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価格の違いはパフォーマンスにあらわれる
マツダCX-60の25S Sパッケージは、CX-60のラインアップのなかで最もベーシックなグレードだ。車両本体価格は2WD(FR)が299万2000円(税込。以下同)、4WD(試乗車)が321万7500円である。ラインアップ中最も高価なのはe-SKYACTIV PHEVのプレミアムモダンとプレミアムスポーツで(PHEVは4WDのみの設定)、626万4500円である。
最上位機種とは価格に約2倍の開きがあるし、パフォーマンスに直結するパワートレーンに決定的な違いがあるため、25S系は力強さと燃費に見劣りがするのは事実だ。CX-60には4種類のパワートレーンがあり、2.5L直列4気筒自然吸気エンジンに高出力モーターを組み合わせるPHEVは238kW(323ps)のシステム最高出力と、500Nmの最大トルクを発生する。スムーズで力強い走りが印象的だ。
3.3L直列6気筒ディーゼルエンジンに48Vマイルドハイブリッドシステムを組み合わせたe-SKYACTIV-D 3.3は最高出力187kW(254ps)、最大トルク550Nmを発生。力強さもさることながら、驚異的な燃費が印象に残る。20km/Lの平均燃費を記録することなど朝飯前で、条件によっては25km/Lですら可能だ。CX-60には48Vハイブリッドを持たない素のディーゼル、SKYACTIV-D 3.3もあり、このユニットの最高出力は170kW(231ps)、最大トルクは500Nmとなる。
25S系が搭載するのはSKYACTIV-G 2.5の2.5L直列4気筒自然吸気エンジンだ。最高出力は138kW(188ps)、最大トルクは250Nmである。8速ATを組み合わせるのは、PHEVやディーゼル系と同じだ。数字が物語るように、控え目な性能の持ち主である。WLTCモード燃費はe-SKYACTIV-D 3.3が21.0〜21.1km/Lなのに対し、SKYACTIV-G 2.5を積む25S Sパッケージ(4WD)は13.1km/Lだ。世の常で、価格の違いはパフォーマンスの違いを意味する。
しかし、25S系もCX-60であることに変わりはない。ディテールを除けば、堂々としたスタイルも広々とした室内空間も上位機種と変わりないし、静粛性は極めて高く、高速走行時でも声を張り上げることなく助手席の乗員と会話を楽しむことができる。ベーシックな位置づけらしく室内のトリムは豪華とは言いがたいが、露骨にコストを抑えた感じはしない。シンプルで、居心地のいい空間だ。静的な質感の高さはエクステリアもインテリアも一級品といえる。
発進から巡航スピードに達するまでの弱々しい加速(強く加速しようとすると、盛大なノイズを覚悟する必要がある)と、微低速域で緩い加速と減速の繰り返しを強いられる渋滞走行でのギクシャクしたパワートレーン系の動きを許容できるかどうかが、25S系を受け入れられるかどうかの判断の分かれ目になりそうだ。
豪雨のなか10時間ドライブ
試乗当日は雨のなか、マツダR&Dセンターで試乗車を引き取り、御殿場で行われている他社の試乗会会場に向かった。CX-60の8速ATはダイレクト感と伝達効率を重視してATに一般的なトルクコンバーターを用いず、湿式多板クラッチをスターティングデバイスに用いているのが特徴だ。
ダイレクト感あるフィーリングは確かに素晴らしいが、発進時はクラッチを締結する際に明らかにそれとわかるショックが伝わるし、加速の仕方によっては(緩い加速ほど発生しやすい)2速、3速とシフトアップする際にも、発進時よりは弱いものの、ありがたくはないショックが伝わってくる。変速とは無縁の高速巡航時は当然だが、スムーズで快適だ。
6月2日は台風2号の影響で前線が刺激されて関東から東海〜近畿にかけて激しい雨に見舞われた。御殿場に到着してみれば雨に加えて風も強く、ワイパーがまともに機能しない状態だ。試乗は諦め、待機していたエンジニアと懇談し、後日改めて試乗の機会を得ることにした。
御殿場の試乗会場を出たのは午後4時過ぎだった。いつもなら東京に戻るのだが、この日は鈴鹿サーキットで行われるスーパーGT第3戦の見学に向かうべく、中京方面に移動する必要があった。御殿場ICから東名高速に乗ってみれば、新東名ルートは三ヶ日あたりで通行止めの表示が出ている。ペースは上がらないが仕方ない、東名で移動するかと西に進路を取った途端、東名も浜松ICより西は通行止めの表示が出た。
