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2024-2025第45回日本カー・オブ・ザ・イヤーはどのクルマに?
第1回日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)は1980年。栄えある最初のイヤーカーは当時、一世を風靡したマツダ(当時は東洋工業)のファミリア3ドアハッチバックだった。どこを向いても“赤いファミリア”で溢れていたことを憶えている方も多いだろう。
↓ ↓ ↓ 【第1回~第45回までの日本カー・オブ・ザ・イヤー イヤーカーを見てみよう!】 ↓ ↓ ↓
あれから45年。「2024-2025第45回日本カー・オブ・ザ・イヤー」が2024年12月5日に決定する。
まず、10月31日に発表された今年のノミネートカーは以下の通り。
【ノミネートカー】
1. スズキ スイフト
2. スズキ スペーシア/スペーシアカスタム/スペーシアギア
3. スズキ フロンクス
4. トヨタ クラウン(スポーツ)
5. トヨタ クラウン(セダン)
6. トヨタ ランドクルーザー 250
7. トヨタ ランドクルーザー 70
8. ホンダ CR-V e:FCEV
9. ホンダ N-VAN e:
10. ホンダ WR-V
11. ホンダ アコード
12. ホンダ フリード
13. マツダ CX-80
14. マツダ MX-30 Rotary-EV
15. 三菱 トライトン
16. 三菱 ミニキャブ EV
17. レクサス LBX
18. レクサス LM
19. BMW 5シリーズセダン/ツーリング
20. BYD シール(SEAL)
21. フェラーリ プロサングエ
22. フィアット 600e
23. ヒョンデ アイオニック(IONIQ)5 N
24. ヒョンデ コナ(KONA)
25. ジープ アベンジャー
26. メルセデス・ベンツ Eクラス/Eクラスステーションワゴン
27. MINI カントリーマン
28. MINI クーパー
29. ポルシェ パナメーラ
30. テスラ モデル3パフォーマンス
31. ボルボ EX30
そして、この31車のなかから予選?を突破し11月6日に発表された決勝進出??の10台がコチラだ ↓ ↓ ↓
【10ベストカー】
スズキ フロンクス
トヨタ ランドクルーザー 250
ホンダ フリード
マツダ CX-80
三菱 トライトン
レクサス LBX
BYD シール(SEAL)
ヒョンデ アイオニック(IONIQ)5 N
MINI クーパー
ボルボ EX30
このなかから、2024年を代表する栄えあるクルマが自動車評論家、ジャーナリスト、有識者からなる59名の選考委員によりイヤーカー(優勝車)に選ばれる。発表は12月5日(木)15時から行なわれ、その模様は日本カー・オブ・ザ・イヤー公式のYouTubeチャンネルで配信される。
その選考委員を40年続けている清水和夫氏と、COTYのアレコレを一歩外から見続けてきた高平高輝氏が今年の選考車とそれにまつわる世界事情も含め語ってくれた。厳しい目を持つふたりからどんなことが語られたのか…聞いてみよう。
ひと癖もふた癖もある(!?)清水と高平が10ベストカーを語る
【スズキ フロンクス】
清水:スズキのフロンクスちゃんが選ばれたのは順当かなと思う。これはもうね、泣き落とし作戦だね。
高平:ボク、残念ながら乗っていないんです。
清水:フロンクス、全然悪くない。ホンダのWR-Vよりもちょっと上質に作っているから。ADAS(Advanced Driver-Assistance Systems/先進運転支援システム)もまともだし。
高平:じゃあ価格としてはふんだんにいろいろ付いていて、やっぱりお買い得感はある?
清水:260万円くらいはいいんじゃないの(編集部註:FFモデルが254万1000円、4WDモデルが273万9000円)。
高平:ということなんですね。
清水:ホンダの方が安く作った、サイドブレーキとかね。
高平:WR-Vも割り切った足としてはコレ売れるだろうなって思うくらいですけど、同等かもっといいくらい?
