アウトランダーPHEVでないと体験できない世界がある。S-AWCはほかの4WDと何が違ってどう良いのか、解き明かす

三菱アウトランダーPHEV P 車両本体価格:570万5700円
三菱アウトランダーPHEVは、大容量バッテリーを持つプラグインハイブリッド(PHEV)の良さと長年培ってきたAWD技術、S-AWCの組み合わせがストロングポイント。今回は、テストドライブの前に、S-AWCの生みの親である澤瀬 薫氏(三菱自動車工業・開発フェロー)にレクチャーを受けた。その答え合わせをしながらアウトランダーPHEVを試してみた。果たして開発陣の意図をドライバーは享受できるのか?
TEXT:世良耕太(SERA Kota) PHOTO:山上博也(YAMAGAMI Hiroya)
今回は東京〜奥会津までトータル550kmほどのドライブを敢行した。ドライからウェット、スノーなどさまざまな路面でアウトランダーPHEVの走りをチェックできた。

「どこまでもドライバーの操作どおりにクルマの挙動を作り込みたい」

三菱自動車アウトランダーPHEVの特徴は、車名が示すとおり外部電源からの充電が可能なプラグインハイブリッド車(PHEV)であることだ。しかも、家庭用100/200Vの普通充電だけでなく、外出先でスピーディに充電できる急速充電に対応しているのが特徴。さらに、エンジンで発電して充電することも可能だ。

フロントとリヤに高出力のモーターを搭載した「ツインモーター4WD」なのもアウトランダーPHEVの大きな特徴。床下に搭載するリチウムイオンバッテリーの総電力量は20kWhで、電気自動車のeKクロスEVと同じである。つまり大容量。そのため、充分なEV航続距離(WLTCモードのEV走行換算距離で83〜87km)を確保している。

バッテリー残量が一定以下になるとエンジンが始動して発電し、バッテリーに充電しながらモーターで走る。エンジンの動力を主体に走行してモーターがアシストするモードも備えているが、このモードに入るのはほとんど例外的だ。モーター↔エンジンの切り替えは自動で行なってくれるし、ショックは皆無なので、ドライバーはその切り替わりのタイミングを意識することはない。

三菱アウトランダーPHEV P(7名乗り)モデル概要

全長×全幅×全高:4710mm×1860mm×1745mm ホイールベース:2705mm
トレッド:F1595mm/R1600mm
最低地上高:200mm 最小回転半径:5.5m
ボディカラーはレッドダイヤモンド/ブラックマイカ(13万2000円のメーカーオプション色)
エンジン
 形式:2.4ℓ直列4気筒DOHC
 型式:4B12MIVEC
 排気量:2359cc
 ボア×ストローク:88.0×97.0mm
 圧縮比:11.7
 燃料供給:PFI
 最高出力:98kW/5000pm
 最大トルク:195Nm/4300rpm
 燃料:レギュラー
 燃料タンク:56ℓ
 フロントモーター
 型式:S91
 最高出力:85kW(定格出力40kW)
 最大トルク:255Nm
 リヤモーター
 型式:YA1
 最高出力:100kW(定格出力40kW)
 最大トルク:195Nm

横置き(左右方向)に搭載する2.4L直列4気筒自然吸気エンジンの横に搭載するフロントモーターの最高出力は85kW、最大トルクは255Nmだ。リヤモーターの最高出力は100kW、最大トルクは195Nmである。昨今、リヤに高出力モーターを搭載する電気式4WDが増えているが、高出力といえどもアウトランダーPHEVほど高出力ではなく、フロントに搭載するパワーユニットのほうが高出力なのが一般的だ。

アウトランダーPHEVが搭載するモーターの最高出力の比率はフロント46対リヤ54だ。リヤの配分が大きいのは、車両運動統合システムのS-AWC(Super All Wheel Control)を最大限に生かす観点からだ。S-AWCは前後輪の駆動力配分に加え、左右輪間の駆動/制動力を制御して高い旋回性能と走行安定性を実現するAYC(Active Yaw Control)や、走行中の横すべりと発進時のタイヤの空転を制御するASC(Active Stability Control)、急制動時のタイヤロックを防ぐABS(Anti-lock Braking System)を統合制御する。

リヤモーターの出力を大きくして前後の駆動力配分比をやや後ろ寄りにすると、制御可能範囲が広がることが理論的に求められており、その結果、タイヤのグリップ能力を最大限に引き出した、安心・安全で、ドライバーの意のままになる走りが提供できる。

「降雪地域を走り慣れている方は、路面と対話しながらタイヤのグリップ限界ギリギリを感じながら走ります。そういう走りに応えるには、前後の駆動力配分を自在に作り込むことができるS-AWCの効果が大きいと感じています」

自身も降雪地域を拠点に活動する三菱自動車工業・開発フェローの澤瀬薫氏はこう説明する。制御のカギを握るのは、理想前後駆動力配分だ。重量や寸法などの車両諸元から、前後G、横Gの観点でもっとも運動性能の高い前後駆動力配分比が求められる。三菱自動車のなかでは1980年代に理論を確立していたが、これを実現する技術が追いついていなかった。

