目次
コンパクトFRスポーツセダンの極北
兎にも角にもエンジンだ。レクサスIS500の成り立ちをシンプルに言ってしまえば、レクサスISのボディに高出力エンジンを搭載したスポーツセダン。そのハイライトが、481㎰を発生する排気量5.0ℓのV8エンジンである。
エクステリア
このエンジンは数字を並べるだけでも特別な存在だが、それだけで語るのは愚の骨頂。なぜなら、数字に見えない部分、具体的に言えば官能性こそが魅力だからだ。響き渡る排気音、心酔しそうになるほど艶っぽいエンジン回転のフィーリング、そして高回転まで回したときの炸裂感。
ジワリとアクセルを踏むときは対話が楽しく、一方でアクセルを強く踏むと鋭く回転が上がると同時にパワーが炸裂する躍動感は、このエンジンが生粋のスポーツユニットであることを感じさせる。
乗降性
そんなエンジンはこれまでもレクサスの超高性能車に積まれ、その官能性からドライバーを快楽漬けにしてきた。何度乗っても、その艶っぽさで骨抜きにされそうになる。もちろん、操縦性だって味わい深い。そもそもIS自体が相当いいハンドリング。そのうえで、重いV8エンジンを前方に積むにもかかわらずそれを感じさせず、グイグイ曲がっていく軽快感が素敵だ。「本当は4気筒エンジンを積んでいるのでは?」と思うくらい身のこなしがいい。
インストルメントパネル
ところで、そんなIS500に関して「先代でこのエンジンを積むモデルは『ISF』だったのに、新型はなぜ〝F〞じゃないの?」と疑問をもつ人もいることだろう。その答えは「サーキットがターゲットではないから」だ。ISFの本拠地はサーキットで、サスペンションなどもそれに合わせた仕様になる。
しかし、それは実質的なISのクーペ版である「RC」の「RCF」に任せ、IS500はあくまでISシリーズの最高峰モデルとして快適性なども考慮しつつ、エモーショナルで濃いドライビングを楽しめるようなクルマづくりをしているのだ。
居住性
何を隠そう、この〝Fじゃない〞ことがいい方向に作用している。Fほどガチガチじゃない〝Fスポーツパフォーマンス〞としたことで、日常の快適性を犠牲にすることなく、一方でドライバーがその気になれば気軽にハイパフォーマンスを堪能できる。その日常とスポーツのバランスが抜群にいい。
BMWでいえばサーキット向けの「M3」ではなくドライビングの味わい深さを楽しむための「アルピナ」のような感覚だ。ところでBMWといえば、メルセデス・ベンツやアウディも含めた欧州の高出力モデルはもうIS500のような大排気量自然吸気エンジンを展開せず、燃費に有利なダウンサイジングターボに移行している。
燃費規制の締め付けが厳しく、つくりたくてもつくれないからだ。しかし、ハイブリッドカーのおかげでメーカー全体での平均燃費規制にまだ余裕があるトヨタは、それがつくれるのだ。とはいえ、このエンジンを楽しめる時間はそう長くはないだろう。
うれしい装備
追加モデル 22年8年25日発表 月間販売台数 NO DATA WLTCモード燃費 9.0km/l
ラゲッジルーム
IS500は、電動化に逆行する、ある意味叛逆的なクルマだ。ノスタルジックなスポーツセダンである。でも、だからこそあえて今買っておく価値がある。ガソリンエンジンを積む超高性能スポーツセダンの、頂点で最後の生き残りと言っていい。いま買わないともう次はないだろう。
※本稿は、モーターファン別冊 ニューモデル速報 統括シリーズ Vol.147「2023 国産新型車のすべて」の再構成です。