シビックタイプRをも超えうる逸材に進化!フォルクスワーゲン ゴルフR【Volkswagen Golf R試乗記】

フォルクスワーゲンのレーシングテクノロジーを注ぎ込んだハイエンドモデル、「R」シリーズ。その真打ちといえる「ゴルフR/ゴルフR ヴァリアント」が、遂に日本上陸を果たした。待ちに待ったモデルだけに、結論から先に述べてしまおう。その出来映えは、歴代最高といえるクオリティだ。
REPORT:山田弘樹 PHOTO:中野幸次

「Rパフォーマンストルクベクタリング」を搭載

ゴルフシリーズの頂点に位置するのがゴルフR。2リッターターボエンジンに4WDシャシーを組み合わせる。ハッチバックと写真のヴァリアントの2タイプをラインナップ。

Rシリーズの成り立ちを簡潔に表せば、それは最も高出力なエンジンを搭載したフォルクスワーゲン車だ。そしてこのパワーを受け止めるシャシーには、同社が磨き上げてきた4WDテクノロジー「4MOTION」を組み合わせるのがセオリーとなっている。

ご存じの通りゴルフには「GTI」という不動の四番バッターがいるわけだが、「ゴルフR」はその、さらに上を行く存在である。

ゴルフR ヴァリアントの3サイズは、4650mm×1790mm×1465mm。

搭載されるエンジンは、2リッターの排気量から320PS/5350-6500rpmの最高出力と、420Nm/2100-5350rpmの最大トルクを発揮する直列4気筒ターボ「EA888 evo4」。

これはゴルフGTIにも搭載される直列4気筒(245PS/370Nm)のハイチューン版で、先代モデルに対しては10PS/20Nmの出力アップとなった。組み合わされるトランスミッションは7速DCTのみだ。

ゴルフGTIと同じ2.0Lターボながら、GTIの245PS/370Nmから大幅にパフォーマンスを上げた320PS/420Nmというハイチューン版。

シャシー側のハイライトは、リアアクスルに「Rパフォーマンストルクベクタリング」が搭載されたことだろう。そもそも4MOTIONは前後のトルクを100:0から0:100まで可変させていたが、新型ゴルフRではさらにここから電子制御式多板クラッチを用いて、後輪左右の駆動トルクをコントロール。カーブでは外輪に高い駆動力を与えることで、より高い旋回性能が得られるようになった。状況によってはより多く後輪にトルクを与え、オーバーステアを引き出すことが可能になったという。

ゴルフRの標準装着タイヤは225/40R18サイズ。DCCパッケージを選ぶと写真の235/35R19にアップグレードされる。タイヤ銘柄はブリヂストンのPOTENZA S005。

まず最初にステアリングを握ったのは、5ドアハッチより50mm長いホイルベースを持ち、車重が60kg重たいヴァリアント。そしてこのボディとパワートレインの組み合わせが、素晴らしい動的質感を備えていた。

まず感激したのは、普通に走らせたときの、しっとりどっしりとした乗り味だ。ゴルフRにはGTIと同じくDCC(アダプティブシャシーコントロール)が搭載されており、そのダンピングは「コンフォート」「スポーツ」「レース」「カスタム」の4種類から選択可能。

存在感あるクロームデュアルツインエグゾーストパイプが“R”の証だ。

試乗車はオプションの19インチタイヤを装着していたこともあり、走り出しは一番ソフトな「コンフォート」モードを選択した。

その際サスペンションは、バネ下の大径タイヤを巧みに裁いて心地を出していた。しかし驚いたことに「スポーツ」モードでダンピングを固めた方が、その乗り味が重厚になった。

そこにはロングホイルベースがもたらすピッチングの少なさが、まず効果を発揮してた。加えて4WD化に伴うリアアクスル周りの剛性向上が、その高い減衰力を受け止めきっていたのだ。

そんなヴァリアントをワインディングで走らせると、思わず笑みがこぼれてしまうほどの楽しさだった。そして楽しいだけでなく、ひとつひとつの操作や動きが上質だった。

後輪駆動車のような感覚で旋回に入る

10インチタッチスクリーンの純正インフォテイメイントシステム“Discover Pro”を採用。ステアリング左側には、レースモードを瞬時に呼び出せる「Rボタン」を装備。

18インチにサイズアップされたブレーキローターはややXDS(内輪ブレーキによる電子制御式ディファレンシャルロック)に耐フェード性を高められる一面もあるが、コントロール性が非常に良い。