制御精度と自由度が高く、応答性が高いツインモーター4WDを手の内に入れることによって、理想の前後駆動力配分にできるようになった。

内装色はブラック&サドルタン シートはセミアリニンレザー

「フィードフォワード制御を軸に常に前後輪の駆動力配分を行ない、理想の状態にする。すると、雪道でタイヤのグリップ限界内で走っているときは、真っ直ぐ走っているときもハンドルのしっかり感が感じられ、コーナーに対して舵を入れたときは気持ち良くスッと向きが変わり、オンザレール感覚で曲がることができます。滑る前に、あるいは挙動が変化する前に一番バランスのいい前後駆動力配分を作っているところがポイントです」

車両が搭載するセンサーが検知した情報からクルマの状態を読み取り、先手を打って駆動力を配分することで、前後のタイヤがバランス良く横力(曲がろうとする力)を発生するようになる。さらに、操舵角と車速から規範ヨーレート(理論的に正しいとされる車両の自転速度)を算出し、ずれがあれば補正するようフィードバック制御(旋回内輪or外輪にブレーキをかける)を入れる。

「どこまでもドライバーの操作どおりにクルマの挙動を作り込みたい。ドライバーの操作に対し、常に追従するような制御の作り方をしています。それが我々のやりたいことです。すべて、ドライバーの操作に合わせた制御としているのは、それが一番の安心・安全につながると考えているからです」と、澤瀬氏は三菱自動車開発陣の思いを代弁する。

S-AWCのメリットを雪道で体験 多彩なドライブモードの意味を確認

システム的には4WDでありながら通常はFFで走行し、前輪のスリップを検知したら後輪に駆動力を伝えて4WDにしたり、操舵を合図に4WDにしたりする制御が他社には見られる。燃費を重視するとそうした制御を選択したくなるが、オンオフ切り替え的な4WDにはしたくないというのが、三菱自動車の考えかただ。燃費よりも(もちろん、無視しているわけではない)、安心・安全が上位にくる。

雪道でも手応えがしっかりし、常に路面状況を感じながら走れるのか。確認のため、雪道を目指して都内を出、奥会津(福島県)の峠道を目指した。澤瀬氏からは、ドライブモードを使い分けてみるようアドバイスを受けた。路面状況や運転スタイルに最適化した車両運動特性が選べる7つのドライブモードを設けているのが、アウトランダーPHEVの数ある特徴のひとつである。

シフトレバーの手前にドライブモードセレクターがある。
ダイヤルを回すことで好みのドライブモードを選択できる。

ドライブモードセレクターはフロアコンソールに設置されている。時計の12時の位置にあるNORMAL(ノーマル)が通常使用するモード。左側(9時〜11時)には運転スタイルに合わせて選ぶECO(エコ)とPOWER(パワー)が配置されており、アクセル操作に対するパワーの出方の勾配が変わる。右側(1時〜6時)には路面状況に合わせて選ぶTARMAC(ターマック)、GRAVEL(グラベル)、SNOW(スノー)、MUD(マッド)が配置されている。

7つのモード、それぞれの制御

新型アウトランダーPHEVは7 種類のドライブモードを設定した。このうち、「ターマック」「グラベル」「スノー」「マッド」は路面に合わせたモードで、「マッド」は新設定。グラベルは舵も効くし、トラクションも効く、いわば、S-AWCの狙いがもっともよく表現されたモード。マッドは理想前後駆動力配分でいうと旋回方向は意識せず、最大トラクション狙い。動的荷重に比例した前後配分にし、直結AWDっぽい味つけ。荷重移動とアクセルコントロールで曲げるイメージだ。

各モードではパワートレーン、4WD、AYC、EPS(電動パワーステアリング)、TCL(トラクションコントロール)、ASCのサブシステムを最適に制御し、狙いの特性を実現する。NORMALはすべてのサブシステムが「標準」だが、4WDだけは例外で、高速道路を一定速で走っているようなシーンでは、理想前後駆動力配分よりもフロント寄りにずらしている。燃費を取るためだが、思い切ってFF(リヤ配分ゼロ)にしないのは直進安定性を担保するためだし、少しでも加速したり、ハンドルを切ったりすると理想前後駆動力配分へと連続的につながるよう制御している。

ECOはパワートレーンのゲインが小さく、ラフなアクセル操作をしても燃費良く走れるモード。POWERはモーター駆動車ならではのレスポンスの良い加速感が味わえるモードだ。「舗装路面」を意味するTARMACはAYCの利きを全モード中でもっとも高くしているのが特徴で、曲がりやすさ重視。逆に、「砂利道(未舗装路)」を意味するGRAVELはAYCの利きを弱くし、前後どちらかが滑ったら反対側に再配分する4WDはトラクション重視の設定。「泥」を意味するMUDは泥濘路での走りを想定しているので、トラクション重視が明確。アクセルオン時の旋回補正はまったく行なっていないのが特徴だ。