清水:セグメントは同じだけど、WR-Vよりも上。
高平:ADASとかも全部揃っているもんね。
清水:エンジニアに聞いたら、インド工場といえども、マルチ・スズキ・インディアの最新の工場なので、品質はバッチリだということだよ。フロンクスの推し具合は、インド製と泣き落とし。
編集部:スズキ初のCOTY取るかも、ですもんね。
高平:だって今まで軽自動車しかなかったから、軽でCOTYはね……(編集部註:2022-2023で日産サクラと三菱eKクロスEVが初めて軽自動車でCOTYを受賞した)。
清水:一昨年、オレはアルトに10点入れたんだけど、全然響かなかった。
編集部:ジムニーでCOTY取れそうなときもあったんですけどね。
清水:だからスズキに獲らせたいっていうその感情的な、選考委員の気持ちがあるから今、泣き落としのプロモーションかけている。というか、スズキがこんなにCOTYで一所懸命になったっていうのは、もう前代未聞というか、初めてだよ。サイクルスポーツセンターでの試乗会でのことだけど、技術屋さんと広報の雰囲気がまったく違う会社になったみたい。物凄く良い意味でワンチームになっているんだよ、風通しもいいし。
やっぱり社長の存在ってデカいと思うよ。修さんの息子さん(鈴木俊宏社長)はニュートラルの人。技術、営業、プロモーション、販売っていう縦割りではなく、みんなでワンチームでやってこうねっていうような話を聞いてはいるんだけど、フロンクスではそれがすごく感じられる。変にセクショナリズムもないし。やっぱ良いクルマの陰に組織っていうか人がありっていう感じ。そのチームワークみたいな、そこは見逃せないなと思う。
デザインはちょっとSUBARUっぽいな。クロストレックと間違えちゃいそう。
【トヨタ・ランドクルーザー250】
清水:トヨタ・ランドクルーザー250、これは巧く作ったよね。新しい2.8Lディーゼルも悪くないし、2.7Lのガソリンもあるしさ。
高平:ちゃんとわかって使う人には多分もうまったく問題ない。まったく問題ないけど、RAV4より全然加速しねぇ!とかって言われてもちょっと困っちゃうんだよねっていう。トルクとパワーの仕事の違いがわかっていないからな。でも、普通に高速道路で合流しようとしても、特にガソリンエンジンの方は遅くて全然スピードが出ない。ガソリンエンジンは2.7LのNAだから。
清水:オレはディーゼル推し。
高平:オレももうディーゼル推し。でもガソリンエンジンは燃費も悪いわ遅いわで、何にも考えないでかっこいいと思って買っちゃうと、ちょっとね。
清水:陸サーファー(古い!?)にはガソリンの安い方がいいんじゃないの。本格的なクロスカントリーにするんだったら4駆ディーゼル。これもね、実はオレのショッピングリストに入っている。でも上屋がちょっとガタガタするから、もうちょっとアップデートするのを待っている。
編集部:デザイン的にはどうですか?
清水:悪くないんじゃないの? これ、丸目4灯と角目と両方あるんだけど、丸目の方が可愛いよね。
編集部:角目を丸目にオプションで変えると20万円くらいするんですよね(編集部註18万7000円)。カタログモデルはみんな角目で、人気の丸目はファーストエディションだけで、あとはディーラーオプション。
【ホンダ・フリード】
清水:ホンダ・フリードは、“ホンダに神が降りてきた”くらい乗り心地がいいんだよね。スライドドアで、介護の車椅子も載るし。
高平:技術者に、法律っていうか教科書が変わったんですか?って聞いたほどです。フィットの一番新しいのから同じようなことを聞いているんだけど、“いや、我々は何も変わっていないです”って。それについて、和夫さんに聞きたかったんです。
清水:試乗会で“お前ら何やったんだよ? なんでこんな良くなったんだよ!?”って聞いたんだけど、エンジニアはキョトンとしてるのよ。『ものづくりセンター』で生産技術と工場と研究所が一体となっているじゃない? 今までは3つ会社が違っていたから。ソコが効いているんじゃないかなと思うんだけど。
編集部:その効果が出てきたと?
清水:研究所の連中は図面を作って終わり。やっぱりものづくりセンターになったから工場と生産技術と設計技術が一緒になっているので。それはオレの大学の後輩の八郷隆弘さん(2015-2021の本田技研工業社長)がやり始めたんだよね。ハッちゃん、意外と渋いことやってくれたな。
高平:なるほど。それ説得力ありますね。凄くキチンと作ってあるなっていう感覚があります。理論だけで実際に乗るとそういう風に動いてないっていうのが昔はちょっとあったんですけど、エンジニアは“いや、特に何も…”って言っているんだけど、いやいや良いよって。
清水:初代N-BOXが成功したのは、3.11の震災で研究所の屋根が落ちて潰れた。それで急遽鈴鹿工場に研究所が行って、そこで工場と一緒になって設計した。設計と製造が一緒の部屋にいたから、風通しもいいし、キャッチボールがパンパン!ってできるし。今までは別会社だったからいちいちメールでやり取りしたりとか。雑誌作りもカメラマンとデザイナーと編集者が一緒になって作るといい本ができるよね。
高平:おっしゃる通り。近くで相手が何をやっているのか、ちょっと気にするっていうのは大事ですよね。そういう風に昔の人は教わってきた。オンラインで打ち合わせして、ファイルのやり取りだけでそんなカッコいいのは作れないよね。
【マツダ・CX-80】
清水:マツダ・CX-80、これはCX-60の失敗を受けてちゃんと反省して。そもそもCX-60がなんで失敗したかっていうのは、どこかできちんとやりたいんだけどね。
編集部:和夫さんの思うCX-60の失敗って?
清水:知っているけど、ここでは言えない。飲み屋でね!
