目次
96年ぶりに日の目を見たアルヴィスのFFレーシングカー
オートモビルカウンシル2023のアルヴィスブースに出展された車両は5台。そのうちブースの目玉であり、本邦初公開となるのが、1927年10月1日にブルックランズ・サーキットで行われた「英国グランプリ」(世界マニファクチュアラー選手権)への参戦を目標に開発され、完成の遅延から出走は叶わなかったものの、翌々週の「JCC200マイルレース」に参戦した1927年型アルヴィスFWDストレート8グランプリ・カーである。
展示車両はモーリス・ハーベイの1号車に続き、2位で予選を通過したジョージ・ダラーがドライブした2号車で、決勝レースでは52周目でエンジントラブルでリタイアしている(優勝はマルコム・キャンベルのブガッティ・タイプ39) 。
レース後はコヴェントリーの廃車置き場で長年放置され、その間にボンネットやリアサスペンション、ラジエターなどは失われたが、それ以外のほぼオリジナルのパーツが残っていたという。
その後は複数の好事家の手を経たのちに、21世紀になってからアルヴィスFWDの研究家であるトニー・コックス氏とアルヴィス社のアラン・ストレート会長が共同でコレクターから購入し、困難なレストア作業を経て、ある程度形になったところで、96年ぶりにオートモビル・カウンシルの会場にてお披露目となった。
この車両はその名の通り、珍しいFWDのレースマシンで、縦置きされたギアボックスの直後には最高出力125bhpを発揮する1.5L直列8気筒DOHCエンジン+ルーツ式スーパーチャージャーのパワーユニットが備わり、一般的なフロントアクスルの代わりに4つの独立したリーフを横置きしたフロントサスが与えられた、当時としても大変ユニークな設計となっている。
この独特の構造のため、当時のライバルたちに比べてノーズは際立って長く、空力安定性を狙ってのことなのか、リアのポインテッドテールも長大だ。その結果、全長は4370mmとこの時代の1.5Lクラスのレーシングカーとしては大柄な車体となっている(参考までに同時期にライバルだったブガッティ・タイプ39の全長は3700mm)。
特異なFFレイアウトは軽量化と低重心化に狙いがあった
アルヴィスがレーシングカーの駆動方式にFFを選んだ理由は、プロペラシャフトを排することによる軽量化と低重心化にあったとされる。
FFレイアウトレーシングカーの元祖は1905年のヴァンダービルドカップに参加したJ・ウォルター・クリスティー(のちに旧ソ連のBT-5軽戦車やT-34中戦車に多大な影響を与えたクリスティー式戦車を開発したことで知られる発明家)のフロント・ドライブ・レーサーが史上初とされているが、1925年にFWDグランプリカーのプロジェクトを始動したアルヴィスはそれに続くものであった。
実験的な性格が強く、エントリーしたレースを完走することなく途中リタイアしたクリスティーに対し、同社の前輪駆動車は1928年のル・マン24時間耐久レースを制し、ある程度まとまった台数を生産したことから、まさしく同社は「前輪駆動のパイオニア」と呼ぶべき存在である。
しかしながら、もともとはレースに勝つために作られたメカニズムであり、高性能化を狙ったロングホイールベースのスポーツサルーンなどの市販車にも転用されたが、本来の用途とは使用目的が大きく異なることもあって、信頼性やメンテナンス性の面で問題があり、アマチュアドライバーには手にあまるクルマであったことから、1928~1931年の4年間にレーシングカーやプロトタイプを含めてわずか155台(生産台数については諸説あり)がラインオフしたに留まった。
それ故にアルヴィスFWD車の現存数は少なく、現在のところ確認されるグランプリマシンは、オートモビル・カウンシル2023に展示されたこの車両が唯一とされている。
誕生から100周年を迎える2027年
ブルックランズ・サーキットへカムバック!
今回はレストア途中での出展ということもあって、今後もコヴェントリーの南西10kmにあるケニルワースにあるアルヴィス・カーカンパニーにて、子会社のレッド・トライアングル社の協力のもと引き続き修復作業が進められるという。現状ではカムシャフトやドライブシャフトの修理が完了しておらずエンジンに組み込まれていないが、2023年後半にはエンジンの修理を完了させる予定だそうだ。順調に作業が進めば、誕生から100年を迎える2027年に、このクルマがかつて戦ったブルックランズ・サーキットでのデモランを計画しているそうだ。それを聞くと今からアルヴィスFWDストレート8グランプリ・カーの完成が待ち遠しくなる。
【Specifications】 ボディサイズ:全長4370mm×全幅1550mm×全高910mm ホイールベース:2435mm エンジン:直列8気筒DOHCルーツ式スーパーチャージャー 排気量:1479cc 最高出力:125bhp トランスミッション:4速MT 駆動方式:FF 最高速度:約200km/h サスペンション形式(前/後):横置きリーフスプリング/縦置きリーフスプリング ブレーキ:前後ドラム式