ジープ最小のEV「アベンジャー」は街で映える! 小さいのに“顔”の存在感は抜群!

ジープブランド初の100%電気自動車(BEV)がアベンジャーだ。基本はフィアット600eと共通だが、迫力のあるフロントフェイスをはじめ、ジープらしい個性を持ち合わせている。

TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

存在感のあるフロントフェイス、使い勝手のいいサイズ感

ジープブランド初の100%電気自動車(BEV)がアベンジャーだ。力強いスタイルをしているのでそう感じられないかもしれないが(筆者がそうだった)、実はかなりコンパクトである。

全長×全幅×全高は4105×1775×1595mmで、国産SUVを引っ張りだしてみるとトヨタ・ヤリスクロス(4200×1765×1590mm)とオーバーラップするサイズだ。あのコンパクトなヤリスをベースにしたSUVより100mm近く短いと考えると、アベンジャーのコンパクトぶりが想像つくだろうか。最小のジープだそうである。

フロントの「7スロットグリル」はヘッドランプよりも前面に配置され、万が一の衝撃からヘッドランプを保護する役割を果たす。

しかし、存在感は抜群だ。ひと目でジープの一員とわかるのは、アイキャッチーな7スロットグリルの効果が大きい。もっとも、この7スロットグリル、熱交換器やエンジンルームに冷却風を導く役割は担っていない。100%デコレーションだ。と言い切ってしまってはいけないらしく、前に突き出すように配置されており、ヘッドランプを保護する役割を担っているのだそう。

サイドの盛り上がったフェンダー部分は、力強い印象を与え、堂々とした存在感を示している。

7スロットグリルの奥、といってもずっと低い位置にはモーターが搭載されている。最高出力は115kW、最大トルクは270Nmである。床下には54.06kWhの総電力量を持つリチウムイオンバッテリーが搭載されている。WLTCモードの一充電走行距離は486kmだ。MINI COOPERもそうだが、最近はコンパクトなサイズでも50kWhを超えるバッテリー容量を備えたBEVが増えており、往復300km程度ならバッテリー残量を気にせずにドライブに出かけることができる。今回、アベンジャーで試乗したのは往復100km程度だったので、エネルギー切れの面でまったく不安はなかったし、バッテリー残量は充分すぎるほど残っていた。

リアには、ジェリー缶のデザインからインスパイアされた「X」のシグネチャーライトを装備している。

個性的なウインカー音は好みの分かれるポイント

エクステリアを眺めてさんざんジープらしさを感じた後でいざ乗り込んでみると、(人によっては)ちょっとばかり拍子抜けすることになる。ジープらしさ満載のエクステリアとは対照的に、インテリアはジープ味が薄いからだ。ステアリングのホーンボタンやシートバックにJeepのロゴはあるけれども、7スロットグリルほどジープらしさを主張するアイテムは見あたらず、ただ機能的な風景が広がっているばかりである。

Design to function(機能性を考慮したデザイン)」を意識したインテリアには、 ダッシュボード下部、大型センターコンソールなど、計約26ℓの収納スペースを備える。センターコンソール内の仕切りは取り外すことができ調整可能だ。

実は、アベンジャーは同じステランティスグループに属するフィアット600eの兄弟車だ。エクステリアはそれぞれジープらしさ、フィアットらしさを感じさせるまとまりを見せているが、インテリアは無味無臭で、600eとの共通項が多い。無味無臭なせいか、エクステリアを見て上がった気分が急速にしぼんでいくのを感じる。機能面での不足はないのだが、外と内との落差が大きいがゆえにそう感じてしまうようだ。

ジープらしい? と問われると「そうだ」とは自信を持って返答できないけれども、個性的と言って差し支えないのは、ウインカー音である。バスドラムとハイハット(いや、カスタネット?)を交互に叩くような感じでドン、カッ、ドン、カッ、ドン、カッという音がする。ウインカー音なのに。

正確なリズムを刻んでいるのに、なじみがないせいで調子が狂う(笑)。しかも、車速を上げていくとロードノイズでバスドラムの音はかき消され、休、カッ、休、カッ、休、カッとなってますます調子が狂う。そこはご愛敬といったところだろうか。

シートヒーター付きのレーザーシートが標準で装備される。

ジープらしくオフロードでの走行モードが充実

走行機能の基本はフィアット600eと共通だが、ジープらしいのは多彩な走行モードを備えていることだ。Selec-Terrain(セレクテレイン)とヒルディセントコントロールを標準で装備するのは、ジープ・ブランドの前輪駆動車としては初だそうである。フィアット600eの走行モードはノーマル、エコ、スポーツの3種類だが、セレクテレインを備えるアベンジャーはこれら3種類に加え、スノー、マッド、サンドが用意されている。

54kWhのバッテリーを装備し、一充電航続距離(WLTCモード)は486km。前輪駆動で最高出力は115kW、最大トルクは270Nmとなる。

スノーは凍結した道路やトレイルで最大限のトラクションを発揮する走行モード。マッドはぬかるんだ路面でのグリップ力を高める走行モード。サンドは砂地で最大限のトラクションを発揮する走行モードである。ヒルディセントコントロールは、急な下り坂でも一定速度で走行できるようアシストする機能だ。今回は乾燥した舗装路でしか走っておらず、ノーマル、エコ、スポーツしか試していない。オフロードで真価を発揮するモードの効果は未確認だが、きちんと用意してあるところがジープらしい。

市街地や高速道路で日常的な走りに終始する限り、アベンジャーは静かで、アクセル操作に対する応答の良さが際立つクルーザーだ。力強さを感じるエクステリアとのギャップが大きく、静かで大人しい。信号待ちから発進して急な登り坂に差し掛かるシーンでは、エンジン車ならうなりを上げるところだが、モーターで走るアベンジャーは苦しげな音を立てず澄まし顔で上りきってしまう。

後席の足元は少々タイトだが、一般的なコンパクトカー並みといったところだ。

ジープ最小サイズなだけあり、取り回しに気を使うことはない。さすがに後席はタイトだが、前の席を心持ち前に出してもらうと足元の窮屈感は解消される(筆者の身長は184cm)。頭まわりのスペースに不足はなく、足元のスペースさえ解決できればロングドライブも苦にならない印象。ラゲッジスペースは充分に奥行きがあり、使い勝手が良さそうだ。

ジープの最小モデルにして初のBEVとして登場したアベンジャー。ジープの一員らしくオフロードを想定した走行モードは備えているものの、実体は使い勝手のいいシティコミューターという印象だ。

ラゲッジルームは355ℓの容量があり、十分な収納が可能だ。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…