高平:さっきのスズキやホンダの逆だとボクは思っていますよ。マツダは周期的にハレ―彗星のように、上手く回ったりダメになったり、いつもそうなんです。
編集部:CX-80で東京から鈴鹿まで行きましたけど、燃費が良くてビックリしました。
清水:“レンジローバー物差し”で見ちゃうと辛いところはあるけど、値段を考えたら安いよね、3.3L 直6ディーゼルが400万円台で買える(編集部註 エントリーグレードは394万3500円)。しかも尿素不要でござる。
高平:もうそろそろ、あのインテリア、このデザイン、このカラーリングって飽きられてきているんじゃないのかな?って思います。 インテリアは上から下のクラスまで全部基本的に同じ。グレードの下のクルマだと嬉しいけど、上のクラスでも同じって思うと、ちょっと、アレ?っていう。
【三菱・トライトン】
清水:これは面白くてね。ディーゼルでいいんだけど、ただ1ナンバーだから車検が1年毎。高速道路でも大型車両料金が取られる。せめてもうちょっと短くして、1ナンバーじゃないやつが欲しかったな。でもカッコいいんだよ。
高平:三菱はね、まだ自分たちのことを信じきれていなくて。この前にタイから入れたヤツがあったじゃないですか、トライトン(2006年)。ハイラックスが日本で数が出た時にウチもやろうって限定で入れたんですけどまったく売れなくて、ディーラーからすごい突き上げ食らったっていう。装備と値段がね。
清水:なんかソープランドのスケベ椅子みたいな色(←コラ!)しているんだけど、ちょっとセクシーだよね。でも、タイ(ASEAN)目線ではこのサイズがいいのかも。
高平:どうせ荷物なんか積まないんだから、日本向けに、もう少し荷台部分を切り詰めたっていいじゃん!って、そういう改変をするほど本当に売れんのかな?っていう感じがガンガン伝わってくるんですよ。でも、トライトンはハイラックスより乗り心地もいいし、4駆なんかはハイラックスみたいな昔っから何にも変わっていないパートタイムじゃなくて、ちゃんとフルタイムになっている。
清水:音更(おとふけ/三菱自動車・十勝研究所[北海道河東郡])のテストコースで乗ったけど、ダートでドリフトみたいな走りもできる。
高平:それもいいんだけど、まぁマニアにしか売れないでしょうね。
清水:でもデザインは存在感があるな。ディーゼルだし4駆だし、山中湖の別荘用に欲しいなって感じ。
高平:今回の投票は全部そういうのに入れようとしていますか?
清水:まだ言えない! だって『ディーゼルは地球を救う』っていう本、書いちゃったんだもん(『ディーゼルこそが、地球を救う: なぜ、環境先進国はディーゼルを選択するのか?』/ダイヤモンド社 [2004年4月1日刊行])。
高平:あの本、もう1回リバイバルできないですかね、『ディーゼル“も”地球を救う』とか。
【レクサス・LBX】
高平:レクサス・LBXは“RR”を出したことですべて…!
清水:トヨタ・ヤリスクロスのレクサス版。まあRRは別にして、LBXはいいんだけど、履いているタイヤがウエットではちょっとね。クルマは結構面白いかなと思ったんだけど。
高平:LBXはもうちょっと早く出さなきゃいけなかったはずでしょ。
編集部:値段がちょっと高いかなと思いましたけど…。
高平:やっぱりちょっと割高というかね、価格が国際水準なので。
【BYD・シール(SEAL)】
清水:これはインパクトあるよね。値段考えても(5,280,000円~6,050,000円)。
高平:安いですよ。この性能でこの出来で、最初からこの値段で出されちゃ、900万円もするレクサスのアレとかトヨタ、スバルの電気自動車なんてまったく敵わないです。
清水:BYDは“大谷翔平”だね。バッテリー作ってクルマも作れる二刀流のメーカーってBYDしかいないから。
高平:BYDってバッテリーを作り、その後で自動車も作り出した。
清水:元々は半導体の部品、秋葉原に卸すような部品を売っていた。で、その後でバッテリーメーカーを買収して、自動車メーカーを買収して。
高平:日本に持ってきても600万円を切るくらいの値段。シールよりも装備とか航続距離とかあらゆる面で劣っているトヨタのbZ4Xが 650万円(4WD)もするんですから、もう最初から価格と装備とかで敵わない。シールは605万円の4WDを買えば何にもいらない。BYDにはもっと安いEVがいっぱいあるんですよ。
清水:オレも数年前にBYDに行ったけど、Aセグくらいからある。
高平:日本は「ATTO3(アットスリー)」、「DOLPHIN(ドルフィン)」、「SEAL(シール)」の3車種だけど、BYDが本国で売っている電気自動車は漢(ハン)、秦(チン)、唐(タン)、宋(ソン)などたくさんある。2000万円のスーパーカーから200万円台くらいのコンパクトハッチまで、いつの間にか電気自動車も凄いラインアップができている。
清水:それどころか、電気自動車はバスとかも。例えば千葉・幕張のベイタウン、あそこにBYDの黄色いBEVバスが走っているんだけど、最新のバスなのでバッテリーからモーターから全部内製。だから、トラック・バスからAセグまで、もっと言えばモノレールも。
高平:いつの間にか三菱重工みたいになっていますね。
清水:でもITがちょっと弱いので、ファーウェイと提携し、これから自動運転とかSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル/クルマと外部との間の双方向通信機能を使いクルマを制御するソフトウェアを更新し、購入後も機能や性能をアップできる自動車)をやる。そこはテスラを見習っていると思う。
高平:足まわりの組み方とかテスラそっくりですね。
清水:オレがBYDに行ったときは、デザインはアウディのエンジニア、シャシーはメルセデス・ベンツのエンジニアがいた。メルセデスとBYDが“デンツァ(騰勢/Denza)”っていう合弁会社をやっていたんだけど、そこにいたエンジニアが辞めてそのまんまBYDに行って。
高平:そもそも中国嫌いな人は忘れているかもだけど、トヨタとBYDが提携して出すって言ったアレはどうなったんでしょ?