今回の主役であるSNOWは微小なスリップコントロールがしやすいよう、アクセル操作に対するパワーの出方を緩やかにしたほか、TCLやASCはスリップや横すべりに対して敏感に反応する設定としている。

「グリップ領域からツルッと滑っていきそうな状況で走っている際に、ハンドル操作に対して気持ち良くクルマの向きが変わるのはスノーモードが一番だと思います。(メカニカルな機構で駆動力を伝達していた)かつての前後駆動力配分は、加速や減速が強い領域でないと、挙動の改善効果はあまりないというのが通説でした。ツインモーター4WDは加速や減速が弱い日常領域においても理想前後駆動力配分による中立付近のしっかり感や、そこからスッと曲がる際の曲がりやすさでもきちんと差が出ます」

タイヤ:255/45R20 テスト車はブリヂストンのスタッドレスタイヤ、ブリザックを装着していた。

そう事前に伝えられたのに何も感じなかったらどうしようと不安に感じたのも事実だったが、アウトランダーPHEVはシーンを問わず思いどおりに動くのが印象的だった。「いま外に膨らみそうだったから力を貸してあげたよ」とか、「いま、お尻が外に出そうだったから止めておいたよ」というような、いかにも制御が入りましたというわざとらしい動きは一切ない。おそらく(いや、間違いなく)ドライバーの意図をクルマが読み取って前後のモーターの駆動力を瞬時に配分し、ときには旋回内側輪にブレーキを掛けたりして、ドライバーの意図どおりになる動きを生み出しているのだろう。制御は完全に黒子に徹している。

そしてそのとき、クルマが勝手にレールの上を走っているような、“乗らされている”感覚ではなく、ハンドルを握る手や座り心地が良く疲れ知らずのシートを通じて尻から伝わる感触から、路面の状況が伝わり、自分が主体的に状況を判断し、その判断に基づいて操作を行ない、結果としてレールをトレースしているような感覚にさせてくれる。だから、信頼感を持って運転できるし、ドライブが楽しい。

路面を選ばない懐の深さが、アウトランダーPHEVの魅力

路面状況によらず、ドライバーは自信を持ってドライブできる。これがS-AWCの価値だ。

奥会津の峠道は予想に反して雪が少なく、日かげは圧雪で日なたはドライ。その中間部分はシャーベット状で、左側輪は雪に乗りながら右側輪はウエット路面を踏むというような区間も存在した。路面状況がコロコロ変わると神経を使うものだが、アウトランダーPHEVは路面状況の目まぐるしい変化を意に介するふうもなく、何ごともなかったかのように前進する。視覚から得る情報も大きいが、ハンドルから手に伝わる感触や車体の微小な揺れ具合から、路面の状況がしっかり伝わってくるため、アクセルやハンドルをどの加減で操作すればいいのか、直感的に判断しやすい。だから、安心だ。

完全なスノー路面より、このような左右輪でμが違うスプリットμ路面の方が走行は難しいはずだが、S-AWCはなんなくこなす。

オールマイティなNORMALでも充分に雪道を走れてしまうが、ちょっと心もとない気がするのも事実(と感じたのは他のモードを試したから、ではある)。推奨どおりSNOWで走るのがベターだが、アクセル操作に対する力の出方が緩いので、もどかしさを感じるかもしれない。そんなときはパワートレーンの制御がノーマルになるGRAVELを試してみるといいかもしれない。

雪道のドライブでは、滑りやすい路面だからといって、ドライバーに一切不安感を抱かせないのが印象的だった。そうした路面をゆっくりと慎重に走るのもいいが、タイヤのグリップ限界を使い切るような走りも、応答性が高く、制御の精度と自由度が高いツインモーター4WDの特徴を生かしたS-AWCのおかげで難なくこなしてしまう。路面を選ばない懐の深さが、アウトランダーPHEVの大きな魅力だ。

三菱アウトランダーPHEV P
 全長×全幅×全高:4710mm×1860mm×1745mm
 ホイールベース:2705mm
 車重:2110kg
 サスペンション:Fマクファーソンストラット式&マルチリンク式 
 駆動方式:ツインモーター4WD
 エンジン
 形式:2.4ℓ直列4気筒DOHC
 型式:4B12MIVEC
 排気量:2359cc
 ボア×ストローク:88.0×97.0mm
 圧縮比:11.7
 燃料供給:PFI
 最高出力:98kW/5000pm
 最大トルク:195Nm/4300rpm
 燃料:レギュラー
 燃料タンク:56ℓ
 フロントモーター
 型式:S91
 最高出力:85kW(定格出力40kW)
 最大トルク:255Nm
 リヤモーター
 型式:YA1
 最高出力:100kW(定格出力40kW)
 最大トルク:195Nm
 リチウムイオン電池
 総電圧:350V
 総電力量:20kWh
 燃費:ハイブリッド燃料消費率WLTCモード 16.2km/ℓ
  市街地モード 17.3km/ℓ
  郊外モード 15.4km/ℓ
  高速道路モード 16.4km/ℓ
 EV走行換算距離(等価EVレンジ):83km
 車両本体価格:570万5700円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…