デザイン・インプレッション:初めてライフスタイルを主張したトヨタ・カローラクロスを見る

トヨタ・カローラクロスは “ユニクロのランニングウエア”か

トヨタからカローラクロスが発表された。数多いSUVの中で、カローラブランドが狙うものは何なのだろうか。ここでは、デザインの側面からカローラSUVのフィーリングを感じとってみようと思う。 by 松永大演 / Carstyling
カローラクロス。伸びやかな上部と強靭な足回りを共存させる。

ライフスタイルを主張するカローラって!

カローラクロスの登場が衝撃的だと思うのは、カローラがラインナップの真ん中でライフスタイルを主張してきたことだ。これまで必要にして十分以上の機能を持ったのがカローラだったが、それはどんなユーザーのどんな色にも染まる柔軟さがあった。つまりは、カローラ自体からは、こう使ってくださいという強いライフスタイルは発信されなかった。

では、カローラクロスでは何が起こっているのか? 

それはまさに、ユニクロのランニングウエアなのだと思う。ランニングやスポーツには伝統的なブランドがあり、機能に裏打ちされ価格もそこそこする。しかし、ユニクロは日本人らしい勤勉な開発力によって価格をあげずに、高い機能のスポーツウエアも開発してきた。対する市場は、スポーツのオーソリティであってもその機能は認めるところ。何よりもユニクロの店頭に同じブランドとして置くことで、これから運動やランニングをやってみようか、というビギナーの人たちにも身近な存在となったことだ。これまでスポーツをやったことのない人たちにも、突出しない控えめなセンスはスポーツの間口を広げた。

カローラクロスの同じセグメントではC-HRがある。C-HRは全く独自のクーペ的存在感を持つクロスオーバーで、新たな市場を開拓した。しかしその一方で、本来のSUVのニーズには応えきれない部分もあったはず。4〜5人で長距離移動する、行った先でスポーツやキャンプを楽しむ。となると、ちょっと選択肢から離れて行ってしまうのも事実。

その隙、というか現代では王道となっている部分に登場してきたのが、カローラクロスだと思う。逆にいえば、トヨタはここに隙があったのだともいえる。

カローラツーリングをSUV化しなかったのは新世界拡大の狙い!?

そして登場したカローラクロスだが、一つの疑問が「現行のカローラがあんなに洗練されたモデルなのだから、あのままSUV化してもよかったのでは?」ということだ。確かにカッコいいはず。

カローラツーリング。これをそのままSUV化すれば、ちょっとセンセーショナルなモデルとなったところだが、SUVの世界は広がらなかっただろう。新たな世界を造るには、SUVとしての使い方がわかりやすい、またSUVとしての使い方がしたくなるデザインも必要だ。

開発中のスケッチを見てみると、アイデア段階ではそんな案から進めたようなものもあるように思う。

カローラクロスの初期のアイデアと思われるスケッチ。カローラボディの下半身に力強さを付与するような考え方にも見える。

しかしはたと気がつくのは、それでは単なるカローラの追加モデルになってしまうということだ。

言ってみれば、基本がFFなのだけれども4WDもあります、的な感じ。あくまでもワゴンのラインアップの一つで、セダンに加えてワゴンもあります、というよりももっと狭い価値に見えてしまうように思う。

カローラユーザーにとってのSUV。多くの人たちにSUVの利便性、楽しさを感じとってもらえるモデルが狙いか。SUVの間口を広げる車であって欲しい、との思いもあったはず。

求めたのは、別の世界を広げることだったのではないだろうか。その中で考えられていったのは、”カローラであること” ではなく”カローラのユーザーがSUVに乗るシーンが来るとしたならば” というものだったのだと思う。かつて80年代に登場したスプリンターカリブとやや似た思考でもあると思う。ただちょっと違うのは、カリブはカローラカテゴリーとは異なる年齢層、趣味を持つ人たちに向けたもので、ニッチな市場を狙いつつ実は大人気となった。対するカローラクロスは時代が動く中で、より幅広い年齢層に “SUV”という言葉が耳に少しひっかかり出しながらも、自分ごととして捉える動きができないユーザーにも焦点を当てていると感じる点だ。

あるいはカローラユーザーに、SUV的プロポーションに対する抵抗感を払拭するのも狙いでは? とも思ってしまう。これまで保守的と言われる層のユーザーの意識が変わりつつあるということを、この車の登場が教えてくれる。

わかりやすいだけではなく、SUVの新たなプロポーションも模索。伸びやかさと力強さを前後で分担して表現。

そういった意味からも、単純にカローラの車高を高めたようなモデルでは、趣味人の食指は動かせても広く一般の関心が拡大できない。むしろクロスオーバーの考え方ではなく、直球でこれがSUVですよ、を感じさせる主張のわかりやすさも必要だ。例えばセダンに乗り換える時、ワゴンにするか、ミニバンにするかは形そのものがわかりやすいので強い意識を持ちやすい。それと同じようにSUVを選ぶ理由が、見た目からしっかり理解しやすいのがカローラクロスだ。

見た目で何を感じるかは非常に重要。安心感、信頼感、後席の広さ、荷室の広さ。これらはセダンやツーリングにも勝る強い印象として残る。とはいえカローラを名乗る以上、過度な強さは不要で、微妙なバランスこそが求められるはず。

カローラは十人十色で誰にでも染まる考え方はそのまま、しかし十人十色でもその振れ幅が大きい時代。そこにさらなるカテゴリーを加えてきたのだと思う。これで ”SUVもいいのだけれど、勇気がいるな” という人たちにも、気軽にSUVを選択肢に入れられるようになったといえる。

そのためにこそカローラクロスのデザインは、使いやすく決して周囲に突出することのない、しかしとびきり現代的なカローラのスピリッツを貫かなければならない。それでいて、SUVらしいわかりやすい形も必須だったのだと思う。とはいえランクルやGクラスのような ”強さ” は、ノーサンキューなのである。

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著者プロフィール

松永 大演 近影

松永 大演

他出版社の不採用票を手に、泣きながら三栄書房に駆け込む。重鎮だらけの「モーターファン」編集部で、ロ…