清水:それもやっているね。今の若い世代は中国、韓国関係ないから、DXでデジタルコックピットとかそういうところにカッコ良さを見ちゃう。
高平:すぐに受け入れるにはハードルは高いでしょうけど、若い人たちにはそう抵抗なく、もうちょっと経てばスルっと入ってくるような感じになるんじゃないかな。でも、BYDも今度はあんまり焦ってないっていうか。 “ヒョンデと同じように尻尾を巻いて逃げ出すゼ!”とか、“燃えるんだろ?”とか、すぐにそういうことを言う人もいるけど、そういう人たちは別に何も勉強しようとしないし何も買わないし。いいんですけどね。
【ヒョンデ・アイオニック(IONIQ)5 N】
清水:BYDに比べて、アイオニックの方が瞬間芸的な感じ。ヒョンデのビジネスが日本で定着するかどうか?っていったら、ちょっと難しいかもわかんない。製品のインパクトはアイオニックのほうがあるんだけど。
高平:“ドリフトできるゲームチェア”みたいな感じ。
清水:でもWRC(世界ラリー選手権)もやっているし、ヒョンデっていう自動車メーカーのブランドが日本のプレミアムなところを目指して、モータースポーツでも世界の頂点でやって、実際WRCでもヒョンデは速かったしね。本来ならマニュファクチャラーとっていたかもだしね。
高平:WRCラリージャパン最終戦で3点差でトヨタ。
清水:ヒョンデがクラッシュしなかったら勝っていたね。
【BMW・MINIクーパー】
高平:これ、お気に入り?
清水:オレのお気に入りは、ノミネートにはあったけど10ベストには入らなかったカントリーマン。クーパーはディーゼルないんだもん。
高平:MINIはICEかBEVかは関係なく、”MINIクーパー”っていうことで10ベストに入っているんですね。
編集部:10ベスト試乗会には3ドアと5ドアがあったみたいですよ。
【ボルボ・EX30】
編集部:毎年ボルボって10ベストカーに入っているイメージがあります。私的には地味に感じるんですけど…。
清水:でも乗ると、やっぱりスウェディッシュなクルマみたいな、昔のボルボのほのぼのした感じはあるよね。
高平:テクスチャーとかそういうのは上手いこと考えられているっていうか、スカンジナビアのデザインも感じさせますけども、やっぱりもうちょっと使いやすく、しかも安定性というか、もうちょっと熟成してこないと不安です。ちょっぴりCX-60の匂いがします。
厳しい世界情勢の中、トヨタ/スズキ/ダイハツの関係がようやく見えてきた!
清水和夫さんと高平高輝さんが10ベストカーを語った後、「今の世の中の動きも知っておかないと、10ベストカーを良いか悪いか(※好き嫌いじゃない)なんて軽く語れないんだよ」という清水さん。清水×高平クロストーク第1回のテーマ【南南西に進路を取れ!】に続き、地球全体から見た自動車世界の今を語り始めた。
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清水:今ようやく、スズキとダイハツの関係が見えてきている。ダイハツも禊が終わったしね。アメリカも“またトラ”になって、イーロン・マスクがDOGE(政府効率化省/ Department of Government Efficiency)になる。
高平:う~ん…そういうの好きだけど、本当かな?と。
清水:でもね、中国メーカーも台頭してきて、今世界中で工場止めているじゃないですか。 日産はタイを止めたし、ドイツもそうだし、ミシュランのフランス工場も止めるみたいになっている。ダンロップも過剰生産したアメリカの工場をふたつくらい止めるし。過当競争し過ぎて、投資をし過ぎて、そこに中国が入ってきたから伝統的なOEMとサプライヤーが供給過多になっている。稼働率が上がらないどころか、モノを作っても売れないから工場止めちゃう。そんな状態で日本メーカーは、特にトヨタとスズキはインドを中心に、マルチ・スズキ・インディアで作ったクルマをトヨタバッジで売る。ダイハツはおそらく、元々中南米の方でやっているから、そこにダイハツのクルマにトヨタバッジをつけて売る、みたいな。だから、北緯20度くらい、赤道のちょっと上から下側の西と東に、“トヨタ/スズキ”と“トヨタ/ダイハツ”みたいな感じグローバル・サウス戦略。そこはトヨタ強いな!と。
高平:今までトヨタは、特にインドは自前でスペシャルモデルを作ってというのをやったけど、でもなかなか上手くいかなくて。それをダイハツに完全にイニシアチブ取ってもらってもいいや!っていう風になったんですか?
