菅原義正 83歳、日本最高齢“現役”ラリードライバーは今回もアフリカ・エコレース参戦へ!

今次大会はトヨタ・ハイラックスで参戦。ただし今回は「競争はしない」という。その真意とは…? (画像はイメージ/編集部作成、Photo:TOYOTA/MotorFan)
「ダカールの鉄人」、「日本最高齢現役ラリードライバー」の通り名で知られる日本クロカン界のレジェンド、御年83歳の菅原義正氏が、総行程6000km以上に及ぶ超大型ラリーレイド『アフリカ・エコレース』へ今回も参戦する。今次大会で16回目となる同レースは、2024年12月28日午後7時(現地時間)にモナコで開催されるスタート・セレモニーで開幕、モロッコで2025年の新年を迎えて早々に競技開始となり、1月12日のセネガルはダカールでのゴールまで熱戦を繰り広げる。

前回は菅原氏の念願だった軽のジムニーで参戦。しかし、菅原氏の目論見とは少々違ったことに…。(Photo:Africa Eco Race)

1979年に開始された、フランスのパリをスタートし、アフリカ大陸はセネガルの首都ダカールをゴールとする超大型ラリーレイド大会、『パリ・ダカール・ラリー』。しかし、アフリカ大陸諸国の政情不安やそれに伴う治安の悪化により、2009年からは南米に移転しての開催となった(2020年から中東・サウジアラビアへ移転)。だが、アフリカ大陸と離れがたい想いを抱く参加者と、アフリカ大陸でのレース継続開催を望むアフリカ諸国の声は決して小さいものではなく、その意を汲んで2009年にスタートしたのが、総行程6000km以上におよぶ壮大な『アフリカ・エコレース』だ。

今次大会で16回目を数える(2023年大会は諸事情により中止)アフリカ・エコレースだが、その過酷さは往年のパリ・ダカール・ラリーと同様。故・篠塚建次郎氏など日本からも少なからず参戦者を数えているが、2019年大会までダカール・ラリーに参戦し続け、同ラリーレイドにおけるギネス世界記録(最多連続出場)を持つ日本クロスカントリー界のレジェンド・ドライバー、御年83歳の菅原義正氏もダカール・ラリー引退直後の2020年大会から参戦を続けられている。そしてもちろん、今次、第16回大会へも参戦される。この記事が出るころには、すでに渡航されて車検に備えているはずだ。

菅原氏は弊メディアの前身である月刊自動車誌『モーターファン』でテスター(契約テストドライバー)をつとめられていた事もある。(Photo:MotorFan)

ちなみに菅原氏はかつて弊メディアの祖となる月刊『モーターファン』誌でテスター(記者の代わりにサーキットなどで新車の限界走行など試乗インプレッションを行なう契約テストドライバー。レーシングドライバー出身のライターや編集者、レースに出場する実力を備えた編集者などが増えた現在はほぼ消滅)をつとめられていたこともあり、『モーターファン.jp』とは旧知の間柄、大先輩にあたる。それゆえ私的な壮行会にお招きいただき、急遽、渡航前のお忙しい時期にインタビューのお時間をいただけたという次第。

さて、今年の第15回大会では、それまでのヤマハYXZ 1000R(いわゆる“サイド・バイ・サイド”と呼ばれる2人乗りのROV(Recreational Off-highway Vehicle、2人乗りATV))というレース専用小型バギー車両に代え、660ccの軽自動車であるスズキJB64ジムニーで参戦して注目された菅原氏だが、結果は総合21位 / プロトタイプクラス2位(JRMプロファイルデータの記載より)。軽自動車で完走しただけでも立派な業績に思えるのだが、菅原氏にはいささか悔いも残ったようだ。

「ちょっと計算違いしちゃった感じなんだよね」

インタビューは都内某所の菅原氏の行きつけの居酒屋で。店の外側に貼られたポスター類から、よく関係者と勘違いされるとか。熱心な地元のサポーターだ。(Photo:MotorFan)

菅原氏が「計算違い」と語った原因は、ジムニーの、いや、日本の軽自動車の660ccという排気量にあった。海外で「ジムニー」と言えば、日本で言う1.5Lエンジンの登録車、「ジムニーシエラ」のことを指す。現行モデルで言うJB74だ。軽自動車は日本独自の規格であるため、660ccという排気量のエンジンは世界的には「規格外」とみなされる。

モナコのスタート・セレモニーでの菅原ジムニー。まだキレイだが、日を経るごとに満身創痍の状態に…。(Photo:Africa Eco Race)

菅原氏としては主催者が軽ジムニーのために、「市販車改造部門1.0L未満クラス」あたりを特設するものと考えていたが、実際には軽ジムニーは「規格外のジムニー改造車」とみなされて「プロトタイプクラス」に分類されてしまった。このクラスは3.0Lオーバーのモンスター級の純レーシングバギーが覇を競う頂点の部門。いわばF1レースに1台だけツルシの軽自動車が放り込まれたような状態になってしまったというわけだ。上位車両の自滅リタイアなどによって好成績は得られたものの、菅原氏の本来の目的としてはいささか不本意なものであった。

前回大会ではパリダカ時代から気心の知れた松本尚子氏がナビゲーターをつとめた。今次大会では夫君のミトン氏と共に菅原氏とトリオで参戦。(Photo;エキップ・スガワラ)

もともと菅原氏があえて軽ジムニーで参戦した最大の目的は、「誰もが気軽にラリーレイドに親しめること」を目指していたから。軽の改造車なら参加者の金銭的な負担も軽くなると考えての事だ。その実践として、菅原氏は以前からラリー・モンゴリアに軽ジムニー(JB23)で参戦されている。

以前からラリー・モンゴリアなどにはJB23ジムニーを使用していた。この車両は参戦希望者へのレンタルも行なう。(Photo:エキップ・スガワラ)

プライベーターに戻った現在、菅原氏の最大の参戦意義でありモチベーションは、日本におけるラリーレイドの普及である。だから自分の成績は二の次(そうは言っても負けず嫌いの性分なので常に“優勝”を目指す姿勢なのだが…)で、まずは誰もが手軽に日本から海外のラリーレイドに参戦できる環境を整えたい。ゆえに日本の軽自動車がバリバリ真っ向勝負の「プロトタイプクラス」に分類されてしまうというのは困った事態なのである。それが「ちょっと計算違い」だったというわけだ。

では、菅原氏が今次大会で使用するマシンは何かと言うと、軽のジムニーから一転してトヨタのハイラックスになる。

「今回の参戦はちょっと考え方が違うから競争はしないんですよ」

実は今回は「競争できるけど競争しない」と言う菅原氏。今回は最初から完走のみを目指すレイド・クラスでの参戦なのだと。だから今回の参戦は、あまり大々的に告知しなかったというわけだ。もちろんこれには理由がある。表向き、今回の参戦は前回のナビゲーターをつとめられた松本尚子氏とその夫君のミトン氏への感謝の意を表すための「旅行」だと公言されているが、無論、それだけではない。

渡航前の私的壮行会で今次大会の参戦について語る菅原義正氏。(Photo:MotorFan)

「まず前回は軽のジムニーで参戦してみて、これを競技車両に仕立てるのには色々と面倒な部分や難問があるのがわかったし、車両製作に協力していただいたAPIO(アピオ)(神奈川県綾瀬市にあるジムニーの大ベテラン・ショップ)さんはとても良い仕事をしてくれたのだけれど、完全に納得のできるクルマだったかと言うと正直、難しい。次のクルマはまだ秘密…と言っても、わかる人にはわかっちゃうんだけど(笑)、もう買ってあって、改造に入っている。

今回、ハイラックスで出るのは次の参戦に備えての偵察という意味合いがある。クルマを作るには、まずフルコースを走ってデータをとらないと始まらないから。だから今回は完走が目標のレイド・クラスでの参戦だし、クルマに冷蔵庫も積んで冷たい飲み物も持ってノンビリ行くの(笑) それにハイラックスはパリダカでも実績があるクルマだからね。あらためて色々な部分を勉強し直そうと思ってる」

誤解を恐れずに書けば、菅原氏は決して天才肌でも傑出して速いドライバーでもない。開発能力に秀でているのだ。だからかつての月刊『モーターファン』誌でテスターに抜擢されていたのである。事実、新型車の限界テスト走行中、他のドライバーたちが傍観するなか、一人でクルマの下に潜り込んで作業したり、エンジンの調子を見たりといったオフショット写真が編集部には何枚も残されている。そんな菅原氏が「走れる」、「勝てる」車両開発に本気で取り掛かる第一歩が今回の参戦なのだと言えよう。

菅原氏は4輪レースだけでなく、国内の2輪のオフロードの大会にも積極的に参戦されている。ご自宅のガレージにはこれまで参戦した大会のゼッケンステッカーが所狭しと貼られているが、これでも一部。もちろんバイクの整備は見ての通り自前。(Photo:MotorFan)

さらに今回の参戦は、車両の予備開発だけでなく、参戦システムや人材開発、チーム体制の検討も課題のようだ。

「日野自動車さんと一緒にやっていたパリダカの時とは違って、今は完全にプライベーターだから、どんなチーム体制を作ったら良いのか、人数や規模はどんな形が最適なのかなんていうマネージメントの面も考えなきゃならないのね。たとえば会社(=JRM/日本レーシングマネージメント)の仕事ももう引退しているから、今まで会社の仕事ということで協力してくれていた社員さんに協力してもらったら、今は“お客さん”としてその分の人件費を私が個人で支払わなきゃならない。だからチーム体制もシビア。必要最低限の人数だけ。そういった部分も見極めるつもり。まぁ、本番は2026年以後だよね(笑)」

そうサラリと言うものの、御年83歳。氏が「本番」と仰る、ライバルたちとの本格的な競争を迎えるのは84歳以後の想定だ。いやはや何とも、恐るべきスーパー・シニアである。我々もその挑戦に心より声援を贈りたい。

前回、初参戦初完走を果たした田中愛生氏が今回も参戦。(Photo:Africa Eco Race)

なお、今次大会には、弊メディアの2輪部門である『モーターファンバイクス』で連載を持たれていた田中愛生氏も参戦する。田中氏は前回、「疲労困憊し過ぎて幻聴が聞こえた」というほど苦しんだものの、見事に初参戦初完走。2度目の参戦となる今回も6000km彼方のダカールのゴールを目指す。

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