2025年の最適解! アウトランダーPHEVに公道試乗でビンビンに感じる”三菱”らしさ

試乗したのは最上級グレード「P Executive」の5人乗り仕様。ボディカラーはムーンストーングレーメタリックとブラックマイカの2トーン
三菱自動車のフラッグシップであり、日本を代表するプラグインハイブリッド車「アウトランダーPHEV」が2025年モデルにおいて大幅なアップデートを実施した。2.4Lエンジンに前後同じ定格出力の駆動モーターを組み合わせるといったパワートレインに変化はないように見えるが、駆動用バッテリーの電力量を20.0kWhから22.7kWhへと10%以上も増やし、EV走行距離を伸ばすなどプラグインハイブリッドシステムは刷新された。欧州市場も見据えたシャシーセッティングとなったのもトピックスのひとつ。初公道試乗となった新生アウトランダーPHEVはどんな進化を感じさせてくれるのだろうか。

PHOTO&REPORT:山本晋也(YAMAMOTO Shinya)

バッテリーをセルから一新、歴代最高の電動性能を実現

バッテリーだけで100km以上走行できるようになっただけでなく、システム最高出力も約20%アップしている(写真提供:三菱自動車工業)

三菱自動車のアウトランダーといえば、元祖プラグインハイブリッド車といえる存在。三菱ではプラグインハイブリッド車に「PHEV」と名付けているが、なにしろアウトランダーが初めて「PHEV」バッジを付けたのは2012年12月のこと。現行のアウトランダーPHEVは2代目で、その誕生は2021年12月となっている。

そんなアウトランダーPHEVが、フルモデルチェンジから3年を経過したタイミングでのマイナーチェンジを実施した。

3年目のマイナーチェンジといえば、内外装をリフレッシュすることで商品性を向上させる…といった内容を想像しがちだが、今回の進化ポイントはプラグイン車の命ともいえる駆動バッテリーの一新にある。

バッテリー総電力量を20.0kWhから22.7kWhへ増やしただけでなく、バッテリーセル自体もラミネートタイプから角型タイプへ変更され、バッテリーの温度管理方法も冷却プレートから伝熱シートへと進化した。

内部抵抗は約3割減、冷却性能は約5割アップとなり、システム出力が約20%アップしたのと同時に、急速充電時間も短縮されている。プラグインハイブリッド車で気になるEV航続距離についても、102~106kmと歴代アウトランダーPHEVの最長距離を実現している。

日常的にはゼロエミッションのBEVと(電気自動車)して活用でき、長距離ドライブのときにはガソリンを給油するだけでどこまでも走っていけるハイブリッドカー(HEV)的に運用できるというプラグインハイブリッドの二面性をより強化したのが、今回のマイナーチェンジにおける最大のニュースだ。

すきのないスタイリングへリファインされた

バンパーのスキッドプレートやテールランプなどに洗練が感じられる。

内外装の変更については、従来のイメージを踏襲。一見すると、ほとんど変わっていないように思えるレベルだが、フロントグリルや前後のバンパースキッドプレートをはじめ、ウインカーやバックランプのLED化などでアップデートしている。

バッテリーを大きくしたことによる重量増や、ヨーロッパへの本格展開を考慮して、足回りも見直されている。うねりのある路面での追従性と乗り心地をバランスさせるのが狙いで、三菱のコアテクノロジーでもある四輪制御技術「S-AWC」もリセッティングされているという。

こうしたマイナーチェンジ全般のコンセプトは「感性的質感の向上」となっている。別の表現をすれば、三菱のフラッグシップモデルとしての上級さを実感できるデザインや装備へアップデートされたといえる。

高速域での機能性を考慮してフロントフードのオープニングラインが変更されている。

本能的に「良いモノ」感を表現したインテリア

インパネ加飾の色味や風合いは圧倒的に上級感を増した。センターのナビディスプレイも12.3インチへ大型化されている。

デザイン面における上質さ、という狙いを肌で感じるのがインテリアだ。

マイナーチェンジ前は、明るめのタン系オレンジといった色味だったインパネ加飾は、大人びた落ち着きのあるカラーや深みを感じる手触りのブラウンの変更されている(最上級グレード)。

運転席や助手席については、シートヒーターは当然のこと、熱こもりを解消するシートベンチレーション機能を標準設定(上級グレード)。アルミペダルや室内ランプのLED化など、CセグメントSUVに期待する機能はもれなく備わっているといった具合に洗練されている。

標準装備されるスマホ連携ナビの画面サイズは従来の9インチから12.3インチへと大型化、フレームレスのデジタルルームミラーはエントリーグレード以外に標準設定されているのも、電動車両らしいところだ。

「LCA」ではBEVやHEVよりもPHEVが優れているという

エンジンや駆動モーターの基本は変わっていないが、静粛性の向上などがアップデートされている。

かように、アウトランダーPHEVを大幅アップデートさせてきたロジックはどういったものだろうか。

そのひとつに「国内においてLCAでみたときにPHEVはもっともCO2排出量が少ない」という環境性能に対する素性の良さがあるという。

ご存知のように、LCA(ライフサイクルアセスメント)とは製造・運用・廃棄までの製品寿命全般におけるCO2排出量を試算する考え方である。大筋としてはBEVはバッテリー製造時のCO2排出量が多いが、運用中のCO2排出量は少ない(発電の種類にもよるが)傾向にある。一方、HEVやICE(エンジン車)は製造時のCO2排出量は少なめなものの、化石燃料を消費するため運用中のCO2排出量は多くなりがちだ。

三菱がアウトランダーPHEVのLCAを試算する前提条件は、同等性能のCセグメントSUVという。つまりBEVであればバッテリー搭載量が80kWh程度、HEVやICEでも2.5Lクラスを想定しているといえる。その条件において、国内の発電ミックスを考慮すると、PHEVはトータルでのCO2排出量が少ないパワートレインになるという。

また、災害時やレジャーシーンにおいてPHEVは移動する発電機としての機能に優れているのも特徴。このあたりも、国内で評価されるポイントで、そうしたニーズもアウトランダーPHEVをアップデートさせる原動力になっているといえそうだ。

安心してください、ランエボの血統は残ってますよ!

