ホンダZR-Vの雪上ドライブでリアルタイムAWDの実力を再確認「やっぱりAWDだな」

ホンダZR-V e:HEV Z AWD 車両価格:411万9500円
ホンダの最新SUV、ZR-Vを雪上で試す機会を得た。折しも「10年に1度クラスの大寒波」が到来した時期。山形県蔵王も一面の銀世界だった。こうなったら、やはりAWD。ホンダ自慢の「リアルタイムAWD」の実力をチェックした。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)PHOTO:Motor-Fan/Honda

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ホンダZR-Vで雪上を走った。山形駅を出発し、約26km先、標高1100mの蔵王ライザワールドが乗り換えポイントだ。駅を出てしばらく、国道13号沿いは除雪が行き届いており路面はウエット(雪は降っている)。だが、蔵王川沿いの県道12号に入ると圧雪路に変わる。最後の約6kmは一面の銀世界かつ急勾配、加えて曲率の小さなカーブが続く。

山形駅で乗り込んだのはZR-V e:HEV ZのAWDだ。e:HEVはホンダ独自のハイブリッドシステムで、フロントに2.0L直列4気筒自然吸気エンジンを横置きに搭載。これに発電用と走行用のふたつのモーターを組み合わせている。エンジンは主に発電に徹し、可能な限りモーターで走行。エンジンの効率が高い領域のみエンジンを駆動系に直結して走る。

リアルタイムAWDと呼ぶホンダの四輪駆動システムは、フロントの駆動系から動力を分岐させ、プロペラシャフトでリヤに伝える仕組み。リヤデフの手前に多板クラッチを備えたユニットが搭載されており、各種センサーから取得した情報をもとに走行状況を判断し、多板クラッチの押し付け力を調節して前後輪の駆動力をきめ細かく制御する。

ZR-VのAWDに対してホンダは、「リヤトルク限界線の向上を図ったうえで前後駆動力配分を見直し、4輪のタイヤ利用率を最適化。前後輪の駆動力配分を緻密かつ素早く制御することで、コーナリングや坂道での限界性能を高め、ゆとりあるドライブを実現」と説明している。旋回加速時にリヤへの配分を大きくしたのが特徴だ。

コーナーでもオン・ザ・レール感覚で舵を切っただけ鼻先が入っていくのはAWDならでは。

のんきな筆者はリアルタイムAWDの真の実力に思い至ることなく、「意外といけるね」くらいの感覚で、タイトかつ急勾配の雪道を駆け上がっていた。曲がれるとイメージしたのに曲がりきれずに外に膨らんでしまうとか、コーナー立ち上がりでアクセルペダルを踏み込んだものの、タイヤがスリップして制御が介入するといったことはなく、ZR-V e:HEV AWDはイメージしたとおりに減速してコーナーに進入し、狙いどおりに向きを変え、イメージどおりの加速感で立ち上がっていく。

もちろん、「雪道だから慎重に」という意識は働くが、過度に神経を尖らせる必要はなく、気持ち的にはドライ路面を走っているときと同じ。そのせいか、ストレスはまったく感じない。それどころか、運転が楽しい。ブレーキの踏み込みに対して狙いどおりに減速するし、ステアリングの切り込みに対してイメージどおりに向きを変えるし、むずがることも、グズつくこともなく、アクセルペダルを踏み込んだらイメージどおりに加速してくれるからだ。後輪で路面を掻いてくれる感覚がシートを通じて尻に伝わってくるのもいい。

スタッフの皆さんのおかげで、安全にZR-Vの挙動を試すことができた。感謝である。

「リヤのトルクが高いと、操舵したときのフロントタイヤの負荷が下がるので、コーナリングフォース(曲がろうとする力)が稼げ、ドライと同じような感覚で曲がれる。逆に、リヤの配分が少ないとアンダーステア(狙いより外にふくらんでしまう)になって思うようにいかない。雪上でもドライと同じようなニュートラルステアを保つようなセッティングを狙っています」

