初代ソアラのドアは先進エレクトロニクス時代への扉でもあった【時代の名車探訪 No.1-2 トヨタソアラ・GZ10/MZ11型・1981年(昭和56)年・内装編その1】

2024年は初代ソアラ時代から見れば立派な未来だ。だが、初代ソアラが描いた未来と現実の2024年は想像と違っているような気がする。
初代ソアラに届けられた未来を2024年のいまのクルマと比べながら見ていく。
TEXT:山口尚志(YAMAGUCHI Hisashi) PHOTO:中野幸次(NAKANO Kouji)/モーターファン・アーカイブ

時代の名車探訪・初代ソアラ編の第2回は、同車の内装を見ていく。
★マーク付きは、当時の資料などでの呼称です。

【運転席まわり】

・計器盤

外形スタイリングもさることながら、初代ソアラ魅力はインテリアにあると思う。
最大のハイライトはインストルメントパネルだ。正面のデジタルメーター、タッチ式の空調コントロール、ドライブコンピューターなど、写真で見たひとは早く実車を見たくなったろうし、販売店(当時の全国のトヨタ店とトヨペット店)の展示車に乗り込んだひとはセールス氏から鍵をかっさらい、店内であるにもかかわらずエンジンをかけ、メーターを見たりタッチ操作をしたくなったに違いない。そして金持ちはその場で注文書にサイン・・・来店客にそうさせたのではないかと思うほどの魅力が初代ソアラにはある。

80年代の幕開けに現れたトヨタの走る技術のショールーム・初代ソアラを再検証【時代の名車探訪 No.1-1 トヨタソアラ・GZ10/MZ11型・1981年(昭和56)年・概要&外観編】1

コネクテッドナビ全盛のいまは前提が崩れているが、ラジオの操作感をより優先して上方に配し、それ以外は成り行き任せにするレイアウトは80年代後半から90年代にかけてのトヨタ車の特徴だった。だが、撮影車はその前の時代の車両なのでさすがにオーディオはシフト前の下部にある。
このへん、ソアラよりもはるか前から徹底していたのがカローラ/スプリンターで、最初のFFのカローラ(1983年)を除き、どの世代のカローラ/スプリンターもラジオは上方にある。

ドアアームレスト先端が計器盤両脇とつながっているのは、ラウンド感を意識してのことだ。

★エレクトロニック・ディスプレイ・メーター(デジタル式メーター)

運転席に乗り込んでまず目につくのはこの「エレクトロニック・ディスプレイ・メーター」に違いない。

正面に速度計、その上にLEDバーグラフの回転計、パネル左に燃料計、右に水温計、下に警告灯類を並べている。いずれもセグメント固定されているのでこれら以外の情報表示はできない。なのに、背面の方眼模様と緑の蛍光管表示のせいで、表示切替も情報種類も自在な、いまの全面液晶表示よりよほど未来的だ。このデジタル表示はソアラの直後に発表されたピアッツァとタッチの差で「日本初」を成し遂げた。

10セグメント表示の燃料計は、残り15L時のボタン操作で拡大表示され、約15~約5Lの間、約1L刻みで減少表示する。1セグメントあたり約1Lだ。この燃料計の拡大表示は、その後のトヨタデジタルメーター車の特徴になった。

エレクトロニック・ディスプレイ・メーター。

なお、後年1985(昭和60)年のマイナーチェンジでは、ただでさえ未来的だったこのエレクトロニック・ディスプレイメーターがさらに未来的になり、「トヨタ・エレクトロ・マルチビジョン」を内包するエレクトロニック・ディスプレイ・メーターがオプションで用意される。これはこれまでの蛍光管表示エリアを右に詰め、空けた左スペースにCRT(Cathode・Ray・Tube)・・・むかしのテレビと同じブラウン管を当て嵌めた。液晶パネル全盛のいまの目で見ると、こんな狭いところによくもまあ奥行きの要るブラウン管を押し込んだもんだと思う。

1985年マイナーチェンジ時にCRTが与えられたエレクトロニック・ディスプレイ・メーター。初期メーターでドラム式だった区間距離系(トリップ計)は蛍光管表示のA、Bツイントリップ計に変わった(積算距離計はドラムのまま)。バーグラフ型のタコメーターはCRTに移設され、初期にはなかったATシフト表示もここに加わった。

★フロントワイパー/ウォッシャースイッチ

最上位OFFから下に向け、INT(間欠作動)、LO(低速作動)、HI(高速作動)の3つ。スイッチには可変抵抗が内蔵され、内側リング(INT TIME)で間欠時間の間隔を2~10秒の間で調整可能だ。

レバー先っちょのボタンを押すとウォッシャー液が噴射されると当時にワイパーも連動。ライト点灯時、ボタンを1秒以内に2度押しするとヘッドランプウォッシャーが作動する。なお、スイッチを操作している間ワイパーが作動するミスト機構はまだない。