直進時にも「いつでも曲がれるぞ」というクルマからの意思を感じる走り味だ(写真提供:三菱自動車工業)

前置きが長くなってしまったが、いよいよ公道試乗の印象をお伝えしよう。

あらためてアウトランダーPHEVの走りにおける進化ポイントは、バッテリーを大きくしたことでのEV航続距離伸長と、トータルでの出力アップだ。そうしたパフォーマンスアップと、ヨーロッパでの展開を視野にサスペンションや車両運動頭語制御システム「S-AWC」を安定方向に進化させている。そのために、専用タイヤを開発したというほど力を入れたマイナーチェンジとなっている。

アルミホイールの意匠も変更された。試乗車はブリヂストン「ALENZA」(専用設計タイヤ)を履く。

前述したようにインテリアのカラーマテリアルの変更により、コックピットの雰囲気も落ち着きを増していることが実感できる。おのずとオトナの走り味を想像してしまうが、そこは三菱のフラッグシップであり、ランエボの血統を受け継ぐ「S-AWC」の最新版を採用しているだけあって、スポーティなテイストがなくなってしまったわけではない。

自動車専用道路をまっすぐに走っているときでも、ステアリングのわずかな操作に対して、2tを超える重量級ボディが機敏に反応する。オトナな走りを表現しながら、”電子制御で曲がりまくる三菱車”というイメージが色濃く残っている。

電動CセグメントSUVとして見ると、もう少し落ち着いた味付けにしたほうが適切かもしれないが、三菱のフラッグシップであれば、曲がりたがるテイストはブランドに期待するファンにとっては評価ポイントとなるだろう。

ヤマハとコラボレーションした専用オーディオは秀逸

専用オーディオとして「Premium」と「Ultimate」の2タイプを設定。上級仕様の後者にはサブウーファーも備わる。

ところで、アウトランダーPHEVのマイナーチェンジにおいて見逃せないトピックスのひとつが、ヤマハと専用オーディオを共同開発したことだ。「ダイナミックサウンド・ヤマハ」と名付けられた専用オーディオは、8スピーカーの「Premium」と12スピーカーの「Ultimate」という2種類のプレミアムオーディオシステムだ。

前者はエントリーグレードから標準装備され、後者の「Ultimate」は最上級グレードに標準装備、上級グレードにオプション設定されている。試乗車は最上級グレード「P Executive」だったので、Dynamic Sound YAMAHA Ultimateが備わっていたが、そのサウンドパフォーマンスは期待以上。

ドアパネルに補強を入れ、制振材を追加するなどスピーカーの性能を引き出すべく基本の部分から対処しているのはもちろん、走行時に発生するノイズの周波数に合わせて適切にボリュームを自動制御してくれる機能などもあり、少々荒れた道を走っていてもオーディオに対するネガは感じない。

また、今回の試乗時にはPremiumとUltimateを聞き比べする機会もあった。一般的なカーオーディオに対しての話をするならば、アウトランダーPHEVの専用オーディオはPremiumでも十分に高性能であり、再生されている音の面積は圧倒的に広くなっているように感じる。それが、Ultimateになると音の広がりだけでなく、奥行も深く感じる音作りとなっている。

吹奏楽の定番「宝島」を再生したとき、Premiumのほうでも楽器の位置関係がはっきりわかるほどだった、Ultimateになるとサックスのソロパートで演奏者が一歩前に出てきたように感じるほどだったといえば、伝わるだろうか。

メーカー希望小売価格はエントリーグレードで526万3500円、最上級グレードでは668万5800円となる。いくら最大55万円の補助金が期待できるとはいっても、おいそれと購入できる価格帯ではないが、プラグインハイブリッドというパワートレインの環境性能と、ヤマハと共同開発した専用オーディオの価値を考えれば、十分にリーズナブルといえる。そこに三菱伝統の四輪制御技術が備わっているのだから、トータルでのコスパとしては、かなり優秀な一台といえそうだ。

5人乗り仕様は、一段とラゲッジが広く感じる。

三菱アウトランダーPHEV主要スペック

OUTLANDER PHEV P Executive(5人乗り)
全長×全幅×全高:4720mm×1860mm×1750mm
ホイールベース:2705mm
車両重量:2140kg
エンジン種類:直列4気筒DOHC MIVEC
総排気量:2359cc
最高出力:98kW
最大トルク:195Nm
フロントモーター定格出力:40kW
フロントモーター最高出力:85kW
フロントモーター最大トルク:255Nm
リヤモーター定格出力:40kW
リヤモーター最高出力:100kW
リヤモーター最大トルク:195Nm
駆動方式:4WD
WLTCモードハイブリッド燃費:17.2km/L
EV走行換算距離:102km
燃料タンク容量:53L
使用燃料:レギュラーガソリン
駆動用バッテリー:リチウムイオン電池
駆動用バッテリー総電力量:22.7kWh
駆動用バッテリー総電圧:355V
最小回転半径:5.5m
タイヤサイズ:255/45R20 101W
乗車定員:5名
メーカー希望小売価格:659万4500円

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著者プロフィール

山本 晋也 近影

山本 晋也

1969年生まれ。編集者を経て、過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰することをモットーに自動車コ…