雨はずっとひどかった。どれだけひどかったかというと、メーターに「安全運転支援システム 一時的に作動しません 周囲の安全を確認して走行してください」のアラートが出るほどだ。長距離の移動だったのでマツダ・レーダー・クルーズ・コントロール(MRCC)+クルージング&トラフィック・サポート(CTS)に頼って楽をしようと思ったが、そうはいかなかった。
一般道に降りる前に腹ごしらえをしておこうと牧之原SAに寄り、フードコードでかつおラーメン・たたき鮪セットを注文し、できあがりを待っているところで館内アナウンスが響いた。いわく、大雨の影響で間もなく施設を封鎖する可能性があると。封鎖した場合には外に出られなくなるので注意してくださいとのことだった。
それは困る。注文をキャンセルしようかと思ったが食欲には勝てず、ジリジリしながらできあがりを待ち、繰り返されるアナウンスを耳にしながらラーメンをすすり、どんぶり飯をかき込んだ。勢い余ってわさびのかたまりを口に入れたらしく、涙が出る。鼻がツーンとするなんてものじゃない。
なんとか封鎖前に脱出(実際に封鎖されたかどうかは知らない)。浜松ICで出口渋滞しているのを知り、手前の磐田ICで降りた。牧之原SAでかつおラーメン・たたき鮪セットの写真を撮ったのが19時31分。磐田ICで東名高速を降り、国道1号線の浜松あたりでナビ画面を確認したのが20時25分で、その時点で目的地までは113kmあり、到着予想時刻は約4時間後の0時17分と表示されていた。
結論からいうと、到着予想時刻は延びに延び、目的地に着いたのは2時6分だった。浜名湖を過ぎ、湖西市を抜けて、23号バイパスに分岐しつつ豊橋市に入ったところでパタリと動かなくなった。大雪の際に幹線道路で立ち往生した車列をニュースで見ることがあるが、あれと同じ状態である。
パタリと流れが止まった原因は、アンダーパスの冠水だった。背の低いクルマでも通過できるほどの水深ではあったが、「背の高いクルマで良かった」と心底感じた瞬間だった。安心感が違う(不安感が軽減される)。25S Sパッケージは車格の割に価格が低めなので、2WD(FR)と4WDの価格差(22万5500円)は相対的に大きくなるが、ワイパーきかない夜のハリケーン的な状況での頼もしさは間違いなく4WDのほうが上だ。
極めて激しい渋滞区間を含みつつ532.1km走り、航続可能距離が41kmと表示されている時点で給油した際の平均燃費は11.2km/Lだった。鈴鹿からの帰路はだいぶスムーズだったので、13km/L台半ばで推移した。CX-60の25S Sパッケージは、燃費はともかく、悪コンディションでもそうでなくても、車内にいて、ステアリングを握って頼もしいクルマであることは確認できた。
マツダCX-60 25S S Package(AWD) 全長×全幅×全高:4740mm×1890mm×1685mm ホイールベース:2870mm 車重:1720kg サスペンション:Fダブルウィッシュボーン式/Rマルチリンク式 駆動方式:AWD エンジン 形式:直列4気筒DOHC 型式:PY-VPS型(SKYACTIV-G2.5) 排気量:2488cc ボア×ストローク:89.0mm×100.0 mm 圧縮比:13.0 最高出力:188ps(138kW)/6000pm 最大トルク:250Nm/3000rpm 燃料供給:DI 燃料:レギュラー 燃料タンク:58ℓ トランスミッション:トルクコンバーターレス8AT 燃費:WLTCモード 13.1km/ℓ 市街地モード10.4km/ℓ 郊外モード:13.1km/ℓ 高速道路:14.8km/ℓ 車両本体価格:321万7500円(オプション:地上波TVチューナー3万3000円、セーフティパッケージ9万9000円、シースルービューパッケージ9万3500円、ドライバー・エマージェンシー・アシストパッケージ7万7000円、ドライビングポジションサポートパッケージ8万2500円、パワーリフトゲートパッケージ8万2500円、BOSEサウンドシステム+12スピーカー8万2500円)オプション込みの価格は376万7500円