フロントワイパー/ウォッシャースイッチ。

・ハンドル

ハンドル。

ハンドルは、タイプとしては2本スポークだが、軽自動車や大衆車の低廉車でよく見る、への字の情けないやつではなく、いわば「A」の字をした2本スポーク型だ。メーターの視認性に配慮してこの形状らしい。いざハンドルを10時10分位置で握ったとき、指の定置場所がほしくなるような気がする。
表面の素材は2800のGT-EXTRAとGT、2000のVRが本革で、他機種はウレタン製だ。

ステアリング機構はラック&ピニオンで、油圧式のエンジン回転数感応型パワーステアリングを持っている。

★チルトステアリング

このノブを上に上げて(何だかストロークが大きすぎるような気がするが)ロックを解除すると、ニュートラル位置から上に3段階計11°、下に2段階計7°20′の範囲の全6段階から高さ調整ができる。

チルトレバー。

★ライト・スイッチ

レバー上下で左右ターンシグナル、前押しでハイ/ロー切り替え、手前引きでパッシング。先端のスイッチまわしで車幅灯、ライト点灯と続く。「AUTO」起点の強制点灯(夜間)、手前まわしでスモール落ち、1秒以上保持でやっと消灯などという、いまの複雑難解な義務化版オートライトを見ると単純明快なのがいい。別にソアラがえらかったのではなく、元来ライトスイッチなんてちょっと前までこんなもんだったのだよ。

ライト・スイッチ。

★エンジン・スイッチ

キー挿し式スイッチは、いまの乗用車でも低廉機種には残っている。

各ポジションは、唯一のキー抜き差しポジションにしてハンドルがロックされ、すべての電気系統が断たれる「LOCK」を起点に、エンジンOFFのままラジオ、ライターなどが使える「ACC(アクセサリー)」、車両全体に電気が行き渡る「ON」、スタートモーターを起動させる「START」の4つ。

スイッチ周囲には夜間まごつかないよう照明があるが、暗がりで本当に知りたいのはキーの入る先なのだから、孔の内部に光源を入れてくれるのがありがたい。
いま現在、同じことを思うのは、ETCユニットにカードを入れるときだ。ETC機器メーカーよ、カードを入れるスリットの中から光を出すようにしてくれ!

エンジン・スイッチ。

★計器照度調整ツマミ/駐車灯スイッチ

左のノブはメーターやインパネ各部照明の照度調整用。左にまわすほど明るくなる(逆じゃないよ! 目盛りをよく見て!)。

右は夜間駐車時に使うパーキング・スイッチだ。1985年頃だったかな、規制緩和で省いてもいいことになった。バッテリー上がりが心配になるもの、使うやつはいないわな。

計器照度調整ツマミ/駐車灯スイッチ。

★オート・ドライブ(自動定速走行装置)

「運転支援デバイス」全盛のいま、オートドライブ・・・というよりもアダプティブクルーズコントロールのスイッチはどのクルマももれなくハンドル右スポークについているが、むかしはまだまだオートドライブはまだメジャーではなかったため、メーカーやクルマによってそのスイッチ場所はばらつきがあった。
というわけで、初代ソアラの場合は、オートドライブスイッチはメーター右下に。

オート・ドライブ(自動定速走行装置)のスイッチ。

いちばん右がシステムのメーンスイッチで押してON(ランプ点灯)。
左が横スライドのコントロールスイッチで、左に向けて「SET」するとそのときの車速で定速走行に入る。
その状態で右寄せの「RESUME」保持で増速、手を放すとそのときの速度に再セットされるほか、アクセルペダルでの加速後に右チョンしても再セットされる。
逆に定速走行時の「SET」保持で減速し、放すとそのときの車速で定速走行に。

キャンセルは「1.ブレーキペダル踏み」「2.クラッチペダル踏み(AT車はNレンジ入れ)」「3.パーキングブレーキ操作」「4.メーンスイッチOFF」で行う。

操作が1~3の場合に限り、キャンセル後でも車速が40km/h以上であればRESUME操作でキャンセル前の設定速度に復帰する。40km/h未満に落ちてしまうと設定車速をクルマが忘れるため、最初から操作しなおさなければならない。専用の「CANCEL」スイッチがなく、キャンセル操作が何となく騙し騙しなのが不便そうだ。4の「メーンスイッチOFF」なんてキャンセルじゃなくて「ただのOFFそのものだろ」と思う。

★デジタル式任意速度警報装置(スピード・アラーム)

