならお買い得だろう。

テールゲートスポイラー・ウイングタイプ(6万8200円)。ボディ側の台座はスタンダードタイプと共通なので、スタンダードタイプから交換することもできる(4万4000円)。ただし受注生産で、残念ながら受注は終了してしまっている。

もし装着を検討しているオーナーがいるならば、装着直後は本当に気を付けて運転してほしい。劇的に走りが変わり、必要以上に攻めすぎてしまう危険すらあるからだ。ドライバーにも慣らし運転を求めるリヤスポイラーなんて初体験である。これはドレスアップパーツでなく、シビック本来の戦闘力を引き出すボディチューニングパーツであると認識してほしい。もちろん、CVT車やハイブリッド「e:HEV」にも対応し、前期型の標準車の全仕様にも装着可能だ。個人的には、よりコーナリングマシンに仕上げられているe:HEVモデルの装着車に乗ってみたいと思った。

テールゲートスポイラー・ウイングタイプはまさに実効のある空力パーツと言えるだろう。レーシーなルックスでカスタム感もアップ。

ひかえめなルックスで確かな空力効果「ダックテールタイプ」も用意

今回、新たに欧州向けであるダックテールタイプのリヤスポイラーも登場。こちらは欧州拠点で企画され、ドイツで生産されたものを導入している。その控えめなビジュアルは、まさに欧州スタイル。スポイラーの効果としては、スタンダートのテールゲートスポイラーに近いとのこと。さりげないスタイルが好きな人も多いだけに、ぜひ、こちらの実力を試してみたいものだ。

テールゲートスポイラー・ダックテールタイプ(5万9400円)。

キーワードで検索する

著者プロフィール

大音安弘 近影

大音安弘

1980年生まれ、埼玉県出身。幼き頃からのクルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者へ。その後…