じつはメガネレンチにも種類があった!? サイズと形状を適材適所で使いこなせばDIYがもっとはかどる!【DIY派はこれを揃えてお工具! 第7回】

コンビネーションレンチはスパナとメガネレンチの役割を1本で賄える便利なレンチだ。しかし、DIY作業に慣れてくると、コンビネーションレンチより長く、オフセット角度に応じてストレート・セミディープ・ディープと様々な種類があるメガネレンチがやはり欲しくなってくる。今回はそんな使い勝手に優れ、レンチの中でも手に取ることが多いメガネレンチの種類から選び方までしっかりと解説していこう。
REPORT:山崎 龍(YAMAZAKI Ryu) PHOTO:MotorFan.jp ASSISTANT:プラガブ(PRAGABU)

力をかけやすいメガネレンチはぜひ揃えておきたい工具

最初のレンチとしてコンビネーションレンチ(以下、コンビレンチ)を選んだ人でも、DIY作業に慣れてくると次第にメガネレンチが欲しくなるだろう。たしかに、コンビレンチは片目片口構造なので、スパナ(オープンエンドレンチ)とメガネ(ボックスエンドレンチ)の役割を1本で賄えるスグレモノだ。だが、1本でどちらの機能を持つコンビネーションレンチは、逆に言えば、どちらの機能も中途半端になる。

メガネレンチ(ボックレンチ)とコンビネーションレンチ。コンビのボックス側がラチェットになっていたり、角度が付けられたするものもある。

メーカーや製品によっても長さは異なるが、総じて言えばコンビレンチはスパナより長く、メガネより短い。すなわち、メガネとして使うときには、その短さからボルトやナットを回すのに余計な力が必要になる。錆びついて固着したボルトにアクセスする場合、コンビレンチのリング部分では固くて回らないこともあるだろう。そうしたシチュエーションでは、やはり全長が長く、トルクをかけやすいメガネが光り輝く。

スパナとメガネを揃えるのは大変! でも「コンビネーションレンチ」なら1本で2度おいしい! 【DIY派はこれを揃えてお工具! 第5回】

工具店に行けばさまざまな種類のレンチが並んでいる。その中からもっともベーシックなものを選ぶとするとスパナとメガネレンチ の2種類になるだろう。だが、2種類のレンチを1度に揃えるのは財布への負担が大きいし、収納場所なども気にしなければならない。そんなときに片口がスパナ、片口がメガネのコンビネーションレンチを選べば、必要とする口径サイズが少ない場合にはレンチの本数を少なくできるのだ。まず初心者はコンビネーションレンチからレンチを揃えてみてはいかがだろうか?

メガネレンチの3つの種類「ストレート」「セミディープ」「ディープ」

一般的にコンビレンチのオフセット角度は15度となるが、メガネにはストレート(0度)、セミディープ(15~45度)、ディープ(60~75度)の3種類が用意されている。
・ストレートは回転軸となるボルトと力点となる持ち手が直線上に並ぶので、バイクのアクスルシャフトへのアクセスなどの障害物がない作業環境で使用したい。
・セミディープは柄の部分に手を入れるスペースがあり汎用性が高い。
・ディープは障害物を避けて奥まったボルトにアクセスしやすい。
といった形で、作業内容に応じて異なるオフセット角度が選べるのもメガネならではのメリットだ。

筆者が所有するメガネレンチをすべて並べてみた。ストレートはDEEN(ディーン)を中心にBeta(ベータ)とSnap-on(スナップオン)。セミディープがPROTO TOOLS(プロトツールズ)。ディープがDewalt(デウォルト)。片口メガネは22mmのみで旭金属工業となる。

なお、メーカーによってセミディープとディープのメガネレンチのオフセット量は若干異なる。
一般的にセミディープは45度、ディープは75度とされているが、Snap-on(スナップオン)のように、それぞれを15度と60度とした製品も存在する。柄の太さや形状、鏡面仕上げか梨地仕上げかのメッキ処理の違いなどを含めて使う人の好みもあるので、工具店で実際に手にとって相性の良い製品を選んでほしい。

最初に選ぶべきメガネレンチはセミディープ!

さて、メガネについてのあらましは解説した。それでは初めて買う人はどのメガネを選べば良いのだろうか?
筆者が最初のメガネにオススメするのはセミディープだ。理由は汎用性が高く、使い勝手に優れるからだ。おそらく、ストレート、セミディープ、ディープの3種類の中ではもっとも手に取る回数が多いだろう。

筆者愛用のPROTO TOOL製セミディープメガネレンチ。アメリカの工具店から個人輸入で手に入れた。6~30mmまでをカバーする11本セットで、nepros(KTC)のように45度+浅い角度で柄が斜めに延びるタイプだ。PROTO TOOLは日本での知名度は低いがアメリカの老舗工具メーカーで、前身のPLOMB TOOLSは1933年に世界初の近代的なコンビネーションレンチを開発したことでも知られる。
SK11で知られる藤原産業のサブブランド・E-Value(イー・バリュー)製のセミディープメガネレンチ。ホームセンターなどで安価に手に入る製品だ。こちらは柄とリング部分と並行になっている昔ながらのメガネレンチ。オートモーティブ(クルマやバイク)用としては少数派となったが、産業用や家庭用としてはこちらが主流となっている。

セミディープメガネに関して言えば、オフセット部分が45度の角度で立ち上がり、柄がリング部分と並行になっているタイプと、立ち上がり角が45度であることに変わりはないが、柄の部分が6度程度の浅い角度で斜めに伸びているタイプがある。
前者は古くからあるメガネで、後者はKTCの高級工具ブランドのneprosが初めて採用し、狭い場所での作業が多いオートモーティブ(自動車)用として近年広く普及したメガネだ。