そしてフロント荷重を高めてからハンドルを切り込んで行くと、タイヤが路面を捉えるグリップ感が、最初から最後まで途切れずハンドルから伝わってくる。

このときの車両姿勢は絶妙な前下がり具合で、リアサスを適度に伸び上がらせながら、実に心地良くターンインする。

そしてターンミドルでは、まるで後輪駆動車のような感覚で旋回に入る。そうこれこそが、「Rパフォーマンストルクベクタリング」を中心とした電子制御デバイスの効果だ。

大型10.25インチTFT液晶ディスプレイの「デジタルコクピットプロ」を搭載。R専用グラフィックを採用する。

カーブではリア外輪により多くのトルクが配分され、車体が軽やかに回り込んで行く。このとき同時にフロント内輪には、前述したXDSのブレーキ制御が働く。

しかし協調制御レベルは極めて高いのだろう、旋回フィールには人工的な味付けや、違和感が感じられない。

そして出口に向かってアクセルを踏み込んで行くと、310PSのターボパワーを着実にトラクションへと変換しながら、美しくコーナーを立ち上がってくれる。

エンジンサウンドは時代の要求もあって控えめだが、7速DSGのレスポンスは依然として鋭く、時折アクセル操作で漏れ聞こえる控えめなバブリングサウンドが気分を盛り上げる。

スティックタイプの7速DSGトランスミッションを中心に、コンソールの操作系はシンプルなレイアウト。

このトルクベクタリングシステムは同じグループであるアウディ RS3にも採用されているが、そのサイボーグ的な挙動と比較して、ゴルフR ヴァリアントの制御は極めて大人っぽい。RS3がときにはドリフトさえも許容するほどの勢いでトラクションを掛けて行くのに対し、ゴルフR ヴァリアントはグリップの中で駆動力を巧みに配分し、ボディ上屋の動きを利用しながら、泳ぐように曲がって行く。

もはやゴルフR ヴァリアントは、ハイパワーエンジンを積んだ単なる快足エステートではない。ガソリン時代の最後にきて、そのハンドリングはスポーツカーの域に達した。

駆動剛性の高さがもたらす塊感はハッチバックが一枚上手

フロント同様、ブルー×グレー基調のグラフィック。シビックタイプRは4人乗りだが、こちらは5名乗車が可能。
「R」の刺繍が施されたR専用ファブリック&マイクロフリースシート。

かたや5ドアのゴルフRは、その中間という印象だった。ショートホイルベースがもたらす身のこなしは、高められたサスペンション剛性も手伝って動きが機敏。ヴァリアントがその姿勢変化を楽しみながら“曲げて行く”運転だとしたら、ゴルフRはコーナーに飛び込んで行く弾丸という感じ。ボディおよび駆動剛性の高さがもたらす塊感は、ヴァリアントボディより一枚上手。ターボエンジンのパワーを楽しむという意味でも、軽量な5ドアボディを選ぶのはありだろう。

そしてドラビングプレジャーで語ればこの新型ゴルフRとヴァリアントRは、駆動方式の違いはひとまず置いて、あのシビックタイプRをも超えうる逸材に進化したと筆者は思う。

とくにヴァリアントは、走りだけでなく実用的で広大なラゲッジルームを持つのも魅力だ。平常時で611L、後席を倒すと1642Lまで広がる。

恐らくクローズドコースで走らせたときの純粋な速さは、タイヤのグリップ力なども含めたトータルパフォーマンスでシビック タイプRには及ばないだろう。しかし日常領域において、“すごさ”ではなく“楽しさ”を味わえるのは、乗り心地も含めゴルフR/ヴァリアントだ。

こうしたフォルクスワーゲンの大人の魅力、徹しすぎないサジ加減の素晴らしさに、心底脱帽した。フォルクスワーゲンのモータースポーツ撤退と共にVolkswagen R Gmbhは解散してしまったが、WRCラリー4連覇を成し遂げたそのスピリッツは、ゴルフRとゴルフRヴァリアントの中にしっかり刻み込まれているのだ。

フォルクスワーゲン Golf R Variant


全長×全幅×全高 4650mm×1790mm×1465mm
ホイールベース 2670mm
最小回転半径 5.1m
車両重量 1600kg
駆動方式 四輪駆動
サスペンション F:マクファーソンストラット R:4リンク
タイヤ 前後:225/40R18(235/35R19 ※DCCパッケージ装着車) 

エンジン 直列4気筒DOHCインタークーラー付ターボ
総排気量 1984cc
最高出力 235kW(320ps)/5350-6500rpm
最大トルク 420Nm(42.8kgm)/2100-5350rpm
トランスミッション 7速DSG

燃費消費率(WLTC) 12.2km/l

価格 6,525,000円

キーワードで検索する

著者プロフィール

山田弘樹 近影

山田弘樹

自動車雑誌の編集部員を経てフリーランスに。編集部在籍時代に「VW GTi CUP」でレースを経験し、その後は…