開発に携わる技術者のひとりはこのように説明した。

FFだってもちろん問題なく雪道を上っていく

ホンダZR-V e:HEV Z FF車両価格:389万9500円 AWDとの価格差は22万円
FFでも問題なく雪道を走れる。
しかし、やはり姿勢制御の自由度がAWDほど大きくない。

なかなかの圧雪をものともせずに乗り換えポイントに到達し、e:HEV ZのFF(前2輪駆動)に乗り換えた。急勾配のつづら折りが始まる地点まで戻り、折り返して標高1100mの乗り換えポイントを目指す。

安心して運転できる点はAWDと変わりないが、タイトなコーナーからの立ち上がりはAWDとの違いが明確だ。じれったくなるほど、前に進まない。加速しようとすると、荷重が後ろに寄る。上り勾配ではなおさらで、平坦な状態よりも前輪から荷重が抜け、なおさら滑りやすくなる。前に進もうとする力がしっかりと路面に伝わらず、スリップ。それを回避しようと制御が介入し、なかなか前に進まない。

ドライ路面のように曲がりながら頃合いを見計らってアクセルを踏み込むというようなわけにはいかず、いつもより慎重にブレーキングし、確実に向きを変えたらアクセルを踏み込む、いつもより丁寧なドライビングスタイルが求められる。いったんリズムをつかめばなんてことはないが、どちらが気を使うかというと、圧倒的にFFだ。技術者はこうも言った。

「例えばスキーに行くときはそれなりに長い距離、それもスキー場近くは道路環境の悪いところを走るケースが多いと思います。スキー場に着くまでに気を使うとか、疲れてしまうのは我々の意図するところではありません。そこで、AWDの持つポテンシャルを最大限に発揮し、あたかも運転がうまくなったかように気負わずどこにでも行ける。それが狙いです。制御がおせっかいに介入するのではなく、自然に、自分が思ったとおりに動く車体挙動を狙っています」

余裕を持ってスキーに行き、存分にスキーを楽しみ、安心・安全な気持ちで帰途につく。なんなら、スキー場に行くまでの雪道ドライブも楽しめる。それが、ZR-V AWDの実力だ。

ぶ厚い雪に一面が覆われた駐車場から道路に出るときに、AWDの性能の一端を思い知った。道路に出るときは左右を確認するために一旦停止するが、そこで止まってしまうと厚い雪が邪魔をしてFFでは完全にスタックしてしまったのだ。何度か脱出を試みようとしたが、うまくいかない。出られたとしても、ズルズル出たり、勢いよく飛び出したりしては危険だ。結局、雪が降るなか(外気温−9℃)、同行者に外に出てもらい、左右に見渡す限りクルマの通行がないのを確認してもらってから、タイミングを計っていったん後退。勢いをつけて道路に進み出た。「このまま脱出できなかったらどうしよう」と、ヒヤヒヤする瞬間だった。

AWDならどうだろうと同じ場所で同じように脱出を試みてみたが、脱出も何も、それこそ拍子抜けするくらいフツーに道路に出ることができた。AWDのウリのひとつは雪でスタックした際の脱出性の高さだが、身をもって体験すると4輪に駆動力を伝えるシステムのありがたみを強く実感する。ホンダZR-VはFFでも頼もしいが、AWDはもっと頼もしい。

スタート地点はJR山形駅近くのホテルの駐車場。
ホンダZR-V e:HEV Z AWD
全長×全幅×全高:4570mm×1840mm×1620mm
ホイールベース:2655mm
車重:1630kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式/R マルチリンク式
駆動方式:AWD
エンジン
形式:直列4気筒DOHC
型式:LFC
排気量:1993cc
ボア×ストローク:81.0mm×96.7mm
圧縮比:13.9
最高出力:141ps(104kW)/6000rpm
最大トルク:182Nm/4500rpm
燃料供給:DI
燃料:無鉛レギュラー
燃料タンク:40ℓ

モーター
H4型交流同期モーター
最高出力:184ps(135kW)/5000-6000rpm
最大トルク:315Nm/0-2000rpm


WLTCモード燃費:21.5km/ℓ
 市街地モード 19.5km/ℓ
 郊外モード 23.9km/ℓ
 高速道路モード 21.1km/ℓ
車両価格:411万9500円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…