ディープメガネはDewaltを使用している。こちらはアメリカのAMAZONで購入した。リング部分の立ち上げは75度。奥まった場所や障害物を避けてボルト&ナットにアクセスしやすいので重宝する。ただし、力をかけたときにリング部分が倒れやすいので若干注意が必要となる。Dewaltは日本では電動工具メーカーとして有名だが、このようなハンドツールもラインナップにある。

前者は柄とリング部分と並行になっていることから力をかけやすいというメリットがあるが、オフセット部分に高さがあることから狭い場所でレンチを回すときに周辺の障害物と接触しやすく、小さなサイズのレンチだと手を入れすスペースが確保しにくく掴みにくいというデメリットがある。
そうしたことから後者が誕生し、現在ではセミディープメガネのスタンダードとなった。とくに理由がなければ、作業性を考えて45度+浅い角度で柄が斜めに延びるタイプを選べば問題はないだろう。

ストレートメガネは超ロングタイプを使用。最初に購入したのはDEENのセットで、その後、必要に応じてBeta製の13×15mmとSnap-on製の22×24mmを買い足した。
比較的安価に買える旭金属工業のストレートタイプの片口メガネ。何のために購入したかは忘れたが、22mmのみを所有する。どちらかと言えば産業用工具であり、オートモーティブ用に使われる機会は少ないが、先端が湾曲しているためアイデア次第では意外な活用方法もある。

セミディープメガネを使っていてアクセスできないボルト&ナットが頻繁に登場するようならディープメガネを追加購入すれば良いし、エンジンのベルト交換などで、奥まった場所にあるボルト&ナットを回したり、障害物のない場所で力を逃すことなくボルトを回したりする機会が多いのならストレートタイプのロングもしくは超ロングを使用すれば作業がはかどる。

写真上からストレート・セミディープ・ディープの3種類のメガネレンチの比較。サイズはストレートとセミディープがDeen製とPROTO TOOL製の17×19mm、ディープがDewalt製の17×18mmと比較的近いサイズを並べてみた。
横から見るとリング部分の立ち上がり角度の違いがよくわかる。メガネは長さや角度違いなど複数の種類を用意しておくと作業の幅が広がる。
リング部分の比較。ストレート(上)がSnap-onの22×24mmで、セミディープ(中)がPROTO TOOLSの22×24mm、片口メガネ(下)が旭金属工業製の22mm。比較しているのは22mmのリング。二面幅は同じだが、リングの肉厚は安価な旭金属のみ6mmで他は3mm。リングの直径は旭金属が37mm、Snap-onが24mm、PROTOが23.5mmだった。

また、安価な工具は強度を持たせるためにどうしても肉厚になり、上質工具は優れた素材を使用しているため薄くても強度が出せる。この違いがボルト&ナットへのアクセス性に影響するため、予算の都合が許すなら一流メーカーの製品を揃えたいところ。

メガネレンチで揃えるべきサイズは?

なお、メガネはスパナと同じく、異なるサイズの組み合わせが基本となる。
DIYなどの軽整備を念頭に置くとするならば、一般的には日本車に多く使用されている 以下の5本を用意すれば良いとされる(ダブルナットやボルトをナットで固定しているパーツへのアクセスを考えて、同じサイズが重複するように揃えるのが基本だ)
8×10mm
10×12mm
12×14mm
14×17mm
17×19mm
だが、近年では自動車産業のグローバル化に伴い、日本車にも11mm、13mm、15mm、16mm、18mmのボルト&ナットが採用されることも少なくなく、これから工具を揃える人は以下のサイズのメガネも併せて購入しておくと、作業を中断し、慌てて工具店に走ることがなくなるだろう。
11×13mm
13×15mm
15×16mm
16×18mm
なお、エンジンや足回りの作業も考えている人は、21×23mmや22×24mmなどの大きなサイズも揃えておくことをオススメする。

ストレート
セミディープ
ディープ

あまり良い写真ではないが、ストレート・セミディープ・ディープの3種類のメガネレンチのボルトへの掛かりの違いを比較するため、愛車のスーパーカブ110に取り付けている出前機の固定ボルトにメガネレンチを掛けてみた。
手前に障害物(この場合、リヤキャリアの外枠)がある場合にはセミディープやディープが有効だが、障害物がない作業環境では力が掛けやすく、作業のコントロールしやすいストレートが便利だ。

よく使うサイズの組み合わせか? 1mm刻みの組み合わせか?

筆者はセミディープメガネはPROTO(プロト)、ディープはDewalt(デウォルト)の製品を愛用している。どちらもアメリカ製工具のため10×11mm、12×13mmのように1mm刻みとなる。旧来の日本車のように決まったサイズを多く使う作業では、1本のメガネで済む場合でも2本のメガネを用意しなければならないが、慣れてしまえば痛痒さは感じない。

筆者が所有しているアルファロメオやジャガーの場合、10mmや12mmに混じって11mmや13mmのボルト&ナットも頻繁に登場するので、かえって1mm刻みの組み合わせは都合が良かったりもする。このあたりは作業する車種に応じて製品を選べば良いと思う。

ジャガーSタイプのストラットタワーのボルトにディープメガネを掛けたところ。メガネレンチはしっかりトルクを掛ける際はレンチの手前側を持ち、オーバートルクを防ぎたいときにはボルトを掛けたリング部分に近いところを持つ。梃子の原理の応用で力のコントロールがしやすいのもメガネレンチを使うメリットのひとつとなる。

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著者プロフィール

山崎 龍 近影

山崎 龍

フリーライター。1973年東京生まれ。自動車雑誌編集者を経てフリーに。クルマやバイクが一応の専門だが、…