「デジタル式」という割に操作がダイヤルツマミで「アナログ的」なのがおもしろい。

ドライバーが任意で設定した車速を超えるとアラーム音が鳴る仕掛けだ。写真のアングルでは一部目盛りがつまみの向こう側に隠れているが、30~65km/hまで5km/h刻みで設定され、OFFは30km/hの前と65km/hの後、つまり両端にある。

デジタル式任意速度警報装置(スピード・アラーム)のセットつまみ。

設定車速はさきの「エレクトロニック・ディスプレイ・メーター」右下に表示される。上のメーター写真を見てくれ・・・といってスクロールさせるのも悪いので、同じ写真をここでもういちど載せてやる(大橋巨泉並みにえらそう)。

ここね。

誰が使ったのかと思うのだが、この頃のトヨタ車の一部に存在していた、100km/hちょい超えで鳴る義務化版速度警報装置とは別の速度警報装置だ。

・エンジンフード/フューエルリッドオープナー

速度警報装置スイッチの下にはフードと燃料給油口リッドのオープナーノブがある。通常なら運転席シート右に配される給油口オープナーノブも含め、インパネアンダーパネルにきちんとデザインされて置いたのがえらい。この時代にしていまのクルマとおんなじじゃないの!
そしてこのノブの下には・・・

エンジンフード/フューエルリッドオープナー。

★イルミネーテッド・エントリーシステム

・・・がある。といっても別にこのランプだけがイルミネーテッドエントリーなのではなく、ドアキー孔、イグニッションキー照明、そして写真の足元照明ランプを、タイマーによって点消灯させるシステムを指す。

イルミネーテッド・エントリーシステム・・・のうちのひとつ、足元照明。

働きは次のとおりだ。

<ロック解除時>

1.当時のことなのでロック解除はリモコンでなくキー操作。

  まず運転席ドアのドアハンドル引き上げると、まずドアキー孔照明のスイッチが入る。

2.このときルームランプコントロールリレーのトランジスターがONになり、ドアキー孔、イグニッションキー孔、足元ランプの各照明が灯る。

3.ドアハンドルを戻すとドアキー孔照明のスイッチはOFFになるが、トランジスターの働きで約5秒間は各ランプが照明を続け、その後減光して消灯する。トランジスターとは電気を溜め込む電子パーツ。ドアキー孔スイッチOFF後、ONのときに蓄えておいた各ランプ5秒間点灯分の電気を放出し、蓄えがなくなるまで各ランプを灯す。これを「タイマー」としているわけだ。

<乗車時>

1.ドア開でカーテシスイッチがONになり、ルームランプ点灯。同時にふたたびトランジスタがONになり、再度ドアキー孔、イグニッションキー孔、足元照明が点灯する。

2.ドアを閉じるとカーテシースイッチがOFFになることでルームランプ消灯。ロック解除時と同じく、さきの3つの照明が5秒間点灯し、乗車後のキー操作を助ける。

・ペダル

さすがにこの部分はいまのクルマと大差ない。撮影車は4AT車なので、右にアクセルペダル、左にブレーキペダルが並ぶ。

いまのクルマに対してひとつもの申したいのはフットレスト。この時代のクルマを見なさい。ちゃんとひとつの部品として造り上げたものになっているでしょ? いまはフロアをフットレスト型に盛り上げた上にカーペットをかぶせただけで「フットレスト」などとのたまっているクルマが多い。まがいもんじゃなく、ちゃんとしたものをつけなさい。

左からフットレスト、ブレーキペダル、アクセルペダル。

・オーバードライブ付4速オートマチックトランスミッション。

2000、2800とも5速マニュアルトランスミッションと4速オートマチックトランスミッションが用意される。

ATだけ解説すると、初期ソアラは、2000の1G-EU車にはロックアップがつくばかりで2800・5M-GEU車にはなし・・・発表までに間に合わなかったのだろう。同じ5M型でもDOHCの5M-GEUとセットされる4ATにロックアップがつくのはソアラから半年後の1981年8月のマイナーチェンジ版6代目クラウンに追加されたDOHCの2800ロイヤルサルーンが先。それも電子制御化したECTだ。
このクラウンから7カ月後、すなわちソアラ発表から13カ月後の1982(昭和57)年3月の改良時、このとき追加されたGT-LIMITEDと併せ、従来からのGT、GT-EXTRAもECTになった・・・「ちっ!」「う~・・・ギリ、ギリギリ・・・」という、初期2800を買ったオーナーの舌打ちと歯ぎしりが聞こえてきそうだ。


オーバードライブ付4速オートマチックトランスミッションのレバー。

・パーキングブレーキレバー

特に凝った形はしていない。全体を樹脂部材で包み、根元から先端まで千歳あめみたいに同じ太さの棒が伸びているだけだ。
制動はそのまま引き上げ、解除はやや上に引いた状態で先のボタンを押して下げる。足踏み式や電動スイッチ化でこのタイプもめっきり少なくなったので、あらためて解説したしだい。