清水:それ正しいんだけど、オレもトヨタ・エティオス (Etios/Bセグのサブコンパクトカー/2010年に公開、2011年から南アフリカへ輸出開始)の発表会でインドに行ったけど、大失敗。現地のサプライヤーは使えないから、日本のサプライヤーを持っていったので、値段が全然合わない。それはマルチ・スズキとは喧嘩にならない。それで、エティオスは撤退、工場も止め。
それでトヨタがわかったのは、開発センターはバンガロール(インド・カルナタカ州)に作るんだけど、クルマはスズキが作ったクルマのトヨタOEM。
高平:それでいいや…というか、それじゃなきゃやっぱりここでは無理だと。
清水:うん。それはエティオスで目が覚めたんだね。マルチ・スズキがどれだけ上手くタイヤから金型から現地のものを使ってやっているか。でもトヨタはそういう設計ができない。日本でいい状態で、日本のサプライチェーンでやっているから。トヨタはそういう風に割り切った。
高平:トヨタは今までも、例えばタイとか他でいっぱいありますけど、自分が進出したい時には仲間、友だち、親戚一同一緒に行くっていうのは、もうここ何十年ものやり方で、それこそ工場の植栽から掃除など、そういうのを支えるところまで、日本のトヨタ系列、グループを全部連れてくのが当たり前だったんですよね。その失敗は本当に身に染みたのかなというか。ニュースで聞いていても、本当にスズキとトヨタはそういう風にやれるのかな?と思っていたら、和夫さんが言うように今度はやっぱり本当だっていうか…。
清水:そういう布陣にしていて今、鈴木修さんの息子さん、鈴木俊宏さんが社長(2016年~)で、副社長は石井直己さん。この石井さんはトヨタの人。トヨタでエティオスの後処理をさせられた人。
高平:あら~、それは大変でしたね。
人材豊富なトヨタから、ブラジルを知り尽くしている方がダイハツ社長へ就任
清水:最高の人事をトヨタはスズキの副社長に入れ込んだ。もう一方で、ダイハツはどうするの?っていったら、ASEANから西はスズキとやると決まったので、ダイハツの入る隙間がない。で、逆に東。東っていっても太平洋があるから中南米だよね。ここはダイハツが今まで作っていたものをトヨタバッジでやるのかな、と。で、トヨタのブラジルの営業本部長だった井上雅宏さんがダイハツの社長になった。ビシーッ!とシナリオができていて、トヨタの画が描けそう。
高平:“人事大好き清水和夫”としては、ハマり過ぎるカードの揃え方!
清水:なぜブラジルの営業本部長がダイハツの社長になったのかな?なんて思っていたら、そういうことね!って今は思っている。やっぱりトヨタは人材が豊富だから、適材適所に次の新しい事業をやる時には人がパッと入るんだよね。
高平:本当にそれがトヨタの強さですよね。あらゆるマーケットで、一本足打法とか二本足打法って言われないように、いろんなものを大事に、諦めずに育てるっていうことをやってきていますからね。
清水:今の話はトヨタからもスズキからもダイハツからも聞いた話じゃない。例えばダイハツの最初の問題、タイのロッキー/ライズの側突の問題だったけど、あれね、南米用のクルマも入っていたハズ。今ね、WP.29(自動車基準調和世界フォーラム)があるから、タイで作ったクルマは世界のWP.29に加盟している国(61カ国・1地域)全部出せちゃう。そういうことを鑑みてトヨタの戦略を考えると西はスズキ、東はダイハツ。トヨタができない地域はスズキとダイハツを使ってやっていくという。
世界第3位の自動車大国、インドの戦略
編集部:インドからスズキの電気自動車を入れるっていう話を聞きましたが?
清水:ややこしいバッテリー領域とかはトヨタの力がないとできないと思うけど、プラットフォームなんかはスズキがやらないと高いものについちゃうよね。で、インドのナレンドラ・モディ首相も、インドはあと何年後か、2030年くらい…もっと早いかな、400万台超えるらしい。中国、アメリカに次いで世界第3位の市場がインド。
高平:日本はGDPももうすぐ抜かれちゃうっていう話もありますし。ただ実際の経験としては、もう15年くらい前の話ですけどボク、10日間ぐらいフェラーリのツアーでインドに行ったことがあって、それにタタの人たちがサポートでついてきてくれたんです。実際にクルマで走りながら毎朝毎晩、インドの人たちは話好きだからずーっといろんな話をしていたんだけど、やっぱりインドは一筋縄ではいかないって言っていたし、タタの人たちも認めていた。でも、地方によって毛色がだいぶ違って、それは宗教のどこどこが強いとかいろいろあるんですけど、大きな市場なんだけど、しかも教育水準の高い人もいる民主主義なんだけど、でもその分、自己主張が強かったりとか、政府が抑えたからと言ってすんなり話を合わせるみたいな、そういう地域が全部なんていうことは少しもない。
清水:インドはひとつで見ちゃうといけなくて、インドに駐在していた商社の人に聞くと、言語だけで20種類ぐらいある。要するに中はカオス状態。それを最近上手くモディ首相たちがまとめ上げて、自動車産業もついに来る。
自動車大国、中国の勢い
清水:もうひとつ言わなきゃいけないのは、ASEAN。ASEANって日本車が強かったんだけど、今はガンガンに中国が入ってきて、スズキも言っていたけど、タイの工場を閉めているくらい。だからもうインドネシアだけになっている。ダイハツも同じようにマレーシアは強いんだけど、あそこらへんって今、相当中国にやられているので、ASEANっていうのはイコール日本じゃなくて、インドと、もうちょっとグローバルサウス的に広げていかないといけない。ASEANでももう中国メーカーが入ってきているし。
高平:ちょっと言い方は乱暴なんですけど、作って余ったクルマをどんどん捨て値で持っていっている。
清水:今エチオピアがEVの墓場になっているね。中国のEVが売れず中国で過剰在庫になるからどんどん出しちゃう。で、ASEANに持っていって過当競争になるから、最後はエチオピア。エチオピアに行くとホンダのEVだらけ。トヨタのbZ4Xも。
編集部:エチオピアに電気って…たくさんあるんですか?
清水:エチオピアって再エネ(再生可能エネルギー)の国だからね。逆に石油じゃない。太陽光、水力、風力…再エネの方が楽なんだよね。国家戦略も再エネ。だからEVが受け皿でいいわけで、安いの欲しいでしょ。で、中国製のホンダとトヨタ車。中国のBYDとか見ていたら、日本のEVなんて魅力ないよね。
編集部:テレビや白物家電とかを見ていると、中国製品はすぐ壊れそうなイメージがなんとなくあるんですが…。
清水:それは物凄い偏見。今BYDなんかも力をつけているし、そもそも中国は安物小物家電なんかで勝負していない。だって、原子力潜水艦持っていて、航空母艦持っていて、月にロケット持っていて。あらゆるテクノロジーはもう日本のはるか上に行っている。
高平:同時に、14億何千万人のうちのどのくらいが今、経済の苦境に苦しんでいるかっていうと、表には出てこないけど、やっぱりだいぶしんどいみたい。
清水:格差は酷いよね。
高平:中流階級の、この間まではどんどん買えた人たちがパタッと止まっちゃって、そういうのは全部ASEANとかに流れているっていうのはなかなか伝わってこないけど、結構、本当に経済的にまずいんじゃないかという。
ボ~っとしてたら日本のEV界は中国/韓国に負ける…いや負けている!
清水:こういう話をすると、中国の悪いところ、弱いところばかりを見つけて、逆説的に“日本はまだ大丈夫なんだ”みたいな安堵感に浸ろうとするんだけど、それもまったく間違っていて、むしろ中国だって辛いものはあるんだけど、ことテクノロジーに関してはもう日本は追いつかない。だって、バッテリーなんて中国/韓国しかないんだから。ハイブリッドとかの技術は日本がいいんだけど。
高平:中国嫌いなネット上のクルマ好きでも、ノースボルト(スウェーデンの新興車載電池企業)なんかパタッと倒れちゃったことをどう見るのか。メルセデス・ベンツでもどこでもCATL(Contemporary Amperex Technology/寧徳時代新能源科技/中国の世界最大手の電気自動車用の電池メーカー)かBYDか…というくらい、いつの間にか自動車の中の電池は、ほぼ中韓です。
ホンダは全社挙げて「全固体電池」へ一世一代の勝負を賭ける!
清水:この前、ホンダの全固体電池の発表会に行ったときに社長も言っていたけど、もう完全に液体リチウムイオンバッテリーでは中韓に敵わないって。パナソニックが一部やっていたりGSユアサとやっているけど、規模といいもう絶対敵わない。だから全固体電池に自分たちが次の世代の技術の勝負をかけるんだと。本当に一世一代の勝負だね。日産が見せてくれたような規模じゃない。パイロットラインなんだけど、量産ライン的にスラリーという、材料の入り口から最後の製品まで全部見せて。オレが一番驚いたのは、硫化物質を使っているので、水分が入ると硫化水素が出てみんな死んじゃう。だから、部屋の中の湿度を0.1%にする。0.1%の湿度なんて、大気の中でほとんどH₂Oがない状態。
高平:つまり、揮発を完全に抑えるとか、そういうこと?
清水:水分がないから硫化水素が出にくいので毒ガスが出ない。そのくらいまでしても、硫化水素を使いたいっていうのが全固体電池の難しいところ。問題は、0.1%の湿度を守るためにどうするの?って聞いたら、ココはマイナス90℃、アッチはマイナス60℃とかで温度管理をする。サクラ(栃木県の本田技術研究所)でね。
それをホンダは先日のワークショップで全部見せてくれた。オレが個別に「マイナス90℃なんてCO₂使うじゃないか。できた製品はもう一回高温の熱で乾燥させるし。コレ、どれだけCO₂使うの?」って聞いたら、「そうだよね…」って。それが今の課題だと。トヨタも多分、同じ課題を抱えている。元々積層で薄いものをくっつけていくので、中を電気が通る時にやっぱり膨張する。で、膨張、圧縮するから相当押さえつけなきゃいけないので、界面のセパレータをピシっと抑える技術っていうのは燃料電池に近い。だからスタックを作れるトヨタとホンダは全固体電池で行けるだろうな。それ見たら日産なんか絶対無理だと思ったよ。しかも、日本政府は半導体に9000億円も投資するが、ホンダの全固体は200億。半導体と全固体とどっちが日本の強みになるのか、政府はわかっていない。
高平:日産は一緒に考えてくれる電池メーカーも自分で切っちゃったようなものだから、 もう味方というか、チームの有力選手を放出しちゃったようなものだから、体を成してないですよね。
清水:ミシュランだって、業績そんなに悪くないんだけど、将来に向けた材料のサステナビリティってことを考えてスーパーGTレースのGT500は止めたよね。日産はもうフォーミュラEとかスーパーGTなんてやれるような財務体質じゃないと思う。
高平:まったくその通りだと思います。
清水:SUBARUも同じだよね。ニュルやってGT300やってスーパー耐久やって。日産もSUBARUもレースなんかやっている場合じゃないなっていう気はする。全部止めろとは言わないけど、だったらS耐のカーボンニュートラルだけにすればいいのに。そのぐらい今、世界の自動車メーカーが苦しんでいる。ドイツメーカーも苦しんでいるよね。タイヤメーカーだって工場閉めるんだから。供給過多なのよ、中国が来たから。
とは言っても中国の情勢だって厳しいのだ…
編集部:この間中国へ行って聞いたんですけど、2~3年後には中国の自動車メーカーもバンバン潰れるって中国の方が言っていました。投資が止まった瞬間になくなるところばっかりだから。
清水:淘汰されるんだよ、これから。
編集部:5年後、どこが残っていますか?っていろんな人に聞いたけど、まったくわからない、国営は残るけど、吉利汽車(ジーリー・オートモービル/Geely Automobile Holdings Ltd)とBYDは残るけど、あとはわからないと。
清水:BYDは頭いいから、フォードが売り出しているブラジルの工場を買ったりとか、メキシコ工場はちょっと誤算かもわからないけど、インドでも工場をフォードから買う。BYDは世界にも出ていくので、テスラとBYDは生き残ると思う。中国は民族系、政府系含めて相当ヤバい状態が続く。っていうことは、日本のOEMなんかもっとやばい状態。
高平:もう20年前から、中国の自動車メーカーはいくつあるの?って聞くと、大体300かなって。その5年後に聞いても同じ答え。常に入れ替わって、大体300って。潰れてもすぐまた出てくるから。そのぐらい市場が大きくてダイナミックなんだけど、でもさすがに今の状況ではだいぶ絞られちゃいますよね。
海外生産の日本車もCOTY 10ベストカーになる時代、“またトラ”の影響は?
清水:今回、COTY(日本カー・オブ・ザ・イヤー)でスズキのフロンクスが10ベストに選ばれたけど、インド生産でしょ。他にホンダのWR-Vもインドでしょ。これからインドが国内需要で400万台あると、やっぱり輸出したくなるわけだよね。で、中東のアフリカの方だけじゃなくて、数字を見ればわかるけど、それが日本の方に来るかもわからない。もうすでにタイではアコードとトライトン。インドはフロンクスとWR-V。中国がオデッセイ、アメリカからホンダのCR-V e:FCEVが来て。だからグローバルに、今カオスのような状態で、いずれにしても絶対的に供給過多。
高平:CR-V e:FCEVはアメリカ生産なんですか?
清水:NSXを作っていた工場だよ。
高平:そんな時に“またトラ”になって、これから関税だ~!って旗振り上げられちゃうと、ビビるところは本当に戦々恐々としているだけで。どうすればいいんだろ。日産もそうですよね。日産もフォードもGMも全部メキシコのグアダラハラに持っているのに、アメリカに入れる時にさらに25%だって言われたらちょっとね。
清水:この間BYDのレポートを読んでいたら、あそこは恐ろしいなと思ったんだけど、ヨーロッパも関税かかるじゃない。だったらその分安くすりゃいいんだろうと。関税に25%かかったらコストを25%下げればいいんでしょって。そういうポジティブな考え方です。
高平:オレたちはなんとか生き延びている間に他が全員いなくなってくれるよね!みたいな、ソッチ側の前向きなんだね。
清水:だからなんていうの、兵糧攻め(食糧補給の道を断ち敵の戦闘力を弱らせる攻め方)みたいになっている。キャッシュがあるところは赤字でも作り続けていくと生き残って、基本的には他がいなくなったらもう1回浮上できる。
恐るべし、テスラのカーボンクレジットマネー
清水:テスラが2009年からカーボンクレジットでもらったお金は日本円で9000億円。年間で2400億円ぐらい入る。だからテスラとBYDはクルマで赤字になっても、カーボンクレジットのお金が入っちゃう。
高平:そうだとは言われていたけど。テスラでひとつ疑問なのは、上海工場って最初から中国政府と仲良く話をつけて、海外メーカーとしては初めて合弁ではない。中国の自動車工場って、中国側が51%:コッチ49%っていうのが普通で、50%:50%もあるっていう話だけど、でも、テスラは100%自分の資本であそこに工場を作ったんですよ。
清水:その代わりに中国政府と話して、そこで得られた走行データは全部中国の中のクラウドに入れて、外では使わないっていう条件だね。
高平:そういう風な超優遇措置を受けているにもかかわらず、“またトラ”大統領のそういう政策がグレーになってどうすんの?っていう、そういうところも。
清水:その排出権取引で、カーボンクレジットでバンバンお金もらっているじゃない。だからカリフォルニア州政府が頭きて、もうEVの補助金はテスラには出さない!って言い出した。
高平:それ当然ですよ。
清水:それでイーロン・マスクは怒るんだけど、カリフォルニア州とテスラのバトルも面白いなと思ってみていた。
高平:そうすると、もうカリフォルニアから引き上げてフロリダの大統領の隣の土地に工場を建てるとか、ヘッドクォーター置くみたいな。
清水:もうすでに、テスラはシリコンバレーから引っ越して、テキサスのオースティンにいる。テキサスが好きなの、今ね。
高平:トヨタもテキサス。
編集部:なぜにテキサス? テキサスには何があるんですか?
清水:何があるというか、アメリカの中心っていうことと、カリフォルニアのシリコンバレーよりはるかに家賃とか安い。あと法人税も安い。
高平:“ウチの国に来れば優遇するよ!”というのをアメリカは州同士がやっているので、テキサスって今、多国的企業のアメリカのヘッドクォーターはほとんどテキサスにある。
清水:テキサス・インスツルメンツ(半導体を開発・製造する世界的な企業)もそうだし、カリフォルニアのシリコンバレーなんていうのは、もうテックの上のほうの人しかいない。ひとり暮らしの家賃が40万円だからね。年収2000万円でも貧乏人だって。
40年間COTYを選び続けている清水和夫はギョーカイの異端児!?
清水:そういうグローバルの話ってやっぱりちゃんと見ておかないとね。日本カー・オブ・ザ・イヤーもそういう文脈からも見ないと、日本だけで“何がいいですか?”なんて話じゃないと思う。だって今回の10ベストカーって、インドから来ているフロンクス、トライトンもタイ。いろんな国からもう来ちゃっているんだよね。
編集部:清水さんが思う、10ベストカーに入らなくて残念…というノミネート車はありましたか?
清水:MINIカントリーマンだね。ミニクーパーは10ベストカーに入っているけど、オレはクーパーよりもディーゼルもあるSUVのカントリーマンの印象の方が強い。BMWだと迷わずカントリーマン推しなんだけどね。
高平:普通に考えると候補になるBMW5シリーズとかメルセデス・ベンツEクラスとかも、10ベストにはひっかかりもしない。
清水:オレは5シリーズは10ベストカーには入れた。それで何が言いたいかっていうと、メーカーが“これで!”って言ったクルマを10ベストカーに入れちゃうんだよね。10ベストカーくらい自分の意思で入れたいよ。国会の選挙と一緒で、“〇△党はこの議員で”って言われても、“いやいやコッチの人の方がいいでしょ”みたいな。
メーカーの言いなりになっていると、もう10ベストカーがつまらない。イイ子ちゃんぶったクルマばかり出てきて、やんちゃなクルマってメーカーはなかなか推さないじゃない、どうせ獲れないと思っているから。でもコッチは賞を取りやすいかどうかなんか関係なくて、本当に良いと思ったクルマを10ベスト試乗会で乗りたいわけよ。
高平:スズキもスイフトやスペーシアがノミネートされていたけど、推しはフロンクス。
清水:ちなみにオレが選んだ10台は、スズキ・フロンクス、トヨタ・ランクル、ホンダ・フリード、マツダCX-80、メルセデス・ベンツEクラス、BMW5シリーズ、三菱トライトン、BYDシール、ヒョンデ・アイオニック5N、MINIカントリーマン。
高平:流石、これは乗りたいっすよね。
清水:メーカーがこのクルマを推したいっていうのは、それはメーカーの自由だからいいんだけど、要は選ぶのはオレたちだから、オレたちが自分たちの信念に基づいて選ぶっていうのが第一だよね。
オレは40年間選考委員をやってきて思うことは、多様な選考委員が自分の個性で投票し、お互いにリスペクトできる環境を作るのは実行委員会の役目。個々の媒体の人はいい人だけど、なぜか組織になると、上から目線が気になるのよ。最近は特に選考委員と実行委員の間に溝を感じる。実行委員が選考委員を選んだのに「選考委員は忖度するからルールを変えた!」。あっ、やっちゃいましたねという感じ。実行委員と選考委員はメーカー・インポーターも含めて「ワンチームで仲良く」ならないといけないと思う。最近のスズキみたいにね。
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この対談のあとの居酒屋では、清水さんも高平さんも発言が過激で、墓場までもっていくネタも聞いてハラハラした。
ベテラン選考委員の清水和夫氏の投票はすでに済んだが、あとは12月5日の結果発表を待つばかり。
清水さんが選考したクルマとその理由は、このモーターファン.jp【清水×高平クロストーク・COTYがなんだ!】その2.で当日公開する予定。さて、清水親分はどのクルマに何点入れたのか…?…あのクルマたちだった!