パーキングブレーキレバー。

★オーバードライブ スイッチ&リヤ デフォツガ スイツチ、リヤワイパースイツチ

書き間違いに見えるが、資料には「スイッチ」「デフォッガ」でなく、本当に「スイツチ」「デフォツガ」とあるのだから仕方ない。

センターコンソール上にはスイッチがふたつ。

ひとつは「O/D」と記されたオーバードライブスイッチだ。
「オーバードライブ」とはギヤ比が1.000未満のものをいい、1未満にすることでエンジン回転数よりもタイヤの回転数を増やし、高速走行時のエンジン回転をより下げて低燃費と静粛性を図るものだ。

いまのAT(といっても段付きATは少なくなったのだが)は、通常のDは1~4速の自動変速で、DのときにO/DをOFFにすることで「O/D OFF」のランプが点き、4速へのシフトアップを禁止して1~3速を行き来させる。つまり4–1=3という考え方だ。
対してこの時代の4ATは、普段はDに入れて1~3速のATとして使い、必要に応じてO/DスイッチONでランプを点灯させ、4速目「も」使いなさい・・・3+1=4という考え方だ。
結果はいまも昔も同じなのだが、操作上ではDの捉え方が逆になっている。

もうひとつ、後ろにあるのがリヤデフォッガ=くもり取りのスイッチが、さらに後ろの斜面にはリヤワイパーのスイッチがある。
マーク側を押すと作動し、押し続けるとウォッシャー液が噴出される。スイッチをフロントワイパー用のレバーに一体化する考えはまだない。

オーバードライブ スイッチ&リヤ デフォツガ スイツチ、リヤワイパースイツチ

・ルームミラー

天井に目を向けて、中央にはルームミラー。

下のレバーの押し引きで昼間と夜間を使い分ける防眩機能付き。
昼間はミラー面=銀メッキ部分で後ろを確認。夜は表面のガラスに与えたテーパーと同じ角度だけ、下のレバー引きで本体を上向きにし、真後ろの景色と正対するようになったガラスに後続車の幻惑光を防ぐ。幻惑光を反射率の低いガラスに映すことを防眩機能として使い、これを「プリズム式」という。上向きにしたということは、ミラー面には天井が映るわけだが、後ろのライト光が眩しいのは夜間なので、暗い天井が映っても問題はない。というよりも、暗い天井が映るから好都合なのだ・・・最初に思いついたひと、あったまいい~!

このソアラでさすがなのは、本体が内装色と同じにしてあることだ。複数の内装色を持つ場合でも、ルームミラーやピラートリム、天井内張りはどの内装色にも合う無難なグレーあたりにする場合が多いのだが、コストがかけられたのだろう。

ルームミラー。

★パーソナルランプ

いわば、夜に地図を見るのに都合がいいマップランプだが、ソアラでは左右個別についているため、パーソナルランプと呼んでいる。

パーソナルランプ。

・サンバイザー

下げたときの面には蓋つきの化粧鏡がついている。

この時代にはまだ少なかったのだが、バイザーはルームランプ上まで遮光する形になっているし、支点で片持ちするだけではなく、ぐらつきがないよう、ルームミラー側にもきちんとクリップが設けられているほか、格納時の見映えを考慮して天井内張りのこの部分はバイザー型に成形されている。これほどの値段にしてこれほど考えられているのに、おもて面にもうら面にも駐車券などをはさむバンドがないのは困ったさん。

サンバイザー。
バニティミラー使用時。

・・・・・・・・・。

お見せする部位はまだまだあるのに、ここで誌面が尽きてしまった(液晶なのに)。

というわけで、この続きはまた次回、「内装編その2」で。

【撮影車スペック】

トヨタソアラ 2800 GT-EXTRA(MZ11型・1981(昭和56)年型・OD付4段フルオートマチック)

●全長×全幅×全高:4655×1695×1360mm ●ホイールベース:2660mm ●トレッド前/後:1440/1450mm ●最低地上高:165mm ●車両重量:1305kg ●乗車定員:5名 ●最小回転半径:5.5m ●燃費:8.1km/L(10モード燃費)、15.5km/L(60km/h定地走行燃費) ●タイヤサイズ:195/70HR14ミシュラン ●エンジン:5M-GEU型・水冷直列6気筒DOHC ●総排気量:2759cc ●圧縮比:8.8 ●最高出力:170ps/5600rpm ●最大トルク:24.0kgm/4400rpm ●燃料供給装置:EFI(電子制御燃料噴射) ●燃料タンク容量:61L(無鉛レギュラー) ●サスペンション 前/後:ストラット式コイルスプリング/セミトレーリングアーム式コイルスプリング ●ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスク ●車両本体価格:293万8000円(当時